国境に押し寄せる、不法移民の子供たちの波 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2014年7月10日 12時58分
アメリカはこうした人道上の問題に関しては、それなりの法制が出来ていて、「亡命者として認められるような直接的な迫害を受けたか?」といった認定を、裁判所で行うようになっています。その場合に、通訳や弁護士はアメリカ政府が国選でつけることになっていますし、判決が下りるまでは衣食住を保障された施設に収容することにもなっています。その際に子供たちの世話をする無償ボランティアなどの支援組織もとりあえず機能しています。
問題は、怒涛のように押し寄せる子供たちの「波」に対して、こうした「人道的な対応」がパンクしているということです。収容施設は常に一杯であるため、国境地帯からかなり離れたところまで、子供たちを移動させて収容するなど、綱渡り的な状況が続いています。
これに対してオバマ大統領は、総額37億ドル(約3700億円)の緊急予算措置を提案しています。内容は、「不法移民ができるだけ国境を越えないような警備体制」「子供たちが入ってきた場合の移送費、裁判コスト、健康管理コスト」などの総額だというのです。
共和党はこのオバマの提案に対して、「不法移民は全員が合法化」されるとか「不法移民の高校生を合法化して大学に行かせる」といった「甘い」政策を提案して、中米の人々に誤ったメッセージを送っているとして、問題がオバマ政権の対応にあると主張しています。
では、共和党は昔のように「不法移民は犯罪者」だから「追放せよ」などという単純な主張ができるかというと、これだけ巨大になってきたヒスパニック票を意識すると、もうできないわけです。
ジェブ・ブッシュ氏(ジョージ・W・ブッシュ元大統領の弟で元フロリダ州知事、共和党の大統領候補として最有力の1人)なども「不法移民の犯した不法行為は、家族の生活向上を願ったものであり、同じ犯罪でも凶悪犯とは違う」と発言しています。以前なら「真正保守にあるまじき」態度だと叩かれたかもしれませんが、現在の共和党支持者はこうした立場にも理解を示しています。
ですから、共和党としては現状に対して別段に冷酷であるわけではありません。何らかの解決をしなくてはいけないことは分かった上で、「オバマ叩き」の材料になるのなら、ということで色々文句を言っているわけです。
ちなみに、この問題とは別に「アメリカに来て年月の経過した不法移民の合法化」という問題については、一時は与野党合意が成立しかけました。ところが、共和党側のキーパーソンだったカンター下院院内総務が、先月の予備選で落選してしまい、次の中間選挙に出馬できなくなったことで、見通しは消えてしまっていました。これに加えて、今回の「子供の亡命者があふれる」という問題で、すっかりこの「移民問題の解決」は宙に浮いた形になっています。
オバマ政権としては「元から断たねばダメ」ということで、バイデン副大統領がホンジュラスなど問題の国々を訪問して協議をしています。「安易に移民受け入れをしてもらえる」というような「デマ」の払拭につとめる一方で、麻薬マフィアの暗躍を抑えるよう各国首脳に依頼して回ったのですが、効果の程はわかりません。
そんな中、7月9日には、この問題をペリー知事と協議するために、オバマ大統領はテキサスに来ました。ですが、報道によれば問題の「国境地帯」を視察することは止めたようです。
抜本的な解決策のない問題だけに、「可哀相な子供たちとオバマ」などという写真を撮られてそれがメディアに流れると、その映像が契機となって何らかの「いい方向」が見えてくる可能性は薄いわけです。その意味で現場へ行かないという判断は理解できるのですが、そうした姿勢も「叩こうと思えば叩ける」わけで、オバマの苦悩は深まるばかりといった状況です。
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