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宇宙特集:画家・淺井裕介インタビュー

NeoL / 2017年4月1日 21時49分

写真

宇宙特集:画家・淺井裕介インタビュー

yamatane
2014
h.473.0 x w.1219.0 x d.1341.0 cm
ヒューストン、テキサス州、USAの土10種 (噴水、ハイウェイ118、パークランド・バイユー(沼地)、リッカー・ストア・ロード、ホワイトオーク・バイユー、シュガーランド、カルロスさんの裏庭、コンロー・セブン・コーブス、ウィロー・シティー・ループ、バッファロー・バイユー)
10 kinds of soil collected from Houston, Texas, USA (Mecom Fountain, Highway 118, Bayou Parkland, Liquor Store Road, White Oak Bayou, Sugarland, Carlos Backyard, Conroe Seven Coves, Willow City Loop, Buffalo Bayou)
©Yusuke Asai, Courtesy of URANO and Rice University Art Gallery
Photo by Nash Baker





泥絵制作風景(東京都現代美術館)2014 photo by Maki Taguch
©Yusuke Asai, Courtesy of URANO





泥絵制作風景(東京都現代美術館)2014 photo by Maki Taguch
©Yusuke Asai, Courtesy of URANO


淺井裕介は泥で絵を描く。恒久的な価値を求めるアートシーンにおいて、当然のように泥絵を洗い流して消してしまう。植物や動物らを描いた繊細な表現が連なり、やがて力強く巨大な一個体となり、時の経過とともに消え行くその有り様はまるで生命そのもののよう。海外では“Earth Paint”と訳される泥絵を軸に、事象の奥を見つめる彼の視点を問うた。


——淺井さんはその土地土地の泥を使った作品を作られていますが、まず大本である地球や宇宙にいるということについて考えることはありますか。


淺井「そうですね、今この場所に生まれてきたということはすごく考えています。東京生まれで森や星があまり見えない所で育ったこともあって、宮沢賢治などの物語の中にある宇宙的な光景を理解できないもどかしさがずっとあったんです。知ることができない環境にいたからこそ渇望していて。でも小さい苔の中に森を見たり、セロハンテープで細胞をとって顕微鏡で覗いた中に山脈を見たり、そうやって視点を変えると、知ることができないというのは思い込みで、遠くに見える宇宙も、ここにある小さな宇宙も同じようなものだと気付いたんです。
この小さなものに宇宙を見るという考えは作品にも強く影響しています。僕は子供の頃から常に絵を描く習慣があって、描く場所がないときはよく手に描いていたんですね。そこから皮膚や表面というものに興味がいって、その延長線上の考え方として、地球の表面をキャンバスとしたいと意識するようになりました。それが二十歳くらいかな」


——地球の表面ということから、すぐに泥絵に行き着いたんですか?


淺井「実際に描くまでは8年くらい間があるんです。まだ土をどう扱うかわかっていないところもあったし、僕は他のシリーズの作品においてもタイミングを待つところがあるんですね。でもインドネシアに連れて行ってもらったときに、見たことないようなバナナの葉や菩提樹の枝、そして根が地面にしっかりと根付いていて栄養を吸い上げていくまるでラピュタの最後に出てくる木みたいな植物がボコボコある土地で、それらの植物たちを支えてるのが土で、都会では隠れて見えない、ダイレクトなエネルギーを生み出す土があった。いま、ここで土を掘ろうと思って始めました」





土の採取風景 photo by Hiroyuki Hattori
©Yusuke Asai, Courtesy of URANO





土の採取風景 photo by Hiroyuki Hattori
©Yusuke Asai, Courtesy of URANO





掘った土を乾燥させて制作地の子供たちと砕いて粉状にしてふるいにかけていく様子 photo by Kenta Yoshizawa
©Yusuke Asai, Courtesy of URANO




淺井裕介 Yusuke Asai
祝福のダンス Earth Painting - Blessing Dance
2011
h.310 × w. 415 × d.630 cm
現地で採取した土、水、藁灰、藁、牛の糞、レンガの粉
Soil that collected local area, water, straw ashes, straw, cow dung, powder of brick
©Yusuke Asai, Courtesy of URANO and Wall Art Festival 2011
Photo by Kenji Mimura





泥絵制作風景 photo by Hiroyuki Hattori 
©Yusuke Asai, Courtesy of URANO


——それからはその土地土地の泥を使って描いている。


淺井「泥絵を始めて今年で10年目なんですが、2015年の東京都現代美術館の展示あたり(《全ての場所に命が宿る》「未見の星座〈コンステレーション〉—つながり/発見のプラクティス」)が初期の集大成だと思います。今まで自分が出会った土を全部混ぜて作って。本来ゆっくり時間かけて旅をしている土というものを、僕が旅させて出会わせていく。そういう新たな試みをあそこで始めました。それまではおっしゃるように、基本はその土地に行ってその土地で出会った土だけで描く。与えられた色で描ける絵を描くというすごくシンプルなことをしていたけれど、いろんなところで土を掘ってると余った土が家にどんどん溜まっていくんですよね。それを自分が持ってる意味を考えていて。例えば、青森で掘った土を次の現場の富山に持って行って、両方の土を混ぜて描いて。そして富山の土はまた次のどこかに持って行く、それができるのは今自分だけなんじゃないかと思うと、それは結構おもしろい。見る人が見るとただの同じような土なんだけど、僕が見ると高知と福岡と青森が隣り合っているのがわかるんです。記憶や愛着というか、『誰々さんが育てた大根』と知りながら食べる野菜に近い。この素材はいつどこで掘って生成したかを知っているということは、誰がどこで育てた素材という背景がある中で作られる一皿の料理を食べるような喜びに近いのかなと感じています」


——そういう風に意識が変わったのはなぜなんでしょう。


淺井「単純に泥が溜まってきちゃったのが大きいと思います(笑)。環境が変わると考え方も変わる。考えて動いていくよりは、その時出会ったものを大切にしたいんです。
あと、時間が経つと鮮度みたいなのがどうしても落ちていくじゃないですか。最初は驚きとして周りの人たちに受け入れられてきたのが当たり前のようになってくると、違うことをしたくなるんですよね。美術家はやっぱり、『え!』とか『それいいんだっけ?』ってことを起こすものというか。最初は『土なんかで絵がかけるんだ、それで描いた絵を消しちゃうんだ』というのが僕も楽しかったし、受け入れる人にも驚きとして存在していたのが、『土で描く人ですよね、消しちゃうんですよね』となると、絵の具も混ぜちゃうよ、違う土地も混ぜちゃうし、しかも残すよとなって、逆に『えっ、残すんだ』と予測を裏切ってみたり(笑)。まあ、時間と量と素材との出会いという単純な理由です(笑)」





全ての場所に命が宿る(東京都現代美術館)2014 photo by Maki Taguchi
©Yusuke Asai, Courtesy of URANO





全ての場所に命が宿る(東京都現代美術館)2014 photo by Maki Taguchi
©Yusuke Asai, Courtesy of URANO





全ての場所に命が宿る(東京都現代美術館)2014 photo by Maki Taguchi
©Yusuke Asai, Courtesy of URANO




MaskingPlant
2007
マスキングテープ、ペン
Pen on masking tape
©Yusuke Asai, Courtesy of URANO





Masking Plant - 絵のなる樹 Masking Plant - Tree-Bearing painting
2008
テープ、ペン、マスキングプラントの種、ドローイング30枚
Masking tape, pen, 30 drawings
©Yusuke Asai, Courtesy of URANO
Photo by Hako Hosokawa


——作品を残すことで驚かれるのはおもしろい(笑)。作品の中にはレギュラーで出てくる植物や動物もいますが、架空と現実の合間のような不思議な子たちですよね。


淺井「あの原型の多くは葉っぱなんです。目の形と動物の耳の形や腰や肩の形は植物の葉っぱとほとんど同じような形をしていて、右に進むと葉っぱになるし、左に進むと動物の耳になるような感覚です。マスキングプラントという植物を手本にした作品を2003年から始めたのですが、植物って人の目には一見して育っていくその瞬間は見た目ではわからないんだけれど確かに生きて呼吸して動いていて、環境に合わせて形を変えていくという植物のあり方の早送り版のような、ちょっとずつマスキンプテープに描かれた絵を空間にあわせて育てていくようなものなんですけど。僕はそのマスキングプラントという作品のシリーズからたくさんの植物的な思考法というか生成法を学んできたのだと思います、だから多分、根底のところにはどのモチーフにも植物の組み替えがあるんだと思います。
ちょっと話が飛ぶかもしれませんが、この間、鈴木ヒラクさんというアーティストの方と話していて、『浅井くんは点の人だよね』と言われたんです。最小単位の点をすごく大事にして描いていると。ヒラクさんは線がすごく格好よくて、僕は彼を点と線の人だと思っているんだけど、それまで自分のことも線で輪郭をとるからどちらかといえば線的な人間だと思っていたんです。でも考えてみると、ものすごく小さな粒子の集まりで世界ができているという考え方はずっと持っていて。たまたま別の物体なんだけど、ばらけていくと全部同じみたいな、宇宙や植物の生成にもそんな風に点から始まるリズムみたいなものを感じますよね」


——素粒子で成り立つ世界。


淺井「そうですね。ちょっと壮大すぎるから途中で頭がついていけなくなるけど手は必至で追いかけているみたいな(笑)。僕の絵は線としての輪郭があるけれど、多分動物の体を切って別のところに持っていって繋いでもくっつく。なので物質としては植物に近くて、多くは赤い血が流れているわけではなく、分解したり結合したりする。だから多分、大きく言えば僕が描いてるのは植物の化身みたいなもの。もっと言うと自分の絵は粒子なんだろうなと思います。よく『なにが主役で、なにを見せたいの』と言われるんですけど、別に主役はなくて、パッと見で目立つ大きな生き物がいても価値としては全部並列なんですよね。小さい生き物と大きな生き物とを同等に扱うようには心がけています。自然には主役がいるわけじゃなくて全てが美しく繋がり巡っているような。地質学や海の中の微生物調査で、いくら緻密に調べても、そこにあるもの全てを調べることはできないですよね。だから範囲を小さく区切ってその中を綿密に調べあとは想像することしかできない。僕がやっているのは多分そういうことに近くて、どこかに小さな窓を開けてその中に見えている部分を描いてるだけで、もっと大きなものが外にはあると思いながらいつもやっています。
それには本質的に、止まりたくない、無理したくないというのがあります。全部出し尽くそう、全部描き切ろうみたいなことは思ってないんですよ。大きなものの流れの中で小さい枠をピョコって開いていくような感じだから、おっきなものと思っておっきなものを描くと疲れちゃうんだけど、でっかい宇宙の端っこみたいな感覚で考えると、自分がやっていることなんか別にでっかくもないし、いつか無くなるかもしれないし、そう思えば気持ちが楽になる。最近はいろいろ変化してきてだんだんと最後まで描ききろうとも思わなくなって、むしろ本気で完成しないほうがおもしろいと思うことが多くなりました」





土の色見本とプランドローイング(Ricegallery)2013 photo by Kunpei miyata
©Yusuke Asai, Courtesy of URANO






植物になった白線@代々木公園 Sprouted Plants @ Yoyogi park
2011
w.900 × d.400 cm
アスファルトに溶着性ゴムシート Rubber on asphalt
©Yusuke Asai, Courtesy of URANO
Photo by Keizo Kioku





土の星の人 Person on the soil planet
2016
h.500.0 x w.400.0 cm
帆布、土、膠、アクリルレジン、水 Soils, glue,acrylic resin, water on canvas
©Yusuke Asai, Courtesy of URANO


——街にもアートを描かれていて、あれもある意味街の中で変化していく完成しないものですが、そことはまた違う意味で?


淺井「そういう考えも多分繋がっています。僕が完成と思っていようが思っていまいが、発表されたものを人は完成された作品として見る。その時完成かどうかを気にしているのは僕だけだとしたらその発表されているものがどこまで生き生きしてるかの方が大事。生き生きしている良さをわざわざ殺しちゃうようなことはしなくていいから、本当はまだまだ描けても、未完成だと思う部分が残っていても、生き生きとした部分をできるだけ生かしていきたいと思ってる。大きな流れの中にあるとしたら常に未完成なわけだから。それを無理して切り取ると、なんか不自然さが絡む気がして。
今まで『完成させなきゃ』とか『土は土だけで描かないといけない』とか、僕なりに少ないこだわりを大事にしてきたけど、そのこだわりがただの囚われに変わってしまってはつまらなくて、今はいろんなことを流れに任せています。
その一環として、『その土地で描いたら消す』というのも結構達成できたので近年では丸めておける大きな布に残すべき形を作ったり、外でのプロジェクトとアトリエでの作品とが最終的には一つになるようなやり方を考えたり、絵を描くことを通じてやれることがまだまだ沢山ある!、そう考えると町の中に描くことも、アトリエで描くことも、それらが建築やファッション、絵本や版画、陶芸などにリンクしていくことも、これからもいろんな出会いがありそうだなと楽しみにしています」





泥絵制作風景(東京都現代美術館)2014 photo by Maki Taguchi
©Yusuke Asai, Courtesy of URANO





泥絵制作風景(東京都現代美術館)2014 photo by Maki Taguchi
©Yusuke Asai, Courtesy of URANO



淺井裕介
画家。1981年東京生まれ。独学で美術を学ぶ。テープとペンで描く「マスキングプラント」や、土と水で描く「泥絵」など、身の回りの素材を使った作品を多く発表。2009年、VOCA2009年展 オオハラ美術館賞受賞、2015年 東山魁夷記念日経日本画大賞入選。2016年、作品集『この場所でつくる Yusuke Aasai Art Works 2011-2015』(求龍堂)を出版。
https://urano.tokyo/artists/yusuke_asai/



interview & edit Ryoko Kuwahara


宇宙特集





『Voyage of Time : Life’s Journey』Sophokles Tasioulis Interview
http://www.neol.jp/culture/54182/





画家・笠井麻衣子インタビュー
http://www.neol.jp/culture/55162/


[caption id="attachment_55273" align="alignnone" width="68"]

Edit: Ryoko Kuwahara | Photo Edit : Ryoko Kuwhara | Photography: Akiko Isobe | Hair&Make-up: Masayoshi Okudaira | Model: BO NINGEN[/caption]
BO NINGEN Special Shoot & Interview
http://www.neol.jp/culture/55272/


[caption id="attachment_55300" align="alignnone" width="154"]

Edit: Ryoko Kuwahara | Photo Edit : Ryoko Kuwhara | Photography: Shuya Nakano | Styling : Demi Demu | Hair&Make-up: mahiro | CG : NAKED | Model: Avu-chan[/caption]
Avu-chan from Ziyoou-vachi『Q』Special Photo Shoot & Interview
http://www.neol.jp/culture/55298/  

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