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抗鬱剤とのうまい別れ方

ニューズウィーク日本版 / 2018年7月4日 18時0分

<アメリカで増加する長期投与――抗鬱剤の弊害への懸念が生まれている>

現代において、鬱病はありふれた病であるとともに大きな問題だ。米国立精神衛生研究所(NIMH)によれば、アメリカで鬱病に罹患している成人の数は1600万人を超え、全体の約6.7%に達するという。

最近になってアメリカにおける抗鬱剤の長期的投与が2010年以降で倍増しているとの研究が発表され、常用や禁断症状を懸念する声が上がっている。

ニューヨーク・タイムズ紙は4月、政府の統計を基にした抗鬱剤使用に関する分析記事を掲載した。これによれば、少なくとも過去5年の間に抗鬱剤を使ったことがあるアメリカ人は1550万人に上り、その割合は00年以降、3倍に増えているという。

抗鬱剤には、気分や感情を左右する神経伝達物質のバランスを維持する効果がある。だが服用をやめる際に起きる禁断症状を懸念する人は多い。

ニューヨーク・タイムズの記事の分析に協力したコロンビア大学のマーク・オルフソン教授(精神医学・疫学)は本誌に対し、抗鬱剤を長期服用している成人は劇的に増加していると語った。

ただし、「断薬しようとして失敗した患者の数がこの傾向にどれほど影響しているかは分からない」という。「にもかかわらず、抗鬱剤を処方するかかりつけ医の多くは、禁断症状を最小限に抑えるための減薬の方法についてほとんど訓練を受けていない」と、オルフソンは警告する。

オルフソンは、鬱病を患うアメリカ人の多くは適切な治療を受けておらず、鬱病は患者本人にとっても家族にとっても「大きな重荷」になっていると指摘する。「もしこの新たな研究のせいで鬱病患者が必要な助けを求めるのをためらうようなことになれば問題だ」と、彼は言う。

トークセラピーのように抗鬱剤と同じくらい効果的な治療法の選択肢もあるが、費用は薬物療法よりずっと高いことが多い。

2月に医学誌ランセットで発表された研究では、抗鬱剤が鬱病の治療に効果を上げていることが改めて証明された。この研究では、522件の臨床試験(参加した患者数は11万人以上)のデータを集めて分析。

対象となった抗鬱剤21種類の全てで、成人の急性症状には偽薬よりも効果があったことが確認された。また、効果や副作用の強さの薬ごとの違いも明らかになった。

英家庭医学会のヘレン・ストークスランパード会長は「抗鬱剤はマイナス面ばかりが取り上げられたり、最後の手段として語られることが多い。これ(抗鬱剤のマイナスイメージ)が、心を病む人々に対する偏見を助長しかねない状況だ」と語る。

彼女はまた、患者を抗鬱剤依存にするのは医師の望むところではないと言う。それには薬とのうまい付き合い方と別れ方への理解が、医師にも患者にも広がることが欠かせない。

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[2018.6.19号掲載]
トレイシー・リー、キャサリン・ハイネット

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