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企業秘密だけじゃない、ソニーがハッカー攻撃で失ったもの - 瀧口範子 @シリコンバレーJournal

ニューズウィーク日本版 / 2014年12月13日 12時45分

 彼女は、外部プロデューサーであるスコット・ルーディンとの間で、女優のアンジェリーナ・ジョリーを才能がないとこき下ろしたり、ドリームワークス共同創業者のジェフリー・カッツェンバーグ宅でのオバマ大統領歓迎の朝食会を「アホくさいジェフリー宅での集まり」などと言って、大物のカッツェンバーグをバカにする発言をしたりしている。パスカルはオバマ大統領や民主党に寄付をしている1人。また寄付を迫られることへの憤りが出たのかのかもしれないが。

 もっと深刻なのは、そのやりとりで人種差別的発言が出てくることだ。上述の朝食会に関して、オバマ大統領は「どの黒人映画が好きなのか、尋ねてやろうかしら」といったジョークがやりとりされている。話題に出た映画は、黒人が虐げられた歴史物、黒人がカウボーイになる話、ホワイトハウスの黒人バトラーの話などで、いずれにしても黒人を殊更に強調した作品ばかりだ。

 給与明細、取引先との契約額などの情報は、ソニーにとっては重大事だが第三者にとっては「なるほど」と参考になる程度。流出した未公開映画は、騒ぎに便乗して観ようとする人々もいたかもしれないが、実際はその数は限られていただろう。

 だが、この人種差別発言はただ「ハッカーに不正に盗まれた情報」としてはすまされない要素を含んでいる。エイミー・パスカルは事件発覚後に「個人的なやりとりが不正に明るみに出されたが、私の本当の人格を反映したものではない」とツイートしたようだ。

 ただし、そんな言い訳は小学生でも信じないだろう。そんな人格だからそんな発言をするのだ。ハリウッドやウォールストリートはパワーと金がものを言う世界で、彼女もハリウッドのトップで恐怖政治を行い、こんなジョークも飛ばしたくなる勢いがあったのだろう。だが、マズいものはマズいのだ。

 これは相手が大統領だったから問題なのではなく、もしオバマがアジア人だったら、彼らはアジア人が出てくる映画を引き合いに出して笑っていただろう。表では差別などとは無縁という顔をしていても、一枚皮を剥ぐとかなり複雑な人種間の感情があるのがこの国である。今回はそれがうっかりと表出してしまったわけだ。

 興味深いのは、これに対してソニーがどう対処するかだ。不正に盗まれた情報の内容をなかったものにできないのは、元CIA職員のエドワード・スノーデンがハッキングで明らかにした国家安全保障局(NSA)の個人情報収集が激しい批判を浴びた問題で我々は経験済みだ。ハッカーや不正侵入という問題以上に議論すべき問題がここにあるという意味では、大袈裟だがこれはプチ・スノーデン的事件と言える。

 ハリウッドの流儀だから仕方がない、という声もある。だが、ソニーはたびたびの攻撃からすでにハッカーに食い物にされているような印象が定着しそうになっている上に、こんな発言をするハリウッド人間にも食い物にされていると捉えられるリスクも小さくない。

 何せパスカルは、親会社であるソニーの平井一夫CEOの約2倍にあたる、300万ドルもの報酬をもらっていることが、今回の情報流出で明らかになった。何らかの対策をしなければ、アジアの親会社は放し飼いする以上の判断力がないものと捉えられるだろう。

 今回の事件は、単なるセキュリティー以上にもっと複雑な構図を露呈させてしまったと言える。

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