伊藤沙莉、山田孝之との対峙「一つの小さなゴールだった」

dwango.jp news / 2020年3月30日 18時0分

9歳から芝居の現場に立つ伊藤沙莉。作品を重ね、子役から実力派女優へと変貌を遂げた彼女が、これまで何度も現場を共有してきた飯塚健監督、山田孝之と再度時間を共にした映画『ステップ』。本作を「一つの小さなゴール」と表現した伊藤の言葉の真意に迫る――。


■憧れだった保育士という職業


劇中、伊藤が演じるのは、山田ふんするシングルファザー武田健一の愛娘・美紀が通う保育園の保育士・天賀みなみ、通称ケロ先生。子どもたちに寄り添い、親たちにも優しい視線を向ける。


「9歳からこの仕事をしていると、たまに職業への浮気があるんです」といたずらっぽい笑顔を見せた伊藤。中学生のとき、職場体験で保育園に行って以来、心のどこかに保育士という職業への憧れがあったという。オファーを受けたときは「すごく嬉しかった」と当時の心境を述べると「保育士さんならではの温かく優しい感じが出せれば」と意識して役柄に臨んだ。


伊藤の言葉通り、劇中、ケロ先生は子どもと親の間の立場として、どちらにも絶妙な距離感で接する“素敵”な保育士として存在する。意識したのはケロ先生という保育士としての顔と、みなみという一人の人間としての顔。「保育士さんは、子どもや保護者の方々に対して自分のプライベートは出さないものだと思うんです。そんななか感情的になる人間臭い部分もケロ先生らしさだと思ったので、しっかり表現できればと思って演じました」。


■山田孝之と真正面からの芝居「一つの小さなゴールだった」


物語のなかでケロ先生が対峙するのは、山田演じる健一だ。2012年に公開された『悪の教典』で作品を共にして以来、「REPLAY & DESTROY」、「全裸監督」と同じ作品への出演はあったが、ここまで正面から向き合って芝居をしたことは初めてだった。「正直『ステップ』の撮影自体は3日間ぐらいだったのですが、クランクアップしたときはかなりガッツリと泣いてしまったんです。いままでも一生懸命やっていましたが、山田さんとは真正面からちゃんと会話をする役をやりたいという思いが強くて、今回、それが叶ったことで一つの小さなゴールだったなと思ったら感極まってしまって……」。


改めて正面からぶつかることで、山田の俳優としてのすごさに魅了された。特に感じたのが、作品によって纏う空気がまったく違うこと。「直近だと『全裸監督』で村西とおるさんを演じていたときは、キレキレな感じでしたが、今回はものすごく穏やかで、パステルカラーのようなオーラ。毎回本当にすごい方だなと思っていたのですが、改めて今回ご一緒して、ずっと尊敬していく俳優さんなんだろうなと感じました」とぞっこんの様子だ。


もう一つ、伊藤がハッとさせられたのがアドリブシーン。「全裸監督」でもかなりのアドリブがあった現場だと聞いていたが、本作でも子どもが相手のシーンが多かったため、予期せぬ対応をする必要があった。あるシーンでケロ先生が自身のプライベートを話すと、健一が「結婚っていいよ。大変だけれどね」というセリフを発する。「実はあのセリフは台本にないんです。会話のなかで山田さんが発した言葉だったのですが、用意していたものではなく、心から出たセリフかなと感じました。人物になり切っているからこそ出たアドリブ。やっぱりすごい方です」。

■飯塚監督との出会いで、子役から一人の役者へと意識が変わった


さらに伊藤にとって飯塚監督との現場というのも、非常に大きな意味のあることのようだ。過去に飯塚監督の作品には多数出演している伊藤。監督からはいつも「ほかの監督が表現したことない伊藤沙莉を毎回見せたい」と声を掛けてもらえる。それはプレッシャーでもあり、嬉しいこと。とても気合が入る現場だという。


9歳から芝居を始めた伊藤にとって、転機となったのも飯塚監督の現場だった。以前、ある人から「制服を着ている姿しか想像できない」と言われたことがあったという。その言葉に伊藤は「心底悔しかった」と語り、モヤモヤしている部分があったそうだ。そのとき「GTO」というドラマで飯塚監督と作品を共にした。

飯塚監督の現場では、出演者みな一人の役者として対等に接してくれる場だった。「いま私は俳優部というところに属していますが、どこか特別扱いしていただくようなことがあります。でも私自身は、俳優部も、照明部、録音部などと同じ一つの部署であるに過ぎないという考えを持っているのですが、こうした考えが“間違っていないんだ”と思わせてくれたのが飯塚監督。現場での居方を、基礎から応用まで教えていただいた気がします」。

そこから伊藤は一人の役者としての自覚が強くなった。以前は監督に言われたことをしっかりやることが大切だと思っていたが、自ら役を考え、提案することを心掛けるようになっていった。「子役と大人の俳優の境目で飯塚監督と出会えたことは、私の役者人生にとってはかなり大きなことでした」。


■出会いに恵まれたこれまでの役者人生


これまでの役者人生を振り返り「とにかく私は出会いに恵まれています」と語った伊藤。「自分から発信するよりは、相手の芝居を受け取るタイプ」と自己分析。質の良い芝居をする人たちと現場を共にしているからこそ「良いものが返せているんだと思う」と謙虚に受け止める。


だからこそ、準備はするが、あまり役柄をガチガチに固めていくことはせず、現場で感じたものを表現する。そのため作品は続くが、役への切り替えは早いという。


ケロ先生を通じて「家族の大切さ」を改めて感じたという伊藤。自身の幼少期からの人生も自然と振り返った。「特に幼稚園のころの記憶は強く蘇ってきました。いろいろあっても、やっぱり家族というのは、血が繋がっていようがいまいが、シンプルな感情で互いを認め合っているものなんだなと実感しました」と作品に込められたメッセージを語ってくれた。



取材・文:磯部正和

カメラ:稲澤朝博


『ステップ』

近日公開

山田孝之、伊藤沙莉、川栄李奈、広末涼子、余 貴美子、國村 隼

(C)2020映画『ステップ』製作委員会


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