世界を食らうテクノロジー(1/2)
ニューズウィーク日本版 / 2015年7月13日 19時46分
ベテランの科学技術者が宗旨替えをすると、テクノロジーに対して手がつけられないほど悲観的になる。
例えば、元マイクロソフトのコンピューター技術者で、インドの研究所も共同設立した富山健太郎。会社を辞め、『おたくの異説(Geek Hersey)』を出版した。テクノロジーは社会悪を正すよりむしろ悪化させる、というものだ。
富山や他の多くの技術者は、なぜ急に悲観的になり始めたのだろうか。『ロボットの台頭(Rise of the Robots)』で、テクノロジーに雇用を奪われる暗い将来について書いたソフトウエア技術者のマーティン・フォードもそうだ。人々の家にパソコンを普及させた責任者ビル・ゲイツでさえ、人工知能(AI)は危険で人類を絶滅させるかもしれないと言う。ノーベル賞物理学者のスティーブン・キングがまたこれに同意する!ロボティクスとAIの進化が、原子爆弾以来なかったような科学技術に対する恐怖と妄想をかきたてている。公開中の『ターミネーター』の最新作を観た観客は、これはいったい映画なのかドキュメンタリーなのかと考え始める。「AIに対する悲観主義は正しいと思う」と、富山は無表情に言う。「実際、それは今思われているより悪い」
何ということだ!
富山が正しいにせよそうでないにせよ、テクノロジー産業のイメージは今までとはまったく違うものになってきている。新しい技術や生活の変化を恐れる人々はいつの時代にもいるが、ほとんどの場合、テクノロジーは未来への楽観主義をもたらしてきた。
1851年にロンドンで開かれた世界初の大博覧会では、一般大衆が鉄や写真や電報の驚異を目の当たりにして想像力が大きく広がった。1939年と1964年にニューヨークで開かれた博覧会では、オートメーション、自動車、飛行機などの有望技術が紹介された。1990年代後半のドットコム・バブルとグローバライゼーションも、人々のつながりと、平和と、新たなデジタル経済への夢をもたらした。
新しいテクノロジーは本来、希望をもたらすものであって絶望ではない。それは人々を興奮させるものだ。科学と技術は過去2世紀ほど、ポジティブなイメージの恩恵を受けてきた。「悪役」扱いされたことはほとんどない。テクノロジー会社が自社イメージの心配をしなければならないことはほとんどなかった。
その雰囲気が、過去1〜2年ほどの間にがらりと変わった。人々は初めて、AIを脅威として意識し始めた。足元の失業率は低いけれど、長期的な展望はよくなさそうだし、賃金も上がらなそうだ。金持ちとそうでない人との格差も拡大している。
ニュース記事も書けるしローン審査もできる
フォードの本や、マサチューセッツ工科大学(MIT)のエリク・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィーが書いた『機械との競争Race Against the Machine』では、AIは生産ラインを自動化するように知的労働をも既に自動化している。AIはニュース記事を書き、料理のレシピを創作し、車を運転し、ローンを組む資格があるのは誰かを判断する。AIが知的作業まで置き換えるようになるにつれて、高所得を稼げる人はどんどん少なくなり、雇い主は従来よりはるかに少ない労働者しか必要としなくなる。
コンピューター研究者のマーク・アンドリーセンのキャッチコピーは「ソフトウエアが世界を食べる」だ。ますます多くの人々が、ソフトウエアが彼らの職を奪ってしまうのではないかと恐れ始めている。
*第2回目の記事はこちら→
ケビン・メイニー
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