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ジャック・ドワイヨン監督インタビュー 『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』by Jan Urila Sas

NeoL / 2017年11月4日 6時0分

ジャック・ドワイヨン監督インタビュー 『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』by Jan Urila Sas



“近代彫刻の父”オーギュスト・ロダンの没後100年を記念し、パリ・ロダン美術館全面協力のもと、名匠ジャック・ドワイヨンが監督した本作は、ロダンの人間性とともに“創造”の種から傑作が生まれるまでの果てないプロセスを描いた、作り手の魂の肖像とも言える。来日を果たしたジャック・ドワイヨン監督に、音楽家のJan Urila Sasが対面し、同じ作り手としての視点から、ロダンと監督の関係性、芸術作品の生み出し方までを問う。



——初めまして、Janと言います。音楽を作っています。


Jacques「音楽家が映画についてインタビューするのもよいですね。では、全て音楽にからめてお答えを返しましょう」



——(笑)。ありがとうございます。まず、ロダンの彫刻作りと監督の映画の作り方に共通することはありますか。


Jacques「ええ、ロダンが私に訴えかけてきたのは大いに共通点があったからだと思います。当時はブルジョワ出身でなくてはアーティストになれなかったのですが、ロダンは貧しい階級の出身で、芸術学校も出ていません。私も映画学校を出ていないけれど、そのことを後悔したことは一度もありません。また、ロダンは初めから決めて石を削っていくのではなく、粘土で何体も習作をつくった後にようやく彫刻にうつしていきます。それは私が20、50とテイクを重ねて撮っていくのと同じです。なにができるのか、どういう方向に行けばいいものができるのかということが決まってしまっていたら良いものができない。探すことが必要なのです。映画の中でも、彼がバルザック像の完成に至るまで、工夫と探求を続けていくことがわかります。そして最初と最後では大きな変化を遂げている。映画の撮影をしているときも同じです。脚本の通りに完璧にやればいいということではない。その作品のテンポを見つけなくてはいけないのです。私はベートーヴェンの最後のソナタ(ピアノソナタ第32番)を愛していますが、演奏家によって天国に連れていってもらえることもあれば退屈に聴こえることもあります。同じ音符でも演奏家で大きく異なるのだから、映画はなおさらに役者によって影響を受けます。言葉を使って脚本を書いているときにはテンポは見つかりません。役者が演じてみて初めてそのシーンのテンポがわかります。コミカルで軽いシーンだと思っていたのが、実は悲劇的なシーンであったというように、自分で書いているときにはわからなかったことが見えてくることもあります。俳優、セット、セリフ、気分、体験、それらが混じり合った中でテイクを重ねていくことで、生命が宿るのです。
働くことが好きで、探すことが好きで、楽しめる——それがロダンと私の共通点だと思います。深く探せばなにかが必ず見つかる。ゆえに、ロダンも私も粘土をこね続けるのです」







——粘土をこね続けているときに多くの人を巻き込んでいるわけですが、何度もその粘土をこねさせる、つまり他の人々のモチベーションもあげて同じ方向を向かせるための特別なマジックはありますか。


Jacques「映画を撮影することはオーケストラの指揮に似ています。周りに動機付けを行うには、私自身が興味旺盛で、頑固で、執拗で、そして不安はもちろんあるけれど撮影をすることを楽しんでいること。そのモチベーションが周りにも感染するのではないでしょうか。私が退屈しているのが一番良くないと思います。
私の撮影は長回しの1シーン1ショットで、カメラは2台使っています。従って、1シーンが2分ないし6分という長さです。3秒くらいの短いショットを撮って繋げるのであれば編集のときに方向性を決めることができますが、私は長回しですからライヴのようなものなのです。よくテイクをやり直す(refaire)と言いますが、その言い方が私は大嫌いです。私たちは毎回新しいテイクを作っているのです。まだ見つかっていない新しいものを探すためにテイクを撮る。前のテイクで見つかったものはその中に盛り込む。私はそのテイクに生命が宿るまで現場でやり続けます。確かに撮影を3テイク内で終わらせたいという俳優もいます。フランスの俳優の3/4はそういう感じでしょう。でも何人かはいまだに新しいものを探して努力をすることを楽しんでくれます。そして俳優がなるべくいい演技を出そうとし、テイクを最高のものにしようと努力している現場に立ち会ってそれでも機嫌が悪い技術者がいたら、その人は別の仕事を探した方がいいでしょう」


——僕もライヴ感のある、魂を無造作にいじらない作品が大好きですが、人間である以上、そこにはどうしても作っているとき以外の生活が無意識に反映されていくと思います。この映画を制作中に、監督が無意識に反映されていたなと思ったことがあれば教えてください。


Jacques「私は自伝的な映画が大嫌いです。私の仲間たちは自分自身に起きた事件、すなわち愛の破局などをメモして映画化して、事実をフィクションにするということをよくやっていますが、私はなにかが起きてまだ終わっていないところで、それが第一幕であるとしたら、どういう第二幕、第三幕が可能だろうかと考えます。既知の感情がそこには必ず入ってきますが、感情は人間であれば必ずみんな知っているものですから再現とは異なります。以前4歳の女の子を主演に『ポネット』という映画を撮りましたが、彼女に対して嫉妬、憎しみ、愛、所有欲などの感情を説明する必要はなかった。4歳で全て知っていました。それらの下地に自分の発明やファンタジーをつけ加えて進んでいきます。
脚本を書いているときに私が好むやり方は、2つか3つの対話のかけらを出発点にして段々に登場人物が育っていくというものです。登場人物が独り立ちし、独り歩きをし始めると、私は彼らの言っていることを口述筆記をして書き取るようになるーーその瞬間が大好きです。自分が作ったはずの登場人物が突然手を離れるのです。撮影をしているときも同じです。デッサンをしているシーンで、ロダンはずっとモデルを見つめていて描いている紙は見ていない。紙が落ちても気付かない。そのときは俳優が私の指示で動いているのではなく、ロダンという人物が自立して自由にモデルを見つめているという気がしました。そういう瞬間が好きです。これでは答えになっていないかもしれないですね(笑)」


——いえ、素晴らしい答えと教えをいただきました。ありがとうございます。そのデッサンのシーンがいい例ですが、監督もロダンも動物的な感覚が多く動いているアーティストだと思います。ロダンはその感覚に入り終えた後にカミーユにアドバイスを求めていますよね。それは社会的な目線のアドバイスを求めているのだと思うのですが、監督もそのようなアドバイスを求めることがあるのでしょうか。それとも監督自身の中に動物的な感覚を持った人物と、もう少し社会的な目線を持った人物の両方が存在しているのでしょうか。


Jacques「自分の中に両方があるタイプだと思います。フランス語で音楽の演奏家と俳優は同じ言葉(nterprète)なのですが、それには『解釈をする人』という意味もあります。演奏、演技、解釈というのは、セリフや楽譜を知っているだけでは充分ではない。それらを完全にマスターしたうえで自由になれる、その部分が大事だと思います。立ち位置やセリフなど配置が決まっているように見えても、解釈者の自由は巨大なものです。俳優にファンタジーがあり、生き生きとクリエイティヴに演技を作っていけば、あるときそのシーンが本当に新しく生まれ変わる瞬間を迎えることがあります。私はときに、ここまで完璧にできたから、あとはより野性的に動いてみてほしいと俳優に言うことがあるのですが、そうすることで、すごい結果が出るときがあります。編集のときに、脚本通りの完璧なテイクと、不完全だけれど俳優が生き生きとエネルギーに満ちているテイクがある場合、私は欠点があるテイクがある場合は後者を選びます。それが私のやり方です」







——ああ、それは美しい。ロダンはヴィクトル・ユゴーの彫刻をカミーユに見せているときに「動物的に見えるのだったら成功だな」という言葉を放っていますが、自由な意識がうごめいて制作物が変化していくなかで、どの段階で成功だと意識の区切りをつけるのでしょうか。


Jacques「テイクを進めていくと、あるとき突然なにかが起きて、私は初めてこれを見ているという感銘を受けることがあります。自分が書いた脚本であること、俳優がセリフを完璧に覚えていることも関係ない。明らかに自分にとってなにか新しいものを発見したという感覚なので、わかります。スタッフに『3、4分ひとりにしてほしい』と言って自分の気持ちを沈めるほどの感動で、奇跡にも近いものです。そしてその突然出現した素晴らしいシーンを、自分が信じられるかどうかを考えます。良いテイクとは、俳優がよく演技をしているとかそういうことではなく、そこに見えるものが完璧に信じられるということ。子どものように無邪気な観客として、本物だと信じられるかを重要視しています。残念ながら毎日そういう瞬間があるわけではないのですが」


——いまその瞬間のことを思い浮かべながら話されていたのだろうと思います。その瞳が忘れられません。美しいものを見てきた結晶のようです。


Jacques「ありがとう(笑)。私はヌーヴェルヴァーグから15年後にやってきた世代です。ジャック・リヴェットやロメールは時折違うやり方に挑戦していますが、ゴダールにしてもトリュフォーにしてもアラン・レネにしてもヌーヴェルヴァーグの監督たちは俳優の使い方に関して若干怠惰であるような気がします。俳優の使い方を進め、その変化を出せたのは、モーリス・ピアラ、マルグリット・デュラス、アンドレ・テシネ、そして私だと思います。ピアラと最初に道で会ったとき、『昨日君の映画を観た。俳優がよかったので驚いた。だからもう一度観に行く。そしたら欠点が見つかるだろう』と言ってきたのはおもしろかった(笑)。私たちはそのように映画を進め、いまも新しい瞬間を目にしています」



photography Satomi Yamauchi
text & edit Ryoko Kuwahara























『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』
今年11月に没後100年を迎える、“近代彫刻の父”オーギュスト・ロダン(1840~1917)。《地獄の門》や、その一部を抜き出した《考える人》で高名な19世紀を代表する芸術家である。彼は42歳の時、弟子入り切望するカミーユ・クローデルと出会い、この若き才能と魅力に夢中になる。本作はロダン没後100年を記念し、パリ・ロダン美術館全面協力のもと、『ポネット』(1996)、『ラ・ピラート』(1984)の名匠ジャック・ドワイヨンが、ロダンの愛と苦悩に満ちた半生を忠実に描いた力作である。『ティエリー・トグルドーの憂鬱』(2015) でカンヌ国際映画祭、セザール賞の主演男優賞をW受賞したフランスきっての演技派ヴァンサン・ランドンがロダンを演じる為に8カ月間彫刻とデッサンに没頭しロダンの魂までも演じきり、“ジャニス・ジョプリンの再来”と呼ばれる『サンバ』のイジア・イジュランがカミーユを好演。2017年カンヌ国際映画祭のコンペティション作品部門にてお披露目され話題となった。
解禁された予告編では、えびぞりの裸婦モデルを前に創作に没頭するロダンの姿、さらに≪地獄の門≫や賛否両論を巻き起こした≪バルザック像≫といった代表作の創作風景が映し出される。1880年パリ、42歳を迎えたロダンが出会った愛弟子カミーユ・クローデル。互いに惹かれあい激しく愛し合う二人だが、やがて、彫刻家として名声を得たいと願うカミーユはロダンを拒絶するようになる。カミーユへの行き場を失った愛をぶつけるように、モデルたちとの官能的な絡み合いを繰り広げるロダン。愛と苦悩の日々の末、近代彫刻の父が創り上げた最高傑作誕生の瞬間とは――。


映画『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』は、11月11日(土)新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマほか全国公開。

監督・脚本:ジャック・ドワイヨン 撮影:クリルトフ・ボーカルヌ 衣装:パスカリーヌ・シャヴァンヌ
出演:ヴァンサン・ランドン、イジア・イジュラン、セヴリーヌ・カネル
2017年/フランス/フランス語/カラー/シネスコ/120分
配給:松竹=コムストック・グループ (C) Les Films du Lendemain / Shanna Besson
http://rodin100.com







ジャック・ドワイヨン
1944年、パリ生まれ。1974年に初めての長編『頭の中に指』を監督し、フランソワ・トリュフォーから賛辞を受ける。その後、自身の製作会社を設立し『あばずれ女』(1979)でカンヌ映画祭ヤング・シネマ賞を受賞。『放蕩娘』(1981)で主演に起用したジェーン・バーキンと結婚し、現在女優として活躍するルー・ドワイヨンをもうけた。『ラ・ピラート』(1984)はカンヌ映画祭コンペティション部門に出品され、そのインモラルな内容が物議を醸すが、その後フランス一般公開で好評を博した。15歳の少年の無垢な心を描いた傑作『ピストルと少年』(1990)はルイ・デリュック賞、フランス映画大賞、ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞など様々な賞を受賞した。日本でも記録的ヒット作となった『ポネット』(1996)では4歳の女の子が母の死を乗り越えていくさまを描き、史上最年少のヴェネチア国際映画祭主演女優賞をもたらした。今回は、『ラブバトル』(2013)以来の来日となる。


Jan Urila Sas
1990年パリで生まれ、東京育ち。2008年から音楽キャリアをスタート。Naomi (jan and naomi)と共に、2013年に突如、東京のミュージック・シーンに現れた。2014年には話題のjan, naomi are"をリリース。GREAT3,The Silence(ex. the Ghost)といったベテランミュージシャン達とのセッションを積みながら、独自の世界感とセンスで、音楽にとどまらないアートの世界で存在感を表している。https://janurilasas.tumblr.com/

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http://www.neol.jp/art-2/

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