撃墜機の乗客は生きていた?
ニューズウィーク日本版 / 2014年10月21日 15時21分
7月にウクライナ東部で墜落したマレーシア航空17便の事件を覚えているだろうか。
ウクライナからの分離独立を求める親ロシア派武装勢力と政府軍との戦闘のさなか、親ロシア派の支配地域上空で撃墜され乗員乗客298人全員が死亡した。悲惨だが、少なくとも乗員乗客は何が起こったかも分からずに即死したとみられてきた。
ところが先週、193人の犠牲者を出したオランダのティメルマンス外相は墜落現場から収容された遺体の1つが酸素マスクを装着していたことを国営テレビのトーク番組で明らかにした。つまり、地対空ミサイルによると疑われる攻撃を受けた後も、乗客の何人かは意識があった可能性がある。
番組でティメルマンスは次のように語った。「乗客はミサイルが飛んでくるのを見なかった。だが酸素マスクを着けた者が発見された。その時間があったわけだ。(被弾後も生きていた)可能性は排除できない」
ティメルマンスは事件発生から数日後に開かれた国連安保理の緊急会合でも、乗客には意識があったと語っていた。
「飛行機が墜落するのを知っていた彼らの命の最後の瞬間は、さぞや恐ろしいものだっただろうと想像している」と彼は言った。「最愛の人々と手を握り合ったのか、子供たちを胸に抱き締めたのか、最後の瞬間に互いに見詰め合って無言のお別れをしたのだろうか、と。もう誰にも分からないが」
ティメルマンスの突然の証言は遺族にとっては聞きたくない話だったようだ。最愛の家族が恐怖とパニックの中で死んだと知れば、遺族の心の傷は再びうずきだすのだから当然だ。
「みんなショックを受けている」と、遺族の弁護士を務めるベール・メワは語った。「そしてなぜこんな情報を聞くことになったのか疑問に思っている」
遺族の怒りを受けて、ティメルマンス外相は突然の証言で驚かせたことを謝罪した。ただいくら謝っても、再び傷つけられた遺族の心が癒やされるのは簡単ではない。
[2014.10.21号掲載]
スマン・バランダニ
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