アラブ合同軍は何を目的とするのか - 酒井啓子 中東徒然日記
ニューズウィーク日本版 / 2015年3月30日 11時2分
エジプトがリビアを空爆し、チュニジアで博物館が襲撃され、イラクで「イスラーム国」(IS)が占拠したティクリートへの奪還作戦が進行し、それに米軍が空爆で参加し、サウディアラビアがイエメンを空爆する。
全中東中で戦争が同時多発的に進行し、一体これはどういう方向に行くのだろうと、五里霧中感の蔓延する中、3月28日、エジプトのシャルム・シェイクで開催されたアラブ連盟首脳会議が、ひとつの方針を明らかにした。「アラブ諸国がかつてない危機に晒されているので、アラブ合同軍を創立する」との方針だ。
アラブ連盟が機能不全に陥って、長い。古くはエジプトが、1978年イスラエルとの単独和平に走ったとき、同年イラクのバグダードで開催された首脳会議で、連盟からの追放を決定された。その後湾岸戦争前夜には、イラク側につくかイラクに占領されたクウェート側につくか(つまりクウェートを支持する米国につくか)で連盟は二分され、その時にはすでに連盟に復帰していたエジプトが主催国として、半ば強引にイラク非難決議を押し通して分裂した。当時のテレビ番組を見ると、平然と議事を進めようとするムバーラク・エジプト大統領に対して、リビアのカダフィ大佐が、「なんだこれは、こんな決め方あるか」と拳を振り上げて抗議する様子が映されている。
以降、「アラブ」の理念でアラブ諸国がまとまることはなく、アラブ連盟が掲げた「アラブの連帯」は机上の空論と見なされてきた。その分、人々の心をつなぎとめるものは、「アラブ」という民族的共通性ではなく、「イスラーム」という宗教的共通性となり、イスラームを掲げた政党が政治を動かしてきた。
それが、ここにきて連帯を強め、合同軍まで結成しようとしている。これはかつての「アラブの連帯」意識が復活したということなのか。
アラブ合同軍の創設が謳われた直接の原因には、ホーシー派の進撃により政権が瓦解し、首都すらもサナアからアデンに移されるという混乱状態のイエメンに対して、3月26日からサウディアラビアが軍事介入を開始したことがある。ホーシー派はシーア派の宗教一族が率いる反政府派で、2014年から急速に勢いを増していたが、今年1月に首相府を包囲してハーディー大統領を辞任に追い込み、実質的にイエメンの実効権力を奪取した。隣国の大国サウディアラビアが、追放されたハーディ政権を支えるとの理由で、ホーシー派支配に釘を刺したのが、今回の空爆である。基本的に強力な自国軍をあえて育成してこなかった(つまり外国軍に依存していた)サウディアラビアが、他国に対する軍事行為を積極的に行うこと自体、極めて異例だ――米軍に求められてうわべだけ軍事参加したり、裏で代理戦争を画策するようなことは、過去にもあったが。
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