残留へと傾き始めたイギリスの変心にEUは期待する

ニューズウィーク日本版 / 2019年4月19日 13時30分

<離脱期限の10月末までの延長に合意したカギは残留支持に傾き始めたイギリス世論の動きだった>

ブレグジット(イギリスのEU離脱)の期限をハロウィーン(10月31日)まで延期──この合意によって、EU各国の首脳たちはイギリスがEU残留に心変わりすることを期待している。

4月10日のEU臨時首脳会議で、テリーザ・メイ英首相は離脱日を4月12日から6月30日に延期することを要請した。しかしイギリスを除くEU加盟27カ国の首脳は深夜に及んだ交渉の末、最長で10 月31日までの延期に合意し、メイの短期の延期要請を退けた。

合意の大きな要因は、イギリス世論にブレグジット支持が弱まっていることだ。3月にはロンドンで、EU残留を求める100万人規模のデモも開かれた。

そうした空気の中でイギリスが心変わりをすることを、EU各国は期待している。実際、一部のイギリス政府関係者は、6カ月の期限延期によってイギリスが残留に傾く可能性は十分にあると見ている。

離脱期限が延期されたことで、イギリスの「合意なき離脱」の可能性はほぼなくなった。これによって、メイは切り札を失ったことになる。

これまでメイは、「合意なき離脱」が現実になれば経済が大混乱に陥ると主張し、自らの離脱協定案を支持するよう議員に働き掛けてきた。それでもメイは、3回にわたる採決で大敗を喫した。

最初の犠牲者はメイ?

超党派の合意を得ようと、メイは4月3日から労働党のジェレミー・コービン党首と協議を始めた。しかし、この試みが成功すると考える議員はほとんどいない。

「メイの罠にはまるほど、ジェレミーが愚かではないことを願っている」と、トニー・ブレア元首相(労働党)の上級顧問だった人物は匿名を条件に語った。「大混迷の責任の一端を労働党に負わせるのがメイの狙いだ。しかしメイと何らかの合意をすれば、労働党は修復不能なまでに分裂するだろう」

コービンは、イギリスがEUの関税同盟にとどまることを望んでいる。そうなればイギリスは、EUの経済的ルールとの緊密な結び付きを維持する。政治的な発言力は失う一方で、ルールには従うことになる。

影の内閣でEU離脱担当相のキア・スターマーや、外相のエミリー・ソーンベリーをはじめ、労働党の実力者の多くは、いかなる離脱協定案についても国民に是非を問う「確認のための国民投票」を実施すべきだと主張している。党員の圧倒的多数も同じ意見だ。



一方のメイは、関税同盟への残留も2度目の国民投票についても、可能性を強く否定している。だがメイは、既に現実になった多くの事柄についても可能性を否定していた(ブレグジットの期日延期もその1つだ)。

さらに今のメイは、議会での審議もコントロールできなくなっている。自ら率いる保守党も、政府案に反対する造反議員が数十人出ることが珍しくなく、制御できているとは言い難い。

ロンドンの国会議事堂の前でEUの旗を振る残留支持派(4月11日) GONZALO FUENTESーREUTERS

メイの権威は失墜し、守られなかった約束も増えるばかりだ。ブレグジット期限延長の最初の犠牲者は、もしかするとメイ自身になるかもしれない。

「(メイは)ブリュッセルで時間稼ぎを懇願して自ら恥をかき、国にも恥をかかせた」と、保守党の離脱支持派であるマイケル・ファブリカント議員は10日夜、記者団に語った。「ここから保守党の支持を得て持ち直そうなどと期待すべきではない」

保守党は昨年12月、メイに対する党首としての信任投票を実施した。これによってメイを党首の座から引きずり降ろそうとしたが、彼女は信任された。党の規則により、1年間は信任投票を再実施できない。

だが既に造反議員たちは、党規則を変更してメイを追い落とそうと、草の根の党員約1万人の署名を集めて運動を展開し始めている。ただしメイに代わる新しい党首が誕生しても「何も変えられないだろう」と、保守党の反メイ派の元閣僚は言う。「(新党首は)強硬な離脱支持者になる。保守党の強硬派は、みんなブレグジットを望んでいるからだ」

労働党がメイの離脱案を支持せず、新しい保守党党首がメイよりも強硬な離脱支持派になるのなら、イギリスがこの混迷を脱出する方法は2つしかないだろう。ブレグジットの是非を問う総選挙か、国民投票だ。

カギを握る2つの選挙

どちらも保守党にとって望ましい展開ではない。カンター社が4月上旬に行った世論調査では保守党の支持率は32%と、3月の41%から急降下。労働党の支持率は、31%から35%に上昇している。

同じ調査で、ブレグジットについて国民投票のやり直しを支持する回答者は51%で、反対は32%にとどまった。EU残留を支持する人は41%、離脱支持は35%、「決めていない」が9%だった。

イギリスの命運を決するために集まったEU加盟国首脳のうち、フランスのエマニュエル・マクロン大統領だけが離脱の遅れが長引くことに反対した。イギリスがEU加盟国である状態が続くと、自身が提唱しているEU改革案が邪魔されかねないというのだ。

「私たちはヨーロッパの再生を進めている。ブレグジットによって、それを阻まれたくはない」と、マクロンは首脳会談前の記者会見で語った。

6カ月の期限延長は妥協の産物と言えた。ドイツのアンゲラ・メルケル首相を含む参加者の大半は、イギリスにもう1年与えて、方針を整理させたいと考えていた。



だが、加盟国の我慢もそろそろ限界のようだ。オックスフォード大学の著名な歴史学者ティモシー・ガートン・アッシュは先週、「長年の友人たちや親イギリス派も含め、大陸ヨーロッパの人々の大多数に見限られたことに、私はショックを受け、悲しんでいる」と、英ガーディアン紙に寄稿した。「イギリスは今や除外すべき毒であり、壊疽(えそ)にかかった手足だ。ヨーロッパはイギリスを切り離したほうが健康になると見られている」

EUのドナルド・トゥスク大統領は、イギリスは決断を永遠に先延ばしにすることはできないという明確なメッセージを送った。「今度は時間を無駄にしないでほしい」と、トゥスクは記者団に語った。

しかしブレグジットの遅れについて審議を行った英議会では、緊急性が感じられなかった。「圧力弁が解除されたような感じだ。議員はメイを追い落とせず、閣僚の間には諦めが漂っている。誰もが休憩を欲しがっている」と、 ガーディアン紙の政治記者ジェシカ・エルゴットは下院議場からツイートした。

疲れ果てたイギリス政界を、間もなく2つの選挙が揺さぶるかもしれない。1つは5月2日に予定される統一地方選。もう1つは5月23日の欧州議会選で、ブレグジットの遅れによりイギリスは今回も参加する。

今まではどちらの選挙に対しても、イギリス人の関心は薄かった。投票率が低いために、支持率から予想された数をはるかに超える議席を野党が獲得したケースも多かった。

前回14年の欧州議会選では、強硬な反EU派のイギリス独立党(UKIP)が24議席、労働党が20議席を勝ち取り、保守党は19議席だった。統一地方選と欧州議会選では、失望したブレグジット支持派と不満を抱く残留派の両方が既存の政党に不満を伝えようと、大規模な抗議投票を行うことになりそうだ。

時間は常に残留派の味方だ。ブレグジット支持が僅差で多数を占めた16年の国民投票の民主的な正統性は、刻々と失われていく。離脱派に多い高齢の有権者は少なくなっていき、EU残留を強く支持する若い有権者の割合が増えるためだ。そしてEUは渋々ながら、イギリスに時間を与えることに同意した。

イギリスと大陸ヨーロッパ両方のブレグジット反対派が望むのは、今年のハロウィーンがただのお祭りではなく、イギリスがブレグジットの悪夢から目覚める瞬間になることだ。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2019年04月23日号掲載>



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オーエン・マシューズ

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