東北大、将来の宇宙用大推力電気推進エンジン「ヘリコンスラスタ」を開発中

マイナビニュース / 2020年10月30日 19時40分

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東北大学は10月28日、発散する磁場構造(磁気ノズル)中で膨張するプラズマから電場を排除することにより、電子が磁気ノズルのみと相互作用する系を構築し、磁気ノズル中の電子の熱力学的特性を詳細に計測することに成功したと発表した。同時に、その結果として電子の内部エネルギーが磁気ノズル構造の機械エネルギーへと変換されることを明らかにし、電子の磁力線を横切る拡散過程がその変換効率に大きく影響することを示したことも発表された。

同成果は、東北大大学院工学研究科の高橋和貴准教授、オーストラリア国立大学のChristine Charles教授、同・Rod W Boswell教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米物理学会が発行する「Physical Review Letters」に掲載された。

磁気ノズルを用いた宇宙用エンジンの「無電極プラズマ推進機」は、大推力を得られる電気推進方式として実現が期待されている。高周波プラズマ源によって電離した燃料ガスが磁気ノズル中で自発的に加速することにより、高速で宇宙空間へと噴射して推力を得るという仕組みだ。小惑星探査機「はやぶさ」シリーズで採用されているイオンエンジンも電気推進方式の一種だが、それとはまた異なる方式の電気推進方式である。

この方式は「ヘリコン波放電」による高密度プラズマ生成を利用するため、「ヘリコンスラスタ」とも呼ばれており、近年、多くの研究機関で研究が進められている。ヘリコン波放電とは、磁化プラズマに励起される波動を利用したプラズマ生成法のことだ。高密度プラズマを比較的少ない電力で効率よく生成できることが、特徴のひとつとなっている。

従来の電気推進方式では、プラズマの生成と加速に用いる電極の損傷が問題となっていた。しかし、ヘリコンスラスタではプラズマと接触する金属電極がなく、大電力作動においても推進機の長寿命化が期待されている。また近年では、宇宙ゴミの除去にも適用できる可能性があることが示されており、その室内原理実証も進められているところだ。

ヘリコンスラスタの推力計測は、2011年に、今回の国際共同研究チームの主要メンバーと同じ高橋准教授(当時は岩手大学およびオーストラリア国立大学の所属)、Charles教授、Boswell教授らによって実施された。それにより、磁気ノズルによる推力発生の実証、高エネルギー電子による加速イオンの自発的中和現象、外部磁場の効果、推力損失機構、磁力線伸長現象などに関しての詳細が調べられ、多くの物理現象が解明されたのである。

ヘリコンスラスタでは、高周波電力は主にプラズマ中の電子を加熱し、エネルギーの大部分は電子へと吸収される。従って、電子エネルギーがどのように推進機の機械エネルギーへと変換されるのかを理解することで、今後の推進機の高性能化が実現するとされるという。

一方で室内実験においては、真空容器壁面において「シース」と呼ばれる電位構造が形成され、電子がシステム内に捕捉されるため、磁気ノズルと電子の相互作用のみを実験的に調べることができていなかった。そこで今回、国際共同研究チームは議論を重ね、電子ビーム源を用いた独自のプラズマ発生装置を開発。システム内から電場を排除することに成功し、電子流が断熱膨張を示すことを明らかにした。

国際共同研究チームは今回、その電子ビーム型プラズマ発生装置を用いて、システムから電場を排除した条件において、外部磁場強度を変化させた際の電子エネルギー分布関数の高精度計測を実施。熱力学の観点から膨張時におけるエネルギー授受について分析がなされた。

その結果、磁場強度が十分に強い条件下では、電子流体によって推力が発生。そして磁気ノズルに対して仕事をすることで、電子の内部エネルギーが減少していることがわかった。一方で、磁場強度が弱い場合には磁気ノズルと電子は相互作用をせず、磁気ノズルへ与えられる仕事量も減少することが判明したのである。この現象に関して、プラズマ詳細計測により、磁力線を横切る拡散過程がこの電子膨張の熱力学特性を決定していることが明らかとなった。

国際共同研究チームは、今回の成果により、開発中のヘリコンスラスタの高性能化に寄与することが期待されるとしている。
(波留久泉)

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