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歌代ニーナ 「AIRPORT SECURITY」 Vol. 02 桜野 羽

NeoL / 2019年8月13日 20時0分

歌代ニーナ 「AIRPORT SECURITY」 Vol. 02 桜野 羽

こんにちは。歌代ニーナです。
今までスタイリストや編集の仕事を始め、クリエイティブ系のことをやっている人間として生きてたのですが、ちょっと最近飽きてきた模様です。中堅特有の職業ブルースですかね。


というわけで、今までの生活とは全て縁を切り、転職ってやつを試みてみました。この度、2019年7月より1年間、羽田空港の入国審査員の仕事に就くことになりました。オリンピックに向けて日本に対する注目が大きくなっているにあたって、日本を出入りする人が増えていくと思います。私は入国/出国審査のゲートに立ち、不審者がいないか、異物を持って国境を越そうとする人がいないかを全身全霊で見定めています。


空港は不思議な場所です。様々な場所からきた人、そして向かう人の集合場所であり、様々な強い感情が辺りいっぱいに充満しています。旅行気分にウキウキ胸を躍らせている人、旅行帰り特有の憂いがかっている人、ひたすら疲れている人、イライラしている人、誰かの到着を楽しみに待っている人・・・。人間観察の宝庫です。


入国/出国審査のゲートで出会った不審者たちのMVPを各月に1人選出し、ここに記録として残そうと思います。本当に世の中には色々な人たちたちがいるもんで。







Vol. 02 桜野 羽 様 / 中国よりご帰国


2019年8月13日の昼過ぎ。入国審査ゲートのシフトの日。


今日はお盆の初日です。もしかしたら1年間で最も国際線ターミナルが混んでいるかもしれない日です。今日のシフトは入国審査ゲートだったので出国審査ゲートのギャン混みは避けられそうなことに少しホッとしました。お盆は日本だけの文化ですからね。日本に旅行で来る外国人からすれば知ったこっちゃない話です。早くお昼休憩の時間にならないかなあ~と思いながらお客様の入国審査をテンポ良く進めていたら巨大なLOUIS VUITTONのスーツケースを4つも持ったチャイナドレスを着た女の人がカートをガタガタ言わせながらゲートにやってきました。水商売っぽいお色気ムンムンで、空前絶後のスジ盛りヘアは小悪魔agehaのさくりなみたいです。


確実にキャバ嬢だな。チャイナドレス着てるから中国人だよね? 中国にもキャバ嬢っているのかな。


とか思いながら近くに来るのを待っていたら、フローラル系の香水の香りが滴る空気に襲われて気を失いそうになりました。近くで見ると飛行機から今さっき降りたばかりとは思えないようなファンデーションのノリの良さとヘアメイクのヨレてなさで、びっくりしました。


あんまりジロジロ見るのも失礼なのでしれっと、


私「パスポートと搭乗券、税関カードの提示をお願いいたします。」(英語で)
桜野 様「はい。」(日本語で)








あ、日本人なんだ。名前、『桜野 羽(さくらの うらら)』か。ってか、どこの誰がこんなバッキバキに顔面加工されたパスポート写真を許したんだよ一体。


と心の中でつぶやきながら、口頭言語を即座に日本語に変換して、


私「ありがとうございます。」


と言って搭乗券を確認しました。中国からのご帰国のようでした。目の端からチラッとスーツケースの山を見ていたらジッパーが大きく開いているものがあり、中にLOUIS VUITTONやCHANELのロゴが印刷されている膨らんだ白い巾着袋が大量に入っているのが見えました。


これはバッタもんのブランドバックを買い付けてきたな。ってか、バレるからちゃんとジッパー閉めろよ普通に、、。


これは見逃すわけにはいかないので調査室に来てもらうことにしました。気だるそうに私のあとについてくる彼女は15cmくらいのヒールとエイミー・ワインハウスヘアのおかげで体高が2m近くあります。


桜野 様 「何か問題でも?あたし、急いでるんですけど%&#$¥@*%&#$¥........」
私 「すぐに終わりますから。すみません。」


調査室に入って椅子に座った彼女は扇子を開いて仰ぎはじめました。


暑いよね。分かる。


私「ちょっと荷物検査させていただきたいのですが、スーツケースを開けていただいてもよろしいですか。」
桜野 様「怪しい物なんて持ってませんけど、、。」


スーツケースを開けながら彼女はブツブツ言っています。4つのスーツケースを開けてこっちをドヤ顔で見つめてくるのだが、中にはチャイナドレスの山やら化粧品やら新品らしきブランドもののバッグがたくさん入っているようです。


ちょっと羨ましい。なんの旅をしてきたんだろう。


私「こちら中国での購入品ですか?ここまでの量だと輸入扱いになってしまいますが。」
桜野 様「違います。私物です。タグとか付いてませんよ。ぶっちゃけ買い物目的でいったんですけど、意外と全然可愛いものなくて%&#$¥@*%&#$¥........」


出た。慣れてるなコイツ。抜け目ない。ってかよく喋るな。


確かにチェックしてみるとブランドもののバッグはどれもタグがついていません。チャイナドレスたちも日本円にして1着3000円くらいです。この値段なら10枚前後のこの量も特に問題はありません。


問い詰めるのもめんどくさいし、タグついてないし、まあいっか。


私「中国での購入品はチャイナドレスだけですか。」
桜野 様「はい。チャイナドレス、好きなんです。今日もこのまま出勤なので、着て行こうと思って。可愛いでしょう?このドレス%&#$¥@*%&#$¥........」
私「そうなんですね。お仕事何されてらっしゃるんですか?」
桜野 様「新宿のキャバクラで働いています。歌舞伎町って知ってます?%&#$¥@*%&#$¥........」


やはり。キャバ嬢ってチャイナドレスとか着るんだ。あんまりイメージないけど。


桜野 様「チャイナドレス着る女の子少ないから、目立てるんです。お客様に覚えてもらいやすくて。やっぱり次の指名に繋げることが大事だから%&#$¥@*%&#$¥........」
私「へえー。そういうのあるんですね。」


広げたスーツケースをたたみながら彼女は滑らかに喋り続けます。


桜野 様「中国人と間違われたりもよくするんですけどね。たまに中国のお客様がいらっしゃったりすると怒られたりします。『中国人じゃないのになんで着てるんだ』って。」


チャイナドレス着てるくらいでそんなすぐ中国人って思うか? あ、っでもさっき私も一瞬中国人って思ったわ。


桜野 様「最近なんかみんなそういうのに対してセンシティブですよね。なんでしたっけ、あれ、文化の盗用ってやつ。」
私「ああ。キム・カーダシアンのKIMONO事件とかありましたよね。」
桜野 様「そういうの。着物を発明した張本人が怒るんならまだ分かるけど、『自分の国のもの=自分のもの』みたいなのって結構ナルシストよね。それで怒られても、って思っちゃう。お前は着物の何なんだよ、みたいな%&#$¥@*%&#$¥........」


確かに。ってか、ワーオ!意外がるのも私の勝手な先入観のせいなんだけど(ごめんなさい)、そういうの考えたりするんだ。そうだよね。キャバ嬢ってビジネスマンとかと会話保てないといけないんだもんね。ニュースとか新聞とかしっかりチェックしてないとナンバーワンになれないみたいなの、どっかで聞いたことある気がする。


桜野 様「そんなこと言ったらTシャツとかって西洋のものじゃない?Tシャツを着ている私たちは西洋文化を盗用していることになるけど、って感じ。二重整形とかも白人に対する憧れからでしょ?%&#$¥@*%&#$¥........」
私「、、、。そうですね。」


何で私にこんなこと喋ってんだろ。もう帰っていいのに。ってか、そろそろお昼の時間なんだけど。


私「お時間いただいてありがとうございます。」


急かすように調査室のドアを開けながら彼女にニッコリ笑いかけました。


桜野 様「どうも~。」


彼女はツカツカと小股でカートを押しながら出口に向かって歩いていきました。


今日のお昼は何食べようかな。空港内で冷やし中華ってあったっけな。









creative direction and photography PETRICHOR
fashion and text NINA UTASHIRO
make-up DAISUKE FUJIWARA
hair TAKUYA KITAMURA
graphics TAPPEI
assistance LALA SAGARA
model ULALA SAKURANO


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https://www.neol.jp/fashion/

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