STAP細胞事件と朝日新聞誤報事件に学ぶ「だめな危機管理」 - 池田信夫 エコノMIX異論正論
ニューズウィーク日本版 / 2014年9月3日 14時40分
1はよくあることで、事件の情報の多くはガセネタだ。これは2の段階の事実確認をすれば除去できるが、そこで担当者が情報を意識的に改竄することを普通は想定していない。そんなことをしても、普通は追試や他の情報源で嘘がばれるからだ。しかしSTAP細胞の場合は「何回もやれば誰かが再現できるだろう」と考え、朝日の場合は「戦時中のことだから嘘はばれない」と考えたものと思われる。
だから「おかしいな」と思ったら、3が大事だ。担当者の善意を信じないで、第三者が一次情報をチェックすることが鉄則だ。STAP細胞の場合は、ES細胞からつくったデータには体細胞からできた痕跡(TCR再構成)が見られない。朝日のケースでは、デスクが1991年12月の訴状(キーセンと書かれている)を読むだけで植村記者の嘘はわかったはずだ。
もう一つの落とし穴は4だ。STAP細胞の場合も、肝心の細胞をつくる過程を小保方氏以外の共著者が誰も見ていなかった。普通は実験や録音などの原データは担当者以外は見ないので、そこで捏造が行なわれると、組織全体が情報汚染に陥る。かといって、管理者がすべての原データをチェックしていたら、仕事の大部分が監査になってしまう。
このような情報の非対称性は、分業体制で仕事を行なうときは必ず起こるもので、原理的にゼロにはできない。すべての情報を管理者が知っていれば、分業は必要ないからだ。必要なのは嘘を100%予防することではなく、それを発見したら厳格に処罰して再発を防ぐことだ。嘘が発見されたら職を失うリスクがあれば、普通は嘘をつかない。この点で、小保方氏の身分を守っている理研も、植村記者を早期退職させた朝日新聞も失格である。
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