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残忍ISISの支配の実態は

ニューズウィーク日本版 / 2015年1月29日 14時59分

 この1年で中東世界の地図は大きく塗り替えられた。新たに出現したのは冷酷無比で顔の見えない敵、欧米的な価値観とは相いれない敵だ。

「イスラム国」を名乗るイスラム教スンニ派テロ組織ISIS(別名ISIL)は今やシリアとイラクにまたがる広範な土地を支配下に置く。その版図は3万平方キロとも9万平方キロともいわれ、約800万の人々がいつどこから、どの武装集団や軍隊の砲弾が飛んでくるか分からない状況で暮らしている。

 米軍などはISISの支配地域に継続的な爆撃を加えているが、現地の生活実態はほとんど知られていない。だがISISは、この混沌のさなかでも一定の統治機構を確立し、第一次大戦後のオスマン帝国崩壊まで脈々と続いてきたカリフ制(預言者ムハンマドの唯一正統な後継者カリフによる国家統治)を復活させつつある。

 オックスフォード大学の人類学者スコット・アトランは先頃、米国防総省と議会に報告書を提出して、事態の重大性に注意を促した。「(イスラム教徒の間で)カリフ国の理想は不滅であり、その復活が多くの人の心を捉えるのは間違いない」とアトランは言う。この段階で欧米諸国がカリフ国の打倒を目指しても全世界のイスラム教徒の反感を買うだけであり、本当に必要なのは「カリフ国の理想と現実を、近代社会と共存可能なものに変えていく努力だ」と、論じている。

 ISIS版「カリフ国」の実情はどうか。事実上の首都とされるラッカ(シリア第6の都市)では「政府」の職員が商店を監視し、期限切れの商品を売っていないかチェックしているという。シャリーア(イスラム法)も、ISISの独特な解釈に従って厳格に適用されている。

「彼らはもめ事の調停に乗り出すなど地域社会とのパイプづくりに努め、関係の正常化も狙っている」と言うのは、アブダビを拠点とするコラムニストのハッサン・ハッサンだ。「例えば最近、彼らはシリア東部で30年以上も対立してきた2つの部族を和解させた。学校教育の現場やモスクでの説教にも細かく指示を出している」



何より安定を望む住民

 英インディペンデント紙によれば、ISISは軍事部門と民生部門を分け、ワリス(閣僚に相当)を指名して統治を指揮させているという。制圧した地域は複数の「県」に分割し、それぞれの責任者の管轄下に置いている。支配地域内の経済を監督する「ムスリム金融館」と称する中央銀行も設立し、独自通貨を発行する計画もある。

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