人肉食が予防した不治の病
ニューズウィーク日本版 / 2015年6月12日 17時49分
20世紀初頭の時点で、パプアニューギニアの少数民族フォレ族には、死んだ仲間や家族の死体を食べる弔いの習慣があった。身体だけではなく、脳も食べた。フォレ族はそのお陰で、彼ら特有の「クールー病」に対する抵抗力を身につけていたことがわかった。
「クールー病」は、人間の牛海綿状脳症(BSE)にあたるクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)と同じく、悪性のタンパク質プリオンによって引き起こされる。脳内にプリオンが蓄積されると筋肉の動きに異常が起こり、認知症を発症して最終的には死に至る。
患者の神経組織を食べなければ、この病気に感染することはない。だがフォレ族は、仲間の死体の脳を食べることで知らぬ間に病気に感染していた。
しかし人肉食の習慣は、1つ良い効果をもたらしていた。フォレ族の多くが、クールー病やCJDに抵抗力を持つとみられる遺伝子変異をもっていたのだ。科学雑誌「ネイチャー」に今月発表された研究で、ロンドン大学ユニバーシティカレッジ(UCL)のジョン・コリンジの研究チームは、フォレ族から見つかった遺伝子変異をネズミに移植した。すると実験対象のネズミには、クールー病だけでなく2つのタイプのCJD(自然発生に起こるタイプとBSEの牛を食べて感染するタイプ)への抵抗力が生まれた。
人間で確認できたダーウィンの進化論
フォレ族の全員ではないが、多くがこの遺伝子変異をもっている。もし人肉食の習慣が1950年代以降も続いていたら、すべてのフォレ族にクールー病に抵抗する遺伝子が広がっていただろうと、研究チームは推測する。
「これはダーウィンの進化論が人間で確認できる顕著な例だ。プリオンに感染することで、不治の認知症を予防する遺伝子変異が引き起こされた」と、コリンジは国営オーストラリア放送の取材に語っている。
コリンジの研究チームは、遺伝子変異がプリオン病を防ぐメカニズムを引き続き研究している。プリオン病の治療法が見つかるかもしれない。イギリスでは、2000人に1人がCJDの保因者とみられている(実際に発症するのはその一部)。
ダグラス・メイン
この記事に関連するニュース
-
がん予防の実現に向けて
PR TIMES / 2024年11月21日 19時15分
-
長寿研究のいまを知る(10)糖尿病薬「メトホルミン」が抗老化薬として注目されるワケ
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月21日 9時26分
-
【慶應義塾】GFAP遺伝子の変異が認知症の発症に関わる大脳白質病変に影響
PR TIMES / 2024年11月14日 11時45分
-
糖尿病は「一生治らない」の? 1型糖尿病歴30年の専門医が語る「一生涯続く治療」の目的
オトナンサー / 2024年11月14日 6時10分
-
SNSをやめられない人が知らない不都合な真実 「進化」という巨視的な視点がなぜ必要なのか
東洋経済オンライン / 2024年11月12日 12時0分
ランキング
-
1野球カード、大谷選手に返還へ=4900万円相当、検察が表明―米
時事通信 / 2024年12月3日 12時2分
-
2シリアの戦闘再激化、国連総長が停止呼び掛け
AFPBB News / 2024年12月3日 16時23分
-
3ギニアでサッカーの判定巡り観客が暴徒化、56人死亡…催涙ガス使用で出入り口やフェンスに殺到
読売新聞 / 2024年12月3日 10時52分
-
4フランス内閣崩壊の危機 極右がカギ握る不信任案 EU独仏2大国の政局不安続く
産経ニュース / 2024年12月3日 10時1分
-
5北朝鮮兵が攻めてくれば銃向ける ウクライナのコリアン社会
共同通信 / 2024年12月3日 18時55分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください