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「忘れられる権利」の行使にグーグルがしっぺ返し - 瀧口範子 @シリコンバレーJournal

ニューズウィーク日本版 / 2014年7月8日 13時16分

 ヨーロッパで下されたグーグルに対する「忘れられる権利」判決。これを巡って、予想した通りの混乱と同時に面白い事態が起こっているようだ。

 周知のように「忘れられる権利」は、グーグルの検索結果に表示される報道の内容を適切でない、すでに無効、あるいは大袈裟であるといった理由で、表示されないようリンク削除を求める権利のこと。

 もともとスペインの男性が起こした訴訟に対して、さる5月にEUの司法裁判所が判決で認めたのが最初だ。この男性は、1998年に地元新聞でローンの滞納によって自宅が差し押さえになった件が報じられたが、それが支払いを済ませた今も検索結果に表示されるのを不服とし、個人として自律的な生活を営むことが阻害されていると訴えていた。

 この判決が下ってから、グーグルには7万件の削除要請が寄せられているという。そして、グーグルはごく最近になって削除作業を開始したようだ。しかし、この判決が起こす混乱は想像に難くない。

 まず判決が、新聞社など昔の記事をそのままにしているメディア会社に対してではなく、グーグルに下されたものだということが腑に落ちない。新聞社が削除していればグーグルにも表示されることはないのだが、なぜかグーグルが対象だ。

 ということは、たとえグーグルが削除しても、新聞社のアーカイブには記録されているわけだ。だが、インターネットを利用する人々のどれほどがその違いを知っていて、グーグルの検索結果と各メディアサイトのアーカイブを比較するだろうか。

 そのためにはちゃんとしたネット・リテラシーと手間が求められるのだが、そこまでやろうという人は限られているだろう。その結果、インターネット上から入手できる情報は、ユーザーによってまだらで不揃いなものになると考えた方がいいだろう。

 そもそも、過去に報じられたことは、間違いでもない限り「過去における事実」としてアーカイブに保存され、そうしたアーカイブをいながらにして参照できることが、インターネット時代にわれわれが得たすばらしい特権と学習道具だったはずだ。より向学心があれば、「では現在はどうなっているのだろう」とさらに検索を進めただろう。今回の判決は、アーカイブを掘り起こすグーグル検索の機能を不完全なものにしてしまった。グーグルが今や多数の人々に利用されているという事実を考えると、問題は大きい。

 それに、削除を要請してきた人々の言い分に理があるかどうかを、どうやって見極めるのか。犯罪すれすれの社会的悪事を働いた人物が削除要請をしてきた場合、グーグルはそれに従わなければならないのか。あるいは、要請は無効だと突っぱねることができるのか。そうした判断を、グーグルという営利企業に任せていいのか。リンク削除に関しては、現時点では明確なガイドラインがないため、かなりの混乱が発生するだろう。

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