【トランプの疑惑】沈黙を守るムラー特別検察官の狙い
ニューズウィーク日本版 / 2019年5月13日 11時15分
<バー司法長官の短い概要や証言だけでは不十分。今こそムラー本人が説明すべきだ。なぜバーの概要を批判したのか。なぜトランプを訴追しなかったのか。報告書の真意は何なのか>
2016年の米大統領選にロシアが介入した疑惑をめぐり、5月1日にバー司法長官が上院司法委員会の公聴会で証言した。5時間に及ぶ証言の結果はっきりしたことが1つある。壮大なロシアゲートの捜査を率いてきたロバート・ムラー特別検察官に話を聞く必要があるということだ。特別検察官に任命されて2年、ムラーはスフィンクスのように謎めいた沈黙を守ってきた。
ムラーが答えるべき問いは多い。報道によれば、ムラーの捜査報告書の概要をバーが3月24日に発表したが、ムラーは概要は報告書の内容を「十分に伝えていない」ため、捜査に対する「世論の信頼」を脅かしていると批判する書簡を同月27日付でバーに送ったという。これについてバーは公聴会で、ムラーの不満は概要をめぐる報道に対するものだと証言した。
しかし実際には、ムラーの書簡は報道には言及していない。誰の主張が正しいのか。バーの証言に誤りか誤解を招く部分があったのか。ムラーは概要の何を批判したのか。
それ以上に重要なのは、トランプ大統領による司法妨害の有無についてムラーが判断を見送った点だ。報告書にはトランプが妨害を試みた可能性を示唆する10件(ホワイトハウスの法律顧問だったドン・マクガーン弁護士にムラー解任を指示したなど)の記載がある。司法省は現職大統領は訴追できないとの立場を取っているが、バーの証言によれば、それがムラーが訴追しなかった理由ではないという。
では一体なぜ? 判断を保留した理由をムラーは説明すべきだ。結論に達しなかったとする報告を受けて「驚いた」とバーは主張した。
弾劾材料の提供が狙いか
トランプの「潔白を証明」する証拠もないとした理由も説明すべきだ。特別検察官の仕事は容疑者の「潔白を証明」することではなく、訴追するかどうかを判断することだと批判する声も上がっている。バーの証言どおり、訴追するのかしないのかを判断して司法長官に報告する──通常はそれが特別検察官の仕事だ。
だが今回はそれほど単純ではないとムラーが感じていたのは明らかだ。十分な証拠があったのに訴追を勧告しなかった理由について、バーは5月1日、司法妨害罪で訴追するにはトランプの「意図」を示す情報が不足していると改めて主張した。言い換えれば、ロシアとの共謀の証拠が見つからないため、司法妨害罪を証明するのは困難だと考えたのだ。犯罪的な意図を証明しなければ説得力に欠けるからだ。
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