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統合型リゾートというビジネスは、どうして成熟国の大都市向けではないのか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 / 2014年6月3日 12時44分

 必要がないからです。こうした都市の場合、外国からの観光客が期待するのは「その都市ならではの経験」です。つまりカルチャーの力であり、具体的には極めて高度なパフォーマンス芸術、美術館・博物館、高いレベルもしくはお国柄を反映した食文化、そして買い物、更には都市の中の散策、地元の人との交流といった経験です。



 仮にサンズか何かが、パリに「統合型リゾート」なるものを作って、その中で「全てが完結」するようにしたとします。ホテルがあり、カジノがあって、後は観光客向けのフランス料理屋があり、観光客向けの例えばですがレビュー・ショーの観劇があり、土産物屋がありというような施設です。

 全く魅力はないと思います。観光客がわざわざ高い飛行機代を払ってパリに行くのは、本物のカルチャーの経験をしたいからです。地元のパリの人が行く路地裏のレストランに行き、オペラ座に行き、コンサートを聞きに行き、そしてパリの色々なホンモノの老舗で買い物がしたいからです。

 東京の場合も全く同じだと思います。例えば、サンズが経営する「サンズ・トウキョウ・サムライ・リゾート」なるものがお台場にできたとして、そこには多少和風のコンセプトの内装にしたホテルがあり、カジノがあり、二流の歌舞伎まがいのショーが見られ、着物まがいのインチキな浴衣などを売る土産物屋があり、「なんちゃって日本食」のレストランがありというようなコンセプトでは、お客は来るでしょうか?

 来ないと思います。

 そうではなくて、外国人観光客は、それこそ「すきやばし次郎」のような「ホンモノの寿司店」に行って、地元の日本人と同じように「黙って儀式のように寿司が食べてみたい」し、秋葉原や原宿の街歩きをして現在の日本を経験し、歌舞伎座に行って最高の舞台を見て、更には築地市場を見学したり、鎌倉の寺社を拝観してこの国の長い歴史を実感したりしたいのです。新宿や渋谷のネオンきらめく雑踏へ足を踏み入れて、日本のカルチャーの「聖地巡礼」がしたいのです。そのために大枚をはたいて、家族揃って10時間以上もかけてやって来るのです。

 統合型リゾートは、東京のような成熟国の大都市には向きません。まして、カルチャーを前面に出して十分に勝負のできる東京には必要ないと思います。その代わり、もっともっと街中で英語が通じるようにするとか、飲食店や小売店がもっと外国人向けの配慮をする、そのための具体的な工夫を街を挙げて研究するといった地道な努力を積み重ねる方が、はるかに効果はあると思います。

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