日本の大学は学位を売る「ディプロマ・ミル」になるのか - 池田信夫 エコノMIX異論正論
ニューズウィーク日本版 / 2014年7月23日 16時46分
晏氏は「在学中、実質的に学術面に関する指導も殆どありませんでした。指導教授が週一回の博士課程の授業を一回も行っていませんでした」と主張している。指導教授は非常勤で「審査会議を除き、一言も指導しませんでした」という。これが事実なら、博士論文の内容もさることながら、それをチェックしなかった指導教授にも責任がある。
調査委員会は、小保方氏の学位を取り消さなかった理由を「学位授与を前提として形成された、これらの生活及び社会的関係の多くを基礎から破壊することになり、学位を授与された者及びその者と関わり合いをもった多くの者に対し、不利益を中心とする多大な影響を与えることになる」と正直に書いている。
残念ながら、これが日本の大学の実態である。今度の事件はたまたま大きな注目を浴びたが、大部分の博士論文はこれ以下の水準だ。ネット上では早稲田の先進理工学研究科だけでも盗用が数多く摘発されている。博士号を取り消して彼女が異議を申し立て、他の論文の調査を求めたら、多くの関係者の責任が問われて「生活が破壊」されるから、うやむやにするのだ。
企業は大学に教育内容は期待していないが、入試のペーパーテストで人材を公正に選抜する機能は重要だ。早大のように入試科目を減らして一般入試を絞って偏差値を嵩上げし、学生の半分以上を(小保方氏のような)AO入試や推薦で入学させてノーチェックで卒業させるのは、もはやディプロマ・ミル(学位販売業者)に近い。
早大の鎌田総長は、政府の教育再生実行会議の座長として「人物重視」の入試を推進しているが、情実入試をこれ以上増やしたら、全国の大学が年100万円以上の授業料で学位を売るディプロマ・ミルになってしまう。工業製品に製造物責任があるように、大学には学位にふさわしい人物を社会に送り出し、不適格なら排除する責任がある。日本の大学の価値は、それしかないのだから。
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