映画『百円の恋』安藤サクラ × 新井浩文 対談

NeoL / 2015年1月7日 22時20分

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映画『百円の恋』安藤サクラ × 新井浩文 対談

観終わった後、身体の芯からむくむくと力が沸いてくるような、そんな力強い映画だ。安藤サクラ、新井浩文がダブル主演した話題作『百円の恋』。故・松田優作の志を受け継ぐ脚本家を発掘するため2012年に新設された「松田優作賞」の第1回グランプリを獲得した足立紳の脚本を、『イン・ザ・ヒーロー』(2014年)の武正晴監督が映画化した。2人が演じるのは、ボクシングを通じて“負けっぱなし”の人生から這い上がろうとする32歳ニートのヒロイン・斉藤一子と、挫折続きの人生を送ってきた中年ボクサー・狩野祐二。不屈の魂を持つ者たちの大勝負という意味では、マーティン・スコセッシ監督の大傑作『レイジング・ブル』(1980年)のように熱く、どん底でキラリと輝く“ボーイ・ミーツ・ガール”の物語という意味ではヤン・イクチュン監督の『息もできない』(2008年)のように痛く切ない。数々の共演歴を持ち、互いを深く尊敬する2人に、本作に込めた思いを効いた。


──できあがった映画を観て、感想はいかがでした?

安藤「なんか、すごいかっこいい映画だなって興奮しました。最後、一子さんがリングに上がるシーンで、ハイスピードになって、BGMがワーッと響いてくるところとか。心底かっこいいなって。武(正晴)監督も話してたんですけど、監督はあそこでグッとくるんですって。私はむしろ、ひとりでニヤニヤしちゃってるんですけど(笑)」

新井「うそ? うちは泣いたよ。初めて観たとき、あの試合からラストにかけては、やっぱグッときた」

安藤「でも私も、ああいう感覚を味わったのって、実は今回が初めてだった。極限まで肉体を作り込んだことも影響してるのかもしれないけど、最後の方はなんか自分じゃない人を観ているみたいで……。だからニヤニヤしちゃうのかも。そこは武さんの演出の凄さだなって」

新井「うん。いい映画ってみんなそうだけど、あるシーンが独立して素晴らしいんじゃなくて、そこに至るまでのフリみたいなものが最初からちゃんと積み上げられてる。だからグッとくるんだよね。まぁ自分が出てる場面は小っ恥ずかしいというか…。どの作品もそうだけど、やっぱ反省が先に立っちゃうので。『安藤サクラ、すげーなぁ』というのが、うちの素直な感想でした」

──新井さんは今回、「安藤サクラが出るなら」と出演オファーを快諾されたとか。

新井「はい。ホン(台本)も面白かったし。これまで共演したり、出演作を観たりして、安藤サクラがすごい女優さんだってことも、身に染みて知ってましたから。このホンをサクラが演ったら、ものすごいことが起きるに違いないと」

──安藤さんは、ご自分からオーディションを受けたんですよね。脚本のどこにそんなに惹かれたんでしょう?

安藤「うーん……やっぱりこう、自分を闘わせてくれるというか。このホンなら全力で闘えるなって。そういう作品に出会えるチャンスってなかなか無いので」

──この映画、ちょっとした日常描写の中に、記憶に残る名シーンがほんとたくさんあるんですよね。

安藤「あ、うれしいです! たとえば、たとえばどこですか?」

──ボクシングと出会って、ダルダルだった一子の身体が少しずつ絞られていくでしょう。100均コンビニの棚だし作業中に思わず出ちゃうシャドウボクシングも、どんどん動きが様になっていって。初めてフックがビシッと決まった瞬間、ゾクッとしました。ボクサーの動きをちゃんと見せるのって、大変だったのでは?

安藤「そうですね、それはすごくプレッシャーでした。私は中学校の頃に、少しだけボクシングジムに通ったことがあって。ボクシングという競技が大好きだし、すごく尊敬もしてるんです。だからこそ本気で取り組んでる人に失礼なことはしたくなかったというか……。『だって映画でしょ』とか『あれは役者さんがやってることだし』と思われないボクシングをしたかったので」




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──劇中でも「小林トレーナー」役で登場する松浦慎一郎さんが、本格的なボクシング指導を担当されて。

安藤「練習に入る前、武さんと松浦さんと相談したときに、監督からは『とにかく強くしてください』ってすごくシンプルな注文だったんです(笑)。『これができるようになる』とか『この技術を習得する』とか、具体的な目標を設定するんじゃなくて。とにかく、行けるとこまでいこうと。ハードルが一気に上がりました。ファイトスタイルにしても、私自身はわりときれいなアウトボクシングが好きなんですけど……」

新井「ははは。玄人っぽい。でも、役柄と真逆じゃない? 映画に出てくる一子は、殴られても殴られてもガツガツいくタイプでしょう」

安藤「そうなの(笑)。でも練習シーンはきれいに仕上げたくて必死だった」

──そんな安藤さんを、新井さんは現場でどう眺めてました?

新井「トレーニングに没頭するサクラのしんどさは、今回、現場にいるスタッフ全員が感じてたと思います。それはもう、大変な努力だったから。しかも、映画の冒頭で一度、思いきり緩んだ体型を見せておいて。それを短い撮影期間で絞らなきゃいけなかったから。余計ハードルが高かった。でも、俳優部的に言うと、それはもうどうしようもないんですよね。脇から手助けもできないし。おのおのでやるしかない仕事なんで」

安藤「ふふふふ」

新井「ただ、さっき話したラストの試合シーンだけどは、『これ、マジで大丈夫か?』ってドキドキしましたね。本当にいつ倒れてもおかしくないくらい、凄いパンチががんがん入ってたし……。自分も役者として現場に参加しながら、素で心配だった」

安藤「でもね、私も新井くんを見て、『あ、やばい!』と思ったんだよ」

新井「ん?」

安藤「私が身体を絞るのは、撮影の途中からだったでしょう。新井くんが、クランクイン前『え、そこまでやるの?』と思うくらいストイックだったから(笑)。これはやばい、私もバッキバキに仕上げなきゃって」

新井「今回のうちの仕事は、サクラの足を引っぱらないことだって最初から思ってたので。それが具体的に何かっていうと、ボクサーの身体に見えるってことなんですよね。そこだけ説得力を持たせられれば、あとはサクラがどうにでもしてくれる。ただ最近はもう、普段ダルダルなんでね(笑)。そこだけは、やんなきゃと」

──落ち目の中年ボクサー・狩野祐二と、元ニートのヒロイン・斉藤一子。それぞれのキャラクターについては?

新井「これはどの映画でも同じなんですけど、いわゆる共感というのはあまりないですね。役と自分がぴったり重なるなんてことは、ほとんど起きないし。今回の狩野は、イマドキの言葉でいうとツンデレっていうんですか?」

安藤「あはははははは!」

新井「まずあれが理解できない。ホンを読んでても『へえ、ここで優しくしないんだ……』とか、『え、ここで優しくするの?』みたいなことの連続で。よく分かんないヤツだなぁと(笑)」

──そのよく分からない不器用さが、映画的には素晴らしい効果を挙げてるんですけどね(笑)。どん底を生きてる主人公の2人が、実はすごく純情で。だからボクシングを描きながら、身を切るように切ない“ボーイ・ミーツ・ガール”の物語としても見られる。しかも、2人のセリフが少ないでしょう。

新井「うん」

安藤「われわれ2人はそうですね。そのかわりに、坂田(聡:コンビニの同僚役)さんがずっと喋ってますね(笑)」

新井「あれ、強烈だよね(笑)」

安藤「最高ですよね(笑)。そういう登場人物のキャラクターというか、群像劇としてのバランスみたいなものも、すごく好きです」




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──安藤さんは一子を演じるにあたって、何を一番大切にしていました?

安藤「もちろん身体のことも大きかったですけど、私も一子さんという人は、今まで出てきた映画の中でも一番と言っていいくらい、自分と重なるところがなかった役なんですよね。それでいてなんだろう、すごくワザトラシクなりがちでもあるというか。30歳をすぎて引きこもりで、見かけもわかりやすくブスで、家を飛び出てコンビニでバイト始めて……そういう役、いかにも私、演ってそうじゃないですか(笑)」

新井「ははは」

安藤「でも、それは絶対に違うなって思った。少しでも『いわゆる』って感じになっちゃったら、一子さんじゃないなって。ただ暗い女っていうのとも違うし、単に自堕落なだけの子でもないし。すごく微妙なところにいかなきゃいけないんだって。それは撮影中ずーっと思ってました」

──それが僕が感じた「純情さ」なのかもしれませんね。 

安藤「なんだろう……撮り終わったときに監督と話したのは、『これ、結局ボクシングの映画じゃないよね』って。一子さんと祐二にしても、その周りにいる家族やバイトの同僚にしても、みんなヘンな人たちばかりで。でも、すごく愛おしいというか」

新井「うん。人生のタフな局面を生きてる人たちを描いたドラマとして、めちゃめちゃ面白いと思う。そこは見て損しないと思うんですけどね」

──最後に、クリープハイプが歌う主題歌「百八円の恋」が本当にすばらしかったです。ラストシーンで尾崎(世界観)さんの歌詞が聞こえてきたとき、ウワーッと思った。あんなに歌詞がストレートに突き刺さるエンディングテーマは、久々でした。

新井「うん。めちゃくちゃマッチしてますよね」

安藤「あそこはほんとゾクゾクッとしました!」

新井「全部が全部そうとは言わないけれど、最近の日本映画を観てると、『わ、なんでこの歌?』っていうエンディングテーマも多いじゃないですか。まぁ政治的なこともあるのかもしれないけれど……。でも今回の主題歌は、尾崎さんがものすごく思いを込めて書いてくれた曲で。映画という“作品”と音楽という“作品”が、いい意味でちゃんとぶつかってる。そういう映画に出会えると素直に嬉しいですよ、やっぱり」

安藤「しかも尾崎さんがこの曲を書いてくださったのって、まだクランクインする前でしょう。でも歌詞が、現場でうまれたものとピタッと合っていてびっくりした!ホントにちょっとしたニュアンスまで、まるで撮影をずっと観てたみたいで……。そういうことって、ほんとにあるんだなって」

 

 

撮影 中野修也/photo  Shuya Nakano

文 大谷隆之/text  Takayuki Otani


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『百円の恋』


安藤サクラ 新井浩文


稲川実代子 早織 宇野祥平 坂田 聡 沖田裕樹


吉村界人 松浦慎一郎 ・ 伊藤洋三郎 重松 収/根岸季衣


監督:武正晴


12月20日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次ロードショー!


(C)2014東映ビデオ/R15+


 

32歳の一子(安藤サクラ)は実家にひきこもり、自堕落な日々を送っていた。ある日、離婚して子連れで実家に帰ってきた妹の二三子と喧嘩になってしまい、ヤケクソで家を出て一人暮らしを始める。夜な夜な買い食いしていた百円ショップで深夜労働にありつくが、そこは底辺の人間たちの巣窟だった。そんな冴えない日々の中、一子は帰り道に通るボクシングジムで寡黙に練習するボクサー狩野(新井浩文)と出会い、遅咲きの恋が始まる。しかし、ささやかな幸せの日々は長くは続かなかった。どうしてもうまくいかない日々の中で、衝動的に自らボクシングを始める一子。人生のリターンマッチのゴングが鳴り響こうとしていた――。


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