仕事を奪うAIと、予想外の仕事を創り出すAI

ニューズウィーク日本版 / 2018年12月27日 17時0分

<技術の進歩という革命を悲観することはない。トラック運転手からウエーター、数学者、医師まで、作業の「ロボット化」は多くの人から仕事を奪うが、多くの可能性ももたらす>



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先の戦争に学び次の戦争に備える。碁や将棋の世界では既に人工知能(AI)ソフトが名人級の棋士を次々と破っている。でも、人間の棋士が失業したという話は聞かない。なぜだろう?

AI棋士が今よりも賢くなるには、人間の棋士から学び続ける必要があるからだ。そうであれば、AIが私たちの雇用を奪うというのは取り越し苦労にすぎず、むしろ今までとは違う雇用を生み出してくれると期待していいのかもしれない。

実際、今や世界の先端企業はこぞってAIの開発に取り組んでいる。IBMは「ワトソン」の開発に10億ドルを投じ、アマゾン・ドットコムはAIアシスタントの「アレクサ」に期待をかけ、アップルも「Siri(シリ)」で対抗。グーグルやフェイスブック、マイクロソフトもAIやロボットの研究に巨費を投じている。

AIがもたらす変化は速く、かつ巨大だろう。過去にこれに近い変化が起きたのは20世紀初頭だった。自動車や電気通信、飛行機、電気の使用が一気に普及し、その後の20年ほどで世界は劇的に変わってしまった。

私たちも今、新しいテクノロジーがものすごい勢いで登場してくるなかで同じような激動の時代に突入している。とりわけ重要なのがAIだ。それは技術哲学者のケビン・ケリーに言わせれば「全ての原動力」。ロボットもバーチャルリアリティーも、ブロックチェーンも3DプリンターもAIなしにはあり得なかった。

しかも現代は全世界がネットワークでつながり、30億人がスマートフォンを持ち、世界規模のクラウドを共有している。買い物も交際も、仕事も娯楽も、主たる舞台はネット上にあって、いや応なくグローバルにつながっている。こんな世界では、変化の波は史上最強の津波となって私たちを襲ってくる可能性がある。

この変化についていくのは容易ではない。現在のAI主導の革命はあまりにスピードが速いため、私たちは今後どうなるのかを想像することさえできずにいる。

AIと人間の脳の研究企業ヌメンタを創業したジェフ・ホーキンズに言わせると、今のAIは1950年代初頭のコンピューターのような段階にある。つまり、まだまだ黎明期だ。しかしコンピューターは、その段階から20年もしないうちに航空機の予約システムや銀行のATMを生み出し、人類の月面到達を手助けした。1950年代には誰も予想し得なかった変化だ。

カクテルを作るロボット・バーテンダー「カール」 FABRIZIO BENSCH-REUTERS

トラック運転手がいなくなる

AIとロボットが今後10~20年で社会にどのような影響を及ぼすのか。それを予想するのはさらに難しい。

では、AIは労働市場にどのような影響を及ぼすだろうか。

現在、世界で最も多くの人が就いている仕事はトラックの運転手で、アメリカだけでもその数は350万人に上る。しかし2016年4月にはオランダ政府が、国境を越える自動運転トラックの走行試験を成功裏に実施した。同年、配車サービスのウーバーは、自動運転トラックの新興企業オットーの買収に6億8000万ドルを投じている。

【参考記事】「投資家パックン」と読み解く、2019年世界経済の新潮流



コンサルティング会社のマッキンゼーは、8年以内に全トラックの3分の1が自動運転車になると予想している。つまり、ドナルド・トランプ米大統領の在任中に百数十万もの運転手がAIに仕事を奪われる可能性があるわけだ。15年後には「トラック運転手」という職業自体が過去の遺物となっていてもおかしくない。

著名なAI研究者でスタンフォード大学のスリア・ガングリは、順調にいけば5年以内に、AIが医療の画像診断や司法の判例調査という作業で人間をしのぐだろうと予想する。

ホーキンズも、いずれは「偉大な数学者」のようなマシンが登場すると予測している。「定理の証明や数学的構造の解明に挑み、麗しき高次元空間を頭の中で思い浮かべるのが数学者だが」と、彼は言う。「それは必ずしも『人間的』な仕事ではない。むしろ、そういう仕事のためのマシンを設計したほうがいい。そうすれば初めから数学的な世界に生き、数学的な行動を取り、人間の100万倍のスピードで働いても疲れを知らない究極の数学者を作り出すことができるだろう」

あなたが数学者やトラック運転手でなくても、機械的で単調な仕事に就いているならば、10年後には「過去の遺物」になりかけている可能性が高い。その手の雇用は徐々に失われ、いずれは博物館行きとなるだろう。真っ先に消滅しそうなのは、大学に行かなくても就けるような仕事。トラック運転手やウエーター、工場労働者やオフィスの事務員などだ。

その後は、いわゆる知識労働者にも危機が迫る。例えば簡単な会計業務はソフトウエアに取って代わられるだろう。単純で定型的な文書作成業務もそうだ。既にブルームバーグでは、決算報告書の作成をAIソフトに委ねているという。

医者も安泰ではない。未来の患者は、まずスマートフォンでAIドクターに相談する。症状を説明し、患部の写真でも送れば、AIが初期診断を下し、市販薬を飲むか専門医にかかるかの助言もしてくれるだろう。

言うまでもないが、初歩的なAIは何十年も前から存在している。グーグルの検索エンジンが極めて正確なのはAIをベースに構築されており、何十億件という検索結果から学習しているから。フェイスブックがあなたのニュースフィードに、あなたが好きそうなものを送ってくるのもAIを活用しているからだ。

しかしAIがトラックを運転したり、患者の診断を行ったりすることを可能にするには、まだ何かが足りない。例えば膨大な量のデータ(いわゆるビッグデータ)を瞬時に解析し、AIソフトに学習させる能力だ。

【参考記事】トランプ「給料を高く高く高く」政策の成績表 米経済の不安材料は?



今の私たちは何でもオンラインで済ませようとするから、そうした行為の全てが記録され、保存され、AIの学習材料となっている。人や車、屋外のさまざまな場所に設置したセンサーを利用する「モノのインターネット(IoT)」も誕生した。そうしたデータを解析してAIに供給するには膨大な計算処理能力が必要だが、それもクラウド・コンピューティングを使えば誰でも簡単に手に入れられる。

こうしたことから、AIがどんな仕事もこなせる段階に到達するのは時間の問題と考えられる。そしてこの認識が、猛烈なパニックの連鎖を引き起こしている。オックスフォード大学の研究によれば、人間が行っているあらゆる作業の約半分は機械で代替できる。一部には、総労働人口の90%が失業するとの予測もある。

人手を介さずにロボットアームで車を組み立てる工場 AKOS STILLERーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

生み出される新しい職業は

2016年9月、人々の不安をなだめ、政府からの介入を未然に防ぐために、AI企業大手数社は「AIに関するパートナーシップ」を結成した。「われわれはAIが世界を肯定的に変える可能性を強く信じている」と、グーグルのムスタファ・スレイマンは語った。

一方、「心配なのは、ロボットが人間の仕事を奪い、人間を失業させることではない」と、米大統領経済諮問委員会のジェーソン・ファーマン前委員長は語っている。問題は、AIが人間の仕事を奪うスピードが速いと、「多くの人が失業する期間が長引きかねないということだ」。

それでも、悲観し過ぎるのは禁物だ。例えばライアン・ディタートが立ち上げたインフルエンシャルという会社は、IBMのワトソンをベースにしたAIシステムを構築した。このシステムはソーシャルメディアを精査して、多数のフォロワーがいる「インフルエンサー(影響力のある人)」を見つけ出し、それぞれのネット上のパーソナリティーを分析している。

特定のブランドがターゲットとする消費者の特性に合致するインフルエンサーを発掘し、そうした人とブランドを結び付けるためだ。ブランド側はインフルエンサーに報酬を払い、自社製品を宣伝してもらう。つまり、インフルエンシャルのような企業が成功すれば、一方でブランド・インフルエンサーという全く新しい職種が誕生するわけだ。

来るべきAI経済は、インターネットが予想外の仕事を生み出したように、現時点では想像もできない仕事をいくつも発明するだろう。30年前には「検索エンジン最適化の専門家」などという職業は存在しなかったが、今ではかなり実入りのいい仕事だ。

AIに限らず、産業の機械化・自動化で人間の職が奪われることは過去にもあった。セルフ給油の普及で多くのガソリンスタンドから店員の姿が消えた。だがそれは社会全体の生産性を向上させ、別な価値を生み出す別な職業を生む要因にもなった。



AIがつくり出す新たな仕事を探すことにかけては、今ある就職支援ツールよりもAIのほうが役立つはずだ。将来、AIは人々の能力や夢、希望を把握し、世界中からそれに合った職を探してくるだろう。

米労働省によれば、アメリカには約680万の失業者がいるが、空いているポストも600万人分ある。強力なAIのマッチングシステムがあれば適材を適所に配置でき、この雇用格差を劇的に減らせるだろう。

AIの時代にも活躍できるのは、人付き合いや創造的思考、複雑なインプットを要する意思決定、共感や探究といった「人間ならでは」の能力を生かす仕事に就いている人だ。

最後に勝つのは「善い魔女」

AIは手元にないデータについて考えることができない。ある人が何を好むかというデータに基づき、その人がフェイスブック上で見たいものを予測するのは得意だが、とんでもないものを好きになる可能性は予測できない。意外性を愛するのは人間だけだ。

また、AIの支持派によれば、AIは人間と競うのではなく協力する存在だ。1年ほど前、私は癌研究者のソレダ・セペダから、日々の研究にAIをどう取り入れているかを聞いた。セペダによれば、研究助手が2週間かけてやっと分析できる量のデータとテキストを、AIソフトは2秒で終わらせる。おかげで助手は頭を使う仕事をする余裕ができ、治療法の研究速度が上がったという。

AIは協力者として喫緊の課題を解決するチャンスをもたらすだろう。癌を撲滅し、気候変動を緩和し、人口爆発を制御し、人類を火星に送り込む手助けもするかもしれない。

もちろん、全てが成功するとは限らないが、AIなしでは実現できないことも確かだ。つまり、人類にとってAIの開発より悪い唯一のことは、AIの開発をやめることだ。

おとぎ話の世界には悪い魔女と善い魔女が登場するが、AIは悪い魔女(破壊者)にも善い魔女(創造者)にもなり得る。どうせ最後には善い魔女が勝つのだが、おとぎ話の住人はそれを知らずにうろたえる。

今の私たちもそんな状態にあるのだろう。だからAIという怪物から逃げたがる。でも、明日のAIは白馬の騎士に見えるかもしれない。

<ニューズウィーク日本版SPECIAL ISSUE「世界経済入門2019」掲載>

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ケビン・メイニー(本誌テクノロジーコラムニスト)

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