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王舟『PICTURE』インタビュー+KINDNESS コメント

NeoL / 2016年2月25日 19時42分

写真

王舟『PICTURE』インタビュー+KINDNESS コメント

王舟のニューアルバム『PICTURE』が素晴らしい。多彩なゲストミュージシャンと交歓するように制作した前作『Wang』から一転して、今作は王舟がたったひとりで作り上げた。宅録ですべての音とつぶさに戯れ、ミックスまでも自ら手がけたことで、不完全な美しさと揺らぎの魅惑に満ちた王舟の特異なポップミュージック像を全11曲にわたって構築している。不朽の名盤として長く愛されると思う。


 

——アルバムの内容もそうですけど、ジャケットも素晴らしいですね。

王舟「ありがとうございます」

——この油絵を描いたのは韓国のアーティストなんですよね?

王舟「そうです。オム・ユジョンさんという画家で。仲原(レーベルの担当スタッフ)が韓国に行ったときにオムさんのZINEをたまたま買って見せてくれたんです」

——『PICTURE』のために描き下ろした作品ではないんですよね?

王舟「描き下ろしではないです」

——この油絵を観たときに王舟さんは『PICTURE』の作品性とリンクする部分を感じたんですか?

王舟「リンクすると思ったというよりは、この絵をジャケットにすることで作品自体が開けて広がる感じになるかなと思ったんですよね」

——作品に奥行きが生まれると思ったと。

王舟「そうですね」




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――『PICTURE』の何が素晴らしいって、王舟さんの音楽性の核である不完全の美学が、愛おしいまでに研ぎ澄まされていて。

王舟「うん、完成度の高い曲を作るとそこで終わってしまう感じがして。いつまでも完成しないことで、曲が終わらないよさみたいなものを出せるんじゃないかなって」

——その意味においても今作をすべてひとりで宅録で作り上げたのは大きなポイントですよね。

王舟「そうですね。ミックスも自分でやったので」

——昨年の12月30日にクルマに乗って東京の下町あたりを走りながらずっとこのアルバムを聴いてたんですね。流れる風景は日常的なんだけど、オフィス街のあたりは極端に人が少なくて、異世界に迷い込んだような感覚さえ覚えて。その感覚とこのアルバムがものすごくマッチして。

王舟「ああ、うれしいですね。実は僕が今住んでる場所は東京の下町のほうで」

——あ、そうなんだ。

王舟「そうなんですよ。そこは土日祝日はホントに人が少ないんですよ。無意識ですけど、確かにそういう風景が作品にフィードバックしてるところはあるかもしれない」

——ずっと阿佐ヶ谷に住んでいたと思うんですけど、引っ越した理由はなんだったんですか?

王舟「阿佐ヶ谷に住んでるときは友だちがいっぱい家に遊びに来てくれて、毎日飲んだりしてたんですけど。ふと、そういう環境を変えたいなと思ったんですよね」

——それはなぜ?

王舟「なんだろうな? それこそ、前作からの変化に通じる話なんですけど、僕は前までは全然友だちがいなかったんですよ。20代中盤のころまでは。それで、友だちを作りたいなあと思って、少しずつ友だちができて、気づいたら友だちがいっぱいいて。そこからまたもう一度気持ちを切り替えたくなったんですよね。今作の次はまたたくさんの人と関わるような気がするんですけどね。その前にひとりで暮らしたり、人が少ない場所に行くチャンスは今しかないかなと思ったんです。それで今作はひとりで作ろうと思って」

——そういう人との関わり方って王舟さんにとって振り子のような感じなんですかね?

王舟「そうかもしれないですね。換気するような感じなのかな。それぞれのよさと違いを感じたい、みたいな」

——実際に引っ越して、ひとりの時間の豊かさを感じる瞬間はたくさんありましたか?

王舟「まあ、友だちがいたほうが楽しいですけどね(笑)」

——そりゃそうですよね(笑)。

王舟「でも、楽しいのに飽きていた自分がいて。同じ種類の楽しさが続くのもどうなのかなって」

——わかる気がする。楽しい夜の記憶も同じような状況が続くと差異がなくなるというか。

王舟「そうそう。俺はそもそもリアルタイムで体感していない感覚を音楽に投影するところがあって。今作はひとりで、宅録で作ったんだけど、曲に入ってる音数が多いのは、友だちといるときの記憶を思い返してるというか……」

——なるほど。過去の友好をひとりで音楽化するという。

王舟「そうですね」

——その制作作業はどうでしたか?

王舟「けっこう大変でしたね。でも、昔からモノ作りはひとりでやるものという考え方をそもそも持ってるし、前作も曲を作る段階では似たような感じだったんですよね。作品を完成させるためにいろんな人の力を借りるのも楽しいんですけど、今回は全部ひとりでやって。前作は自分が媒介となっていろんなミュージシャンと演奏する場所を作るような感覚だったんですけど、今作は自分のために場所を作るような感じでしたね」




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——王舟さんってかなり多作家じゃないですか。

王舟「はい。デモはいっぱい作りますね」

——アルバムの全体像が見えたタイミングは?

王舟「『ディスコブラジル』(12インチシングル)を入れることは最初から決めていて。あとは1曲目の『Roji』は昔からある曲で、これも入れたいなと。で、3曲目の『Moebius』ができたときにアルバムの振れ幅が見えてラクになったんですよね。これでいろんな曲を入れられるなと思って。そこからは引き算というか、作品としてあまり濃くなりすぎないようにと思ったくらいですね」

——そもそも「ディスコブラジル」という曲自体がすごく奥行きがあって、いろんなアレンジを受け入れられるキャパシティがあると思うんですよね。アルバムバージョンではさらにミニマルなサウンドになっていて。

王舟「そうですね。ずっとライブでやっていたんですけど、初期はもっとディスコっぽかったんですよね。だんだんアレンジが変わっていって。アルバムバージョンも家にひとりでいる感じがいいかなと。『ディスコブラジル(Alone)』というタイトルになってるし」

——日本のさまざまな市井の風景が揺らぎながら流れていくKINDNESSが監督を務めた「ディスコブラジル」のMVもとても素敵で。

王舟「そうそう、KINDNESSの編集はすごかった」

——王舟さんと同じく異邦人然とした視点だなと。

王舟「日本人の視点っぽくないですよね。すごく日常的な風景なんだけど、見たことの日常がそこにあるみたいな。編集自体はけっこうワイルドなんですよね。曲とリンクしてる瞬間もあれば、いきなりリンクすることをやめたり。曲と映像のテンポが合ってるようで合ってなかったりして。そこがおもしろい」

——まさにそれも不完全な美学というか。

王舟「うん、そういう感じですね。ズレてる感じがすごくいいなって。MVも曲と完璧にリンクしているからいいわけじゃないって思うんですよね」

——ただ、音楽の気持ちよさを十分に理解している人がズレを楽しむのと、リズム感のない素人がどうしようもなくズレてしまうのとでは、その位相は異なりますよね。

王舟「そうですね。でも、俺はどちらかというと、音楽を全然知らない人が生むズレを受け入れるほうがおもしろいと思うんですよ。ズレの気持ちよさ生むという意味では音楽をやってる人のほうが絶対いいと思いますけど。でも、その天然な感じを受け入れられる懐の大きさがあるかが重要だと思うんですよね。それは音楽に限らずいろんなカルチャーにおいてもそうだと思うんですけどね」

——なるほど。アート全般において。

王舟「そう。ただ、そうなると、結局どこに境界線があるか曖昧になるから難しいんですけどね。でも、自分が曲を作るうえでも無意識に生まれるものの気持ちよさは大切にしたいですね。“何かが降りてくる”ってそういうことなのかなと思うんですよね」

——知識や裏づける超えるインスピレーションというか。それは人が表現に向かう最初の動機かもしれないですよね。

王舟「そう思いますね。自分の人間性がそのまま出ちゃってるんだけど、自分でもそれをいいなと思える。そういうときに音楽で自分の役割を持てるような気がするんですよね」

——なるほど、それもまた王舟さんの不完全な美学に通じるかもしれない。

王舟「なんかちょっと自分が作る音楽を客観的に見てるもうひとりの自分がいる感覚があって。そいつが不完全なものを求めてる気がするんですよね。単にだらけてるだけなのかもしれないですけど(笑)」

——音楽として襟を正さなくていいよという自分がいるみたいな。

王舟「襟を正す目的があればするけど、わざわざ正す必要がないかなって」

——そういう感覚って音楽表現をする前からありましたか?

王舟「音楽を作り始めてからのような気がしますね。いや、でもどうだろうな? 小さいころとか、親戚のおじさんに飛行機の絵を描いてほしいと頼むと、おじさんはべつに絵が上手いわけじゃないけど、描いてくれるんですよ。その感じがよかったんですよね。絵のクオリティはどうでもよくて、おじさんが絵を描いてる姿が好きで」

——その行為や動作が。

王舟「そうそう。あとは、近所の人が鼻歌を口ずさんでいたりとか、そういうことってすごく日常的な行為や風景なんだけど、“大人の日常”とはちょっとかけ離れてる気がしていて。でも、俺はそうやって何気ない日常のなかで生まれたものが好きで。だから、今作も一般的な制作とは違う順序を踏んで作業を進めていくのがおもしろかったんですよね」

——二度とない一回性を謳歌している作品という趣が強い。

王舟「自分でもこういうアルバムをまた作ることはできないかもしれないなと思いますね。今作は『ここでこの楽器とこの楽器がぶつかったらどういう鳴り方がするんだろう?』という好奇心でいろいろ試したりして。それでこういうバランスになったというのもあると思いますね」




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——サウンド面で、リスナーとして最近聴いてる作品がインプットになったりすることはあるんですか?

王舟「いや、ほとんどないですね」

——やっぱりそうですよね。

王舟「でも、ちょうど曲を打ち込みで作り始めていたころにMockyが好きでよく聴いてたかな」

——ああ、音楽的な記号性のなさであり独立したポップミュージック像という部分でMockyと王舟さんは通じる部分があると思いますね。

王舟「Mockyの曲もいろんな要素が入ってるんだけど、新しさというよりオーソドックスに感じられる。そこがいいなと思いますね」

——曲の背景にはいろんなアーカイブがあるんだろうけど、くっきりした輪郭で見える影響は感じないというかね。

王舟「俺は自分の演奏スキルだったり、アレンジでやれることだったり、まだまだわからないことが多くて。だから、いろいろ試したくなると思うんです。自然な流れで要素も多くなっていくというか」

——「Moebius」も長いイントロの出だしのキックとスネアはマイケル・ジャクソンの「Love Never Felt So Good」のような曲が始まりそうなムードがあるんだけど、シンセやスティールパンが力強く揺らぐ不思議なダンストラックになっていくんですけど。

王舟「ね。なんかこういう感じになりましたね(笑)」

——「冬の夜」のベースラインもマイケルっぽさがありますよね。全体的にはシカゴ音響派っぽいムードもあるんだけど。

王舟「他の人にも言われたんですけど、言われてみたらベースラインがめっちゃマイケルだなってあとから思いました(笑)。ちょっと『Billie Jean』っぽいなって。でも、マイケルもそんなに詳しくないんですけどね」

——影響という言葉をネガティブなニュアンスで解釈すると、それに毒されるということでもあると思うんですけど、王舟さんは結局なんの音楽にも毒されてないと思うんですよね。

王舟「確かにそうかもしれないですね。でも、長く音楽を続けていくにはちょっとくらいは毒されたほうがモチベーションの基準ができるのかなとは思うんですけどね(笑)。だから、ひとつのジャンルを突き詰めてる人たちをいいなと思うこともありますよ。カッコいいなって」

——でも、王舟さんはそうはならないでしょうね。

王舟「俺はなれないでしょうね」

――王舟さんの音楽に触れて、最初に言ったようにパラレルワールドに迷い込んだような感覚を覚える人もいると思うし、ずっと探し求めていた桃源郷を見つけたような感覚を覚える人もいると思うんですけど、多くの人が共通してある種の郷愁を覚えると思うんですね。

王舟「宮﨑駿が『楽園は子どものときにしかない』というようなことを言っていて。子どもは無償の愛を受けられるから。そういう感じなのかな? すでに終わってることに心地よさを感じるみたいな。過去のことに憧れるという感覚はずっとありますね。そういう感覚を動機にしているアーティストはけっこういるんじゃないですかね。俺は『子どものころにこんな音楽を聴いたことがある気がする』みたいな感覚で曲を作ってるかもしれないですね」

——今作ではその感覚がより濃密なものになっている気がしますね。

王舟「前作はそういう感覚を意識して作ったところがあったんですけど、今作はそういうことも無自覚なまま作ったんですよ。意識していない分、その感覚が強く出たのかもしれない」

——「ディスコブラジル」のMVのKINDNESSの視点は、あるいは損なわれていない無垢な子どもっぽさとも言えるかもしれない。

王舟「ああ、それはすごく言えるかもしれない。洗練とはほど遠い“ませた子どもっぽさ”がカッコいいんですよね。自分が音楽を作る感覚とKINDNESSが作ってくれたMVを照らし合わせてみると繋がる部分が多いのかなって思いますね」

——このアルバムをいろんな場所で聴いてみたいと思うんですよね。そこでどんな感覚を覚えるのかすごく興味がある。

王舟「それはぜひ。前に上海に帰省したときにオザケン(小沢健二)の曲を聴いたら『全然合ってないんだけど、なんかいいんだよなあ』って感じたんです。それは深い普遍性があるからだろうなって」

——今作のツアーは、大阪と東京は初のビッグバンド編成で臨むということで。

王舟「そうなんです。メンバーが12人いるんですけど、自分でもどうなるか楽しみですね」

——完全にひとりで作り上げたこのアルバムを大所帯のバンドで体現してどういう響きになるのか楽しみですね。

王舟「曲が人に手に渡ると必ず変化すると思うので。大勢のメンバーとイメージを共有するのが楽しみです」

 

 


「ディスコブラジル」のMVを手がけたKINDNESSが王舟からの質問に答えたミニQ&A企画
 1.I like how you edited the video in such a wild way. Which scene do you like the most?

(MVのワイルドな編集が気に入っているのですが、アダムが気に入っているシーンはありますか?)


I really enjoyed working with Koppi Mizrahi for her voguing scenes. It was also a genuinely unexpected surprise to come across the festival celebrations in Sawara. We didn't know there would be so much happening that day, it was a total co-incidence!


(コッピ・ミズラヒとのヴォーグダンスのシーンの撮影はとっても楽しかったな。あと、佐原でお祭りに偶然出くわしたときは本当にびっくりしたよ。あの日にそんなにたくさんのハプニングがあるとは誰も予想していなかったから、あれはまさに巡り合わせそのものだったね!)


2.Is there any story for the scenes that a young boy, the main character, appears?


(メインで登場している少年のシーンにはどういうストーリーがあるんですか?)


I feel like any video needs a hero. Ami is a representation of the young musician - any young musician - moving through his town.


(どんなムービーにも、ヒーローは必要だと思うんだ。アミは、あらゆる若いミュージシャンの象徴で、自分の街を転々とさまよっているんだ。)


3. I made all the songs for this album at home. Do you ever work on making music at home?


(今回僕が作ったアルバムはすべて自宅で作ったんですが、アダムは自宅で曲を作ったりしますか?)


I don't really have one place I call home! I've also been spoilt by working in fantastic studios since the early days of my career. Nowadays I can maybe work on rough ideas at home, with small speakers or headphones, but I need to utlimately move to a room/studio where I can feel the music loud!


(僕にはこれといって決まったひとつの家があるわけじゃないんだ。あと、恵まれたことに、キャリアをスタートさせた頃からすばらしいスタジオで作業させても らってきているんだ。最近は、大まかなアイデアだったら、小さいスピーカーとかヘッドフォンを使って家で作業したりするかな。でも、最終的には、大きい音で音楽を感じることができる部屋やスタジオに移動してしまうけどね!)


4.What place or food impressed you the most when you visited Japan last time?Is there anything you missed visiting or eating? I will bring you there next time you come, so please tell me.


(日本にきて印象的だった場所や食べ物はありますか?行き逃している場所や食べてみたいものがあったら今度来日したときに連れて行くので教えて下さい。)


A meal of Tempura at 天すけ in Koenji was so good, and so memorable. I still tell friends now about the egg tempura! Let's go!!

(高円寺にある「天すけ」というお店のてんぷらが最高で忘れられないよ。たまごの天ぷらの話を今でも友達にしているよ。今度一緒に行こう!)


撮影 中野修也/photo Shuya Nakano

取材・文 三宅正一/interview & text  Shoichi Miyake

企画・編集 桑原亮子/edit  Ryoko Kuwahara

 

 


ohshu


王舟

『PICTURE』

発売中

(felicity)

http://www.amazon.co.jp/PICTURE-王舟/dp/B018SUDHOY

https://itunes.apple.com/jp/album/picture/id1068330026

 
jacket_img


KINDNESS

『Otherness』

発売中

(Female Energy/Beat Records)

http://shop.beatink.com/shopdetail/000000001846/

http://www.amazon.co.jp/OTHERNESS-解説・歌詞対訳-ボーナストラック1曲収録-国内盤-BRC442/dp/B00MN8Z7J6/?tag=vc-1-995-22&linkCode=ure

https://itunes.apple.com/us/album/otherness/id906695341?l=ja&ls=1

 

王舟


上海出身、日本育ちのシンガーソングライター。2010年、自主制作CDR「賛成」「Thailand」を鳥獣虫魚からリリース。2014年、1stアルバム「Wang」、7インチシングル「Ward/虹」をfelicityからリリース。2015年、1stアルバムのアナログ盤「Wang LP」、12インチシングル「ディスコブラジル」をfelicityからリリース。2016年、2ndアルバム「PICTURE」をfelicityからリリース。


バンド編成やソロでのライブも行なっている。


http://ohshu-info.net


関連記事のまとめはこちら


http://www.neol.jp/culture/

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