対中貿易戦争か国内経済か......トランプに決断の時が迫る

ニューズウィーク日本版 / 2019年3月30日 14時30分

<米政権内は対中交渉をめぐって対立しているが、再選を目指すトランプは交渉妥結を必要としている>

トランプ米大統領にとって、貿易は常に単純なものに見えていた。アメリカが赤字を出している貿易相手国、特に最大の悪役である中国を罵倒することは16年の大統領選挙当時、中西部の工業地帯で有権者の心をつかむ格好の手段だった。

実際、ウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルベニア州などでは有権者が予想外にトランプに味方した。自らの直観と感性が認められ「私は貿易のおかげで勝った」と、彼は選挙を戦った盟友に語っていた。

ただ、トランプが理解していなかったのは、貿易問題は複雑ということだった。ビジネスマンであり、自称・すご腕交渉人のトランプは、主要な貿易相手国に関税を課すことを交渉で利用できると考えていた。

トランプは中国だけではなく、カナダや日本、韓国、EUなどの同盟国にも関税を押し付けた。だが共和党を支持する投資家たちは、トランプの減税と規制緩和策は好んだが、貿易紛争は嫌がった。

調査会社IHSマークイットの分析が示すように、貿易戦争が新聞の見出しになると市場はひどく弱気になり、解決が見えてくると強気になる。

トランプは関税を武器にしているが、同時に株価の動向も気にしている。政権内のある経済顧問によれば、「トランプは、貿易戦争をしながら同時に株価を上げることはとても難しいと気が付いた」。

トランプと中国の習近平(シー・チンピン)国家主席との会談は2月から幾度も延期され、現時点では6月との見方もある。だがトランプの決断の時はいつか必ずやって来る。

政権内には貿易政策をめぐって対立があり、中国との交渉内容はいまだに議論が続く。ローレンス・カドロー国家経済会議(NEC)委員長は先日、政権の経済顧問の意見は一致しているとテレビ番組で主張したが、事はそれほど単純ではない。

重要なのは失業率と株価

カドローは貿易問題では比較的ハト派であり、中国との合意はなるべく早いほうがいいと主張している。

だが米通商代表部(USTR)のロバート・ライトハイザー代表は、アメリカは現在の交渉案よりも有利で包括的な取引ができると考えており、大統領に忍耐を求めている。ライトハイザーはさらに、時間はトランプの味方だと主張している。米経済は比較的堅調に推移しているが、最近の多くのデータによると中国経済は低迷している。習は国内の政治的圧力を受けており、トランプ以上に交渉妥結を必要としていると、ライトハイザーは言う。



だが20年の大統領選挙に向けた準備が進むなか、トランプにとっても国内政治は非常に重要だ。彼は選挙運動で、繁栄の拡大と16年の選挙公約の実現を訴えようとしている。トランプにとって経済の重要な指標は、失業率の低さと株価の上昇だ。

市場は常に変動し、企業の収益の拡大に依存している。多くのエコノミストは、トランプによる減税の効果が弱まるにつれてGDPの伸びが鈍ると予想しており、そうなれば持続的な株式市場の回復は困難になる可能性がある。

貿易問題でタカ派のライトハイザーは、中国が犯したいくつもの貿易のルール違反について弁護士らしく説得力のある告発をしたかもしれない。だがトランプが気にしている唯一の陪審員は有権者だ。だから早かれ遅かれ、トランプは中国と取引をし、勝利を宣言することになるだろう。

<本誌2019年04月02日号掲載>



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ビル・パウエル(本誌シニアライター)

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