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ウィスット・ポンニミット × Salyu「REFRESH! Mamuang」インタビュー

NeoL / 2015年11月29日 0時26分

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ウィスット・ポンニミット × Salyu「REFRESH! Mamuang」インタビュー

日本でも高い人気を誇るタイのマンガ家、通称“タムくん”ことウィスット・ポンニミットの展覧会『REFRESH! Mamuang』がROPPONGI HILLS A/D GALLERYにて開催中。これを記念して、タムくんとSalyuの対談が実現した。タイや日本でのイベント共演など、近年交流を重ねている2人。日本のマンガ作品をルーツにし、2003年の初来日以来、さまざまな日本人アーティストとコラボレーションしているタムくんと、彼の作品のファンでもあるSalyuのリラックスしたクロストークを楽しんでほしい。


 

——2人の最初の出会いは?

Salyu「3年前ですね。タイの『Big Mountain Music Festival』というフェスにsalyu × salyuで出演して。タムくんはそのときクラムボンの(原田)郁子ちゃんと演奏していたんですね」

タム「僕はSalyu ちゃんのことを全然知らなかったんだけど、フェスティバルのボスとかいろんな人が『タムくん、salyu × salyuはヤバいから観たほうがいいよ』って言っていて。最初はちょっとめんどくせえって思ってたの(笑)」

Salyu「あははははは」

タム「でも、ライブを観に行ったら他の音楽と全然違うんだよね。音楽が自分の当たったことのない場所に当たってきたの。『ダダダダダダッ!!』って感じ(笑)」

Salyu「(『北斗の拳』の)ケンシロウみたいに? 『アタタタタッ!』って(笑)」

タム「ホントにちょっとケンシロウみたいな感じだった(笑)。メロディがすごくて、『(旋律が)どっちに行くの? どっち? どっち?』みたいな感じ。あと、たくさんの光が射すような感じだった」

Sslyu「『s(o)un(d)beams』」というアルバムを引っさげたライブだったので、それは言い得て妙ですね」

タム「ホントに? それ知らなかった!」

Salyu「そうなの。(アルバムタイトル曲の)『s(o)un(d)beams』という曲は光を表現してるの」

タム「じゃあ合ってるじゃん。すげえ(笑)」




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Salyu「うれしい。あのとき初めてタイでライブをしたんだけど、お客さんも喜んでくれて強いアプローズを返してくれたのがうれしくて。で、ステージを降りてすぐにタムくんが『すごいよかった〜!』って言ってくれたんだよね」

タム「『すごいよかった〜!』では足りないくらいよかったよ」

Salyu「言葉は具体的に『すごいよかった〜!』ではなかったと思うけど、ずっと胸に手を当てて気持ちを伝えてくれて。初めてのタイだったからやっぱり不安もあったんだけど、お客さんやタムくんの反応に触れて、心が安心したんだよね」

タム「こんな感じだったよ(と、言ってiPhoneに表示された『グラップラー刃牙』の刃牙が驚いた表情をしている画像をSalyuに見せる)」

Salyu「あはははは! あ、そうだ!  『Big Mountain Music Festival』で私たちが最後に歌った『続きを』という曲の歌詞をタムくんがタイ語に訳して、それをスクリーンに映してくれたんだよね!」

タム「そう、『Big Mountain Music Festival』のオーガナイズや照明をやってるチームのジロウ(遠藤治郎)に『この曲は地震(東日本大震災)のときの気持ちも入ってるから、タイ人も歌詞がわかったほうがいいと思う』ってライブ前に言われたの。で、ノートにタイ語に訳した歌詞を書いて、それをジロウがその場でスクリーンに映したんだよね」

Salyu「あ、リアルタイムで映してくれていたんだ。それは初めて知った。『続きを』は大震災の前に作った曲なのね。アルバムのリリースも震災直後に予定されていたんだけど、少しだけ延期をして。でも、結果的に『続きを』という曲は大震災後の日本に対する意味が生まれたし、あの曲の歌詞をタムくんがタイのオーディエンスに伝えてくれたことはとてもありがたかったです」

タム「salyu × salyuの曲とは知らずに歌詞を訳して、ライブを観に行ったら『さっき僕が書いた歌詞じゃん!』ってなって(笑)。(オーディエンスが)みんなちゃんと歌詞を読んでくれていたからよかった」

——2回目に会ったのは?

Salyu「2回目もタイなんですよ。『Big Mountain Music Festival』の翌年ですね。タイガービールがスポンサーのイベントに小山田(圭吾/コーネリアス)さんがキュレーターとして参加して、salyu × salyuとバッファロー・ドーターと青葉市子ちゃんが出演したんです。タムくんはイベントのスペシャルゲストとして参加して」

タム「『Big Mountain Music Festival』のときのsalyu × salyuのライブが人気だったから、日本人のアーティストのイベントをタイでやろうよってなって。僕は普通に遊びに行こうと思ってたんだけど、(主催者に)『タムくんも出てほしい』って言われて、『え〜! みんな神みたいなアーティストばかりだし、すみません』って感じで(笑)」

Salyu「そのときに初めてタムくんのライブを観たんです。アニメーションを流しながら鍵盤やギターを弾いて歌うスタイルのライブを。すごく感動した。私はタムくんの『love elevator』という作品が大好きで。鉛筆で描いたような柔らかい線やかわいらしいタッチで、人間の営みにおける深い愛情を描いていて。素晴らしいなって思った」

タム「ありがとう。照れるね」




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Salyu「タイという街も穏やかな営みが流れてると思った。ポッドさんというタムくんのお友だちのアーティストにいろんな場所に連れて行ってもらって。ポッドさんもタムくんのようにすごくカジュアルに接してくれるんだけど、ポッドさんと街を歩いてると大騒ぎになるんだよね。それくらいのスーパースターで」

タム「そうそう。超有名人(笑)。ポッドさんは、僕と郁子ちゃんが日本でリリースしたアルバム(タム&原田郁子名義の『Baan』)でも1曲参加してもらってるし、『Big Mountain Music Festival』のときも僕と郁子ちゃんとボッドさんの3人でライブしてたんだよ」

Salyu「タムくんの印象が強かったから気づかなかった!(笑)。失礼しました。ポッドさんと小山田さんとバッファロー・ドーターの(大野)由美子さんの4人で足裏マッサージを受けたりして(笑)。気さくで素敵な人ですね。あと、文化の違いを強く感じたのは、僧侶が街中をよく歩いてるのを見たんだけど、みんな絶対にしゃべりかけないよね。そういうルールがあるんだよね?」

タム「ルールがあるわけじゃないんだけど、みんな話しかけないのが自然」

Salyu「空気が厳粛な感じになるんだよね」

タム「タイにいると意識しないけど、確かにそうだね。だって話しかけたら変じゃん。特に女の人は(僧侶を)避けるかも。たとえばセクシーな格好をしてる女の子の姿をお坊さんに見せたら修行の邪魔になるじゃん。だから自然と気を遣う感じ」

Salyu「そういうふうに誰もがあたりまえのようにモラルを持っていることに驚いた。その一方で、イベントに出演して音楽を楽しんでくれる若者がいることを感じたり、ポッドさんにオシャレなカフェに連れて行ってもらったりして、モダンな文化も築かれているんだなって思いましたね」

タム「タイはオシャレな人はオシャレだけど、文化に興味のない人もめっちゃ多くて、その幅が激しい。日本みたいにみんなが普通に文化に接してる社会ではない。だって、僕がマンガを描いてたら、うちのお母さんは『これは何を描いてるの? これは口なの?』って感じだよ(笑)」

Salyu「あははははは」

タム「でも、シュールなマンガをわかってくれる人もいて、その差がすごく激しい。まだまだ文化が発展してない国だよ。僕が郁子ちゃんと知り合ったら、Salyuちゃんとも繋がるとかそういういいコミュニティも少ないしね。音楽とファッションが繋がったりすることもあまりない。日本は繋がるもんね」

Salyu「個人で活動している感じが強いんだ」

タム「そうそう」

——タムくんは自分の活動を通してタイの文化をもっとよくしたいという思いを持ってるんですか?

タム「僕はそんな神様じゃないし、みんなをコントロールはできないよ。ただ自分の仕事をやって、それに興味を持ってくれる人がいたら、自然と文化になるのかなって感じ。僕はタイという国に生まれたおもしろい花って感じだから。でも、これをきれいと思ってくれる人がいるなら、もっと成長します。タイでもたまたまいい感じになってるよ」

——たまたまという感覚なんだ?

タイ「たまたま。だって、僕はずっと日本のマンガを読んでたから、日本のエネルギーが自分の中にいっぱい入ってるからね」




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——タムくんが最初に来日したときは日本に対してどんな印象を受けましたか?

タム「初めて日本に来たのが2003年で。そのときは日本語も全然しゃべれなかったし、日本人の世界に入れなかった。日本のことはめっちゃ好きなのに難しいなって。デパートの店員さんとかめっちゃ丁寧じゃん? 何かを訊いたらすごく丁寧な言葉で答えてくれるんだけど、僕はそんな丁寧な言葉は知らなかったから」

——敬語に違和感を覚えたんだ。

タム「そう。あと、日本に来る前は、日本=『ドラえもん』だったから。マンションが多くて、『あれ〜? 『ドラえもん』に出てくるような家がないなあ、スネ夫くんの家ないなあ』って思ったし(笑)」

——確かに『ドラえもん』の街は一軒家ばかりだしね(笑)。

タム「そうそう。あと、日本人はみんな歩きながらゲームしてるのかなと思ってたけど、実際に日本に来てみたらみんながゲームのことを知ってるわけじゃないし、みんながマンガを好きなわけじゃない。大人が多いなって思った」

Salyu「ああ、なるほど。日本ではマンガやゲームを取り分け愛してる人たちはオタクと呼ばれたりするからね」

タム「そこはタイと全然違う。タイは日本みたいにマンガ(作品)が多くないからジャンル分けもなくて、オタクみたいな人はいないんだよね。日本はマンガが多いから、ジャンルを分けなくちゃいけないじゃん。これはこれって分けないと頭が混乱しちゃう。でも、ジャンルを分けるのはちょっと寂しいと思った。日本にマンガがいっぱいあるのはうれしいんだけど、『ああ、僕はマンガの世界に入っちゃったなあ』って思った。いろんなマンガがあるし、フィギュアとかもすげえなって思ったけど、その世界に入りすぎちゃうと普通の生活を忘れちゃうなって」

Salyu「ああ、タイのほうが日常とマンガが地続きにある感じなんだ」

タム「僕はそういうことを感じながらマンガを描いてるから、僕のマンガは普通の生活をしてる人でも気軽に読めると思う」

Salyu「そうだね。そう思う」

タム「ひとつの世界に入りすぎるのは怖いなと思う。仕事だってそう。人生は仕事だけじゃないし、仕事だけの世界に入っちゃうと夢がないよね。日本に来てよかったなと思ったことは、自分が違う人になれたような気がしたから。日本語学校に通ったら、ネパール人とか中国人とかいろんな国の人がいて、みんな自分のことを知らないし、ただの人間になれたのが超うれしかった。ホントは自分のことを誰も知らない状態がいちばん気持ちいいと思うし」

Salyu「そういう状態がいちばん自由だよね。タムくんが言ってることはよくわかる。社会の中で、私だったらSalyuというアーティスト名があって、立場があって、そこにいろんな責任が生まれる。しかもその責任という色彩の中には、過去や未来が含まれていて、『人は自分のことをこう思うから、こうなるべきだろうか?』とかいろいろ考えちゃうんですよね。そういう発想に寄りすぎると、自分で自分の可能性を狭めてしまうこともあると思う。だからいつでも変化できる自分でいることはすごく大事だなって思う」




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——タムくんもSalyuさんもすごくニュートラルな感覚を持った人だと思います。

Salyu「それは心がけてることでもありますね」

タム「海外旅行は責任がないから、軽くて気持ちいいよね」

Salyu「うん、自分に新しい風が吹く感じがする」

タム「うん、フレッシュ。僕は日本語が大好きだから日本に来たし、日本語も覚えたけど、ホントはしゃべってる人の言葉の意味がわからないほうが気持ちいいと思う」

Salyu「たとえばタイに行って、『ありがとう』の気持ちを伝えるときに『コップンカー』って言う瞬間のテンションってすごいと思うんですよね。人と接するときに日本語で『ありがとう』って言うときとは全然違う緊張感や新鮮さが生まれる。それってとても大切なことだなって思う」

タム「うん、そうだね」

——2人にはいつか作品上でコラボレーションしてほしいですね。

タム「Salyuちゃんの音楽はパーフェクトだから、僕の入るスペースはないよ」

Salyu「そんなこと言わないで(笑)」

タム「MVとかもめっちゃ完璧だし」

Salyu「タムくんがもしMVを作ってくれるなら、私自身が観てみたい」

タム「頼んでくれたらがんばる。『この曲は合うかも?』って思いついたら言って。遊ぶように作ってみたい。暇なとき勝手に作ろうかな(笑)」

Salyu「うん、そういうのがいいね!(笑)」


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プレゼント:ウィスット・ポンニミットとSalyuのサイン入りステッカーを1名様にプレゼントします。空メールを送信するとプレゼントに応募できます。(←クリック)ご応募お待ちしております。
後日当選された方にはいただいたメールアドレス宛にNeoL編集部よりご連絡させていただきます。

撮影 依田純子/photo  Junko Yoda


文 三宅正一/text  Shoichi Miyake(Q2)


編集 桑原亮子/edit Ryoko Kuwahara


REFRESH! Mamuang


会期:2015年11月13日(金)〜12月13日(日) 会期中無休


(11/15 15:00-17:00はイベント開催のため会場内の作品をご覧いただくことはできません)


会場: 六本木ヒルズ A/D ギャラリー (六本木ヒルズウエストウォーク3F 六本木ヒルズアート&デザインストア内 )


tel 03-6406-6875


開館時間: 12:00〜20:00


入場料: 無料


ウィスット・ポンニミット

1976年、タイ・バンコク生まれ。愛称はタム。1998年バンコク でマンガ家としてデビュー。! 2003年から2006年神戸在住の後、現在バンコクを拠点に作品制作 中。「マムアン」シリーズ、『ブランコ』(小学館)、『ヒーシーイッ ト』 (ナナロク社)などマンガ作品多数。2005年横浜トリエンナーレ 参加。2009年『ヒーシーイットアクア』が文化庁メディア芸術祭マ ンガ部門奨励賞受賞。2015年バンコクで個展「MELO HOUSE」を 開催。アニメーションや音楽制作も行い、音楽作品に原田郁子との 共作「Baan」(2013年)がある。


http://www.wisutponnimit.com


Salyu


2000年、Lily Chou-Chouとして2枚のシングルと1枚のアルバムをリリースする。2004年、小林武史プロデュースのもとSalyuとしてデビュー。以降17枚のシングル、4枚のアルバム、1枚のベストアルバムをリリース。2011年には、「salyu × salyu」として小山田圭吾との共同プロデュース作品「s(o)un(d)beams」を発表し、数多くの海外フェス出演により国外でも注目される。2013年には「攻殻機動隊ARISE border:1 Ghost Paina」のED曲を担当し、大きな反響を呼ぶ。2014年はSalyuとしてデビュー10周年を迎え、リリースやライブなど精力的に活動。今年4月22日には5枚目となるオリジナルアルバムをリリース。12月7日(月)、10日(木)東京・下北沢GARDENにて 『a brand new concert issue " m i n i m a " - ミニマ - Salyu × 小林武史 - session 1 - 』を開催。


http://l-tike.com(Lコード:73018)


http://www.salyu.jp

 

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http://www.neol.jp/culture/

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