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インド13億人を監視するカード

ニューズウィーク日本版 / 2017年10月4日 10時30分

<生体認証の個人識別番号制度「アドハー」が誕生して7年。数々のメリットがある半面、プライバシー上の懸念も>

イアン・セクエイラが働くインドの首都ニューデリーの政府シンクタンクで不気味な変化が始まったのは、2015年のことだった。

まず、オフィスの全ての階に生体認証マシンが2台ずつ設置された。その1カ月後には、紙の勤務記録シートが廃止された。今後は、生体認証マシンに指紋をスキャンさせ、自分の「アドハー」の番号を入力して出退勤を記録しろというのだ。

インド政府は09年、アドハーという新制度を導入し、一人一人の国民に12桁の個人識別番号を付与し、13億の全国民の情報を1つのデータベースに集約する取り組みを開始した。アドハーとは、ヒンディー語で「基礎」という意味。福祉受給の有資格者に漏れなく給付を行い、さらには不正受給をなくすことが目的としてうたわれた。

新制度がスタートすると、インド各地で多くの人が続々と登録センターに足を運び、生体情報(顔写真、両手の全ての指の指紋、両眼の虹彩)を登録して身分証明カードを受け取った。7月の時点で成人の99%以上、11億6000万人近くが登録を済ませた。世界最大の生体情報データベースは、ほぼ完成に近づいていると言っていいだろう。

今では福祉だけでなく、銀行取引や住宅ローンの契約、携帯電話の利用など、暮らしのさまざまな領域にアドハーが入り込み始めている。セクエイラのような政府職員は、勤怠管理もこの数字を使って行う。

個人識別番号の導入には多くの利点があるが、危うい面もある。セクエイラの職場に新しいマシンが導入されたとき、「職員たちは自分の番号を把握していなかった。そこで、マシンの隣に全員の氏名と番号を記した紙が張り出された」と言う。「ばかげている。個人データのずさんな扱いに腹が立った」

不正受給対策として出発

個人識別番号のアイデアが最初に持ち上がったのは、2000年代前半。国民全員に個人識別番号を与えれば、福祉の効率性が高まり、コストも節約できるという考えだった。

当時、低所得者向けの食料や肥料の配給の4分の1が不正に受給されていた。その根本的な原因は、適切な個人識別制度が存在しないことにあると、政府は主張した。インドでは、出生証明書を持っている人は全国民の半分以下。納税している人はもっと少なく、運転免許を持っている人はさらに少ないのだ。

「アドハーを導入した理由は主に2つあった」と、インドのIT大手インフォシスの共同創業者で、インド固有識別番号庁(UIDAI)の初代総裁としてアドハー導入を推し進めたナンダン・ニレカニは言う(現在はUIDAI総裁を退任)。

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