スペインは民主国家でなくなった
ニューズウィーク日本版 / 2017年10月20日 14時47分
<住民の独立の意思を暴力的な手段で封じ込めようとするスペイン政府、そしてそれを黙認する他のEU諸国に、民主政府を名乗る資格はない>
1776年のアメリカ独立宣言以来、人々が自分たちで政府を決める「自決」の考えは世界に広まった。政府は人々に奉仕するもので、国王や独裁者の側に立って人々を抑圧してはならない、という考えでもある。近年は特にこの「自決」願望が高まっている。
イラクのクルド人自治区やスペインのカタルーニャ自治州では、住民投票の結果、独立に賛成する票が多数を占めた。しかしアメリカ独立戦争のときの大英帝国と同様に、イラクもスペインも住民投票に表れた意思を抑圧している。
スペイン政府がカタルーニャ独立の賛否を問う住民投票に警官隊を投入して阻止しようとしたこと、それをEU(欧州連合)やアメリカが黙認したことは、最悪の事態だ。
10月1日のカタルーニャの住民投票では、約90%が独立賛成に投票した。投票率は43%と低かったが、それは投票率警察が暴力的に住民投票を阻止したせいもあるだろう。
投票所では高齢者までが乱暴に扱われ、住民は投票箱に近づけなかった。警官は住民に向けてゴム弾を発射し、投票や抗議に参加した住民数百人が負傷した。
いつも聖人面のEUも加担
こうしたおぞましい行動にとどまらず、スペインの「民主的」な政府は、もしカタルーニャが独立を宣言すれば、自治州の統治権も剥奪すると脅しをかけている。次は戒厳令でも敷こうというのか?
スペイン政府の抑圧的対応の裏にあるのは、カネの問題だ。カタルーニャはスペインとは別の文化だが、スペイン政府にとってカタルーニャは「稼ぎ頭」。スペインで最も裕福で、交付金を上回る税収を政府に納入している。カタルーニャはスペインのGDPの約20%、輸出額の25%を占めているのだ。
スペイン政府の暴力的な対応に加え、フランスの欧州問題担当相までが、カタルーニャがスペインから独立すれば自動的にEUから追放されると恫喝している。
民主国家連合として聖人面をしているEUも、いくつかの明白な理由から間接的にスペイン政府を支持している。
まず他のEU加盟国には、同じように独立運動を国内に抱えている国があり、独立気運が波及することを恐れている。仮にカタルーニャが独立した場合、WTO(世界貿易機関)にも非加盟となるため、EUとカタルーニャの間に関税障壁が生まれて貿易もダメージを受ける。
カタルーニャでは住民投票の後、25万~40万人が独立反対を叫んでバルセロナをデモ行進した。しかしデモ参加者にはスペインの他の土地から来ていた人も紛れており、カタルーニャ住民の人数はわからない。
独立を求めるデモは今も続いている。しかし独立反対デモの規模が大きかったことから、カタルーニャ自治州のカルレス・プッチダモン首相は明確な独立宣言は行わず、スペイン政府に対して「住民投票の結果の実現を図るための」対話を求めている。
これに対してスペインのラホイ首相は、分離独立の動きが白紙撤回されるまでカタルーニャとの交渉には応じないと拒否している。
アイバン・エランド(インディペンデント研究所シニアフェロー)
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