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NASAを支えた黒人女性の成功物語『ドリーム』

ニューズウィーク日本版 / 2017年9月29日 17時20分

<暗いムードの伝記映画が評価される時代に、前向きな明るさで異彩を放つ>

伝記映画はアカデミー賞で高い評価を受けることの多いジャンルだ。だが『リンカーン』『レヴェナント:蘇えりし者』など近年の受賞作を見ると、どれも全体に暗さが漂っている。もっと正確に言えば、その暗さゆえ高く評価された。

その点、セオドア・メルフィ監督作『ドリーム』は異彩を放っている。近年のトレンドとは違い、直球で描いた後味のいい成功譚なのだ。

物語は60年代初め、NASAの計算部門で働くキャサリン・G・ジョンソン(タラジ・P・ヘンソン)と友人のドロシー・ボーン(オクタビア・スペンサー)、メアリー・ジャクソン(ジャネル・モネイ)の3人を軸に展開する。キャサリンは数学の天才でメアリーは勘のいい技術者、ドロシーは人々をうまくまとめ上げる才能の持ち主だ。

優秀な3人だが、女性ゆえに、そして肌の色ゆえにキャリア面では壁にぶつかっている。だがソ連がアメリカに先んじて有人宇宙飛行を成功させたことで状況は変わり始める。宇宙開発計画の責任者たちが、あらゆる垣根を取り払って優れた人材を登用する必要性を理解したからだ。

キャサリンはNASAのエリート部門である宇宙特別研究本部に登用され、気難しい上司の下、ジョン・グレン宇宙飛行士を周回軌道に送るため奮闘することになる。メアリーは上司の支援を受け、白人専用の高校で技術者養成の講義を受けるために裁判所に請願を行う。プログラミングを独学で学んだドロシーは、新しいデータ処理システムの管理者に任命される。

リアリティーに欠けるが

勇気づけられる話ではあるが、主人公たちが比較的容易に大きなことを成し遂げてしまうので現実味に乏しい印象もある。知名度の低い人々を取り上げたおかげで、メルフィは「偉人の事実を正確に描く」というプレッシャーに縛られずに済んだ。そして実話をかなり自由に脚色することができたのだ。



そんな浮世離れした話に説得力を持たせているのが3人の女優たちの演技だ。ドロシー役のスペンサーは相手に決してノーを言わせない、静かだが強い女性を見事に演じている。メアリー役のモネイも、自信過剰と不安の間を行ったり来たりする心の動きをうまく表現している。

最も感情に訴え掛ける場面を任されたのはやはり、主人公キャサリン役のヘンソンだ。同じポットからコーヒーを飲むのを嫌がる白人の同僚たちに異議を唱えたり、1日に何度も遠く離れた黒人用トイレまで行かなければならない不便さを訴える場面では非常に心を動かされ、考えさせられる。もっとも彼女の演技力の幅を一番実感できるのは、明るく楽しい場面のほうだ。

メルフィは人種差別や性差別の問題を真正面から扱った。それでも彼の狙いは、型にはまった物語を観客に押し付けることでもお涙頂戴でもなく、人々を勇気づけるサクセスストーリーを描くことだったのは明らかだ。

本作にはわざとらしいナレーションも、月並みな恋愛要素もなければドキドキするようないい男も出てこない。そこにあるのは素晴らしい女性の先人の姿であり、女性たちを応援し、教え導き、その心に訴えようとするメッセージ。彼女たち3人が教えてくれたこと、それはどんなに無理だと思えても、不可能はないということだ。




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[2017.10. 3号掲載]
エイミー・ウエスト

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