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ノルウェー永久凍土の「種子の方舟」が、人類を滅亡から救う?

ニューズウィーク日本版 / 2018年5月30日 17時0分

<核戦争や気候変動に備えて農作物の種子を永久凍土で冷凍保存。しかし保管先の北極圏の島にも地球温暖化の影が忍び寄る>

永久凍土が広がる北極圏の島に、人類を滅亡から救う「最後の砦」がある――。SF映画の中の話ではない。そんな場所が現実に存在する。

ノルウェー領スバールバル諸島の最大の島、スピッツベルゲン島。ここにある「スバールバル世界種子貯蔵庫」には、世界中の種子バンクに貯蔵される種子の「予備」サンプルが保管されている。核戦争や破滅的な気候変動が起きた場合に、農作物の絶滅を防ぐことが目的だ。

設立10周年を迎えた今年2月末、7万6000点の新しいサンプルが同施設に運び込まれた。保管されている種子の種類は100万点の大台を超えた。

ノルウェー政府が運営する同施設には、世界中の種子バンクから送られてきたサンプルが冷凍保存されている。何らかの理由で産地から消滅した作物があれば、ここに保管されている種子を使って「復活」させる。それにより、世界の食糧生産と農作物の多様性を守ることが期待されている。

「世界中から100万種以上ものサンプルが届いたのは非常に喜ばしいことだ」と、ノルウェーのヨン・ゲオルグ・ダーレ農業・食糧相は述べた。「将来世代の食糧生産と今後の人口増に備える上で、この貯蔵庫は重要な役割を果たせる」



シリア内戦で最初の出番

世界には約1700の種子バンクが存在するが、その多くは戦争や自然災害、あるいは冷却系統の故障などの些細なトラブルの脅威にさらされている。スバールバル世界種子貯蔵庫はそれらより安全性が高いと考えられている。貯蔵庫は永久凍土に覆われた離島の山肌をくりぬいて造られており、もし冷却系統が故障しても氷点下の低温が維持されると期待されているからだ。

しかし、不安もある。この北極圏の島にも地球温暖化の影響が迫っているのだ。

ノルウェー政府は、温暖化が進んでも貯蔵庫が機能できるように、1300万ドルを費やして改修を予定している。最悪の場合、2100年までにスバールバル諸島の年間平均気温は現在のマイナス5.9度から3.3度にまで上昇し、降雨量は1.4倍に増加するとの予測もある。



「永久凍土の下に貯蔵庫を造る最大の狙いは、温暖化の影響を避けることにある」と、農業・食糧省の委託で調査を行ったノルウェー政府公共建設・不動産管理部門の広報担当者は述べている。しかし「気候変動が進めば、永久凍土が縮小する」。

それに備えて、新しい冷凍設備と緊急用発電設備の導入などが予定されている。また、気候変動により氷河が溶け出したり、降雨量が増えたりすることへの対策として防水壁も設置された。

莫大な改修資金をつぎ込むことを疑問に思うかもしれないが、この施設は早くも威力を発揮している。15年には、ここに保管されていた種子が初めて活用された。シリアの乾燥地帯に適した小麦や大麦などの種子が提供されたのである。シリア国内の種子バンクは、内戦で大きなダメージを負っていた。

現時点では、スバールバル世界種子貯蔵庫の3つの貯蔵室のうち、まだ1つしか稼働していない。今後さらに、450万点のサンプルが保管可能。空いているスペースはたっぷりある。



[2018.5.29号掲載]
アリストス・ジョージャウ

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