「土に触れると癒される」メカニズムが解明される
ニューズウィーク日本版 / 2019年6月18日 19時10分
<米コロラド大学の研究者によって、自然の土壌にも含まれる細菌とメンタルヘルスとの関係についての研究が発表された>
庭仕事などで土に触れ、ふと癒された経験はないだろうか。この作用には土壌に含まれる細菌が関連しているのかもしれない。
細菌とメンタルヘルスとの関係についての研究
米コロラド大学ボルダー校のクリストファー・ローリー教授は、細菌とメンタルヘルスとの関係について、長年、研究に取り組んできた。2018年4月には米国科学アカデミーの機関誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」で「田園地域で家畜とともに育った人のほうがペットのいない都市部で育った人よりもストレスに対して良好な免疫反応を備えている」という研究論文を発表。
また、同年6月にその成果を発表した研究プロジェクトでは、自然の土壌にも含まれる細菌「マイクロバクテリウム・バッカエ」を雄マウスに3回注入したところ、認知機能や不安をつかさどる脳の海馬で抗炎症タンパク質「インターロイキン-4」が増加し、外的ストレスにさらしてもストレス誘導性タンパク質「HMGB1」のレベルは低く、この細菌がストレス耐性を高める可能性があることが示されている。
これらの研究成果をふまえ、ローリー教授らの研究チームは「マイクロバクテリウム・バッカエ」がストレス関連障害を抑えるメカニズムの解明をすすめている。2019年5月22日には、精神薬理学の学術雑誌「サイコファーマコロジー」でその一部を示す研究論文を発表した。
微生物ベースの「ストレスワクチン」開発へ
研究チームは「マイクロバクテリウム・バッカエ」に含まれる脂肪酸「10(Z)-ヘキサデセン酸」を取り出し、化学合成したうえで、細胞に刺激が与えられたとき、これが免疫系の一部を担う白血球のひとつ「マイクロファージ」とどのように作用し合うのか調べた。
その結果、「10(Z)-ヘキサデセン酸」は細胞内で特定の受容体「ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPAR)」と結びつき、炎症を促進する経路を阻害することがわかった。また、「10(Z)-ヘキサデセン酸」で予め処理された細胞は、刺激を受けると、通常の細胞よりも炎症への耐性が強くなることも明らかとなっている。
このような研究成果は、微生物ベースの"ストレスワクチン"への開発に道をひらくものとして期待が寄せられている。ローリー教授は「ストレス耐性に効果のある『マイクロバクテリウム・バッカエ』の成分やこれと対応する受容体を特定できたことは大きな前進だ」と一連の研究成果を評価すると同時に「土壌には『マイクロバクテリウム・バッカエ』のほかにも様々な微生物が存在する」とし、ヒトの健康に寄与する微生物の特定やそのメカニズムの解明にさらに取り組む方針を明らかにしている。
松岡由希子
この記事に関連するニュース
-
薬物による副作用が皮膚で起こりやすい原因を発見~ヒト白血球抗原を介した細胞内からのストレスが引き金~
PR TIMES / 2024年4月15日 15時45分
-
光で記憶を操る!新たな技術「光駆動型ホスホリパーゼCβ」を開発
Digital PR Platform / 2024年4月6日 9時1分
-
なぜ1950年代以前は花粉症患者がほぼゼロだったのか…花粉症が国民病となった「本当の原因」とは
プレジデントオンライン / 2024年3月26日 10時15分
-
なぜ花粉症は「国民病」になったのか…日本人の4割を苦しめる花粉症が1970年代から急増したワケ
プレジデントオンライン / 2024年3月24日 14時15分
-
理論的には6時間で花粉症を100%撃退できる…東大名誉教授が断言「ツラすぎる花粉症に効く最強の食材」
プレジデントオンライン / 2024年3月23日 13時15分
ランキング
-
1襲撃された邦人5人、日系企業の駐在員で車列を組んでの通勤中…パキスタン
読売新聞 / 2024年4月19日 23時56分
-
2イスラエル、イランに反撃 中部の空軍基地標的か
共同通信 / 2024年4月19日 21時12分
-
3ミャンマー国軍、ロヒンギャ1000人以上を強制動員…「人間の盾」に利用か
読売新聞 / 2024年4月20日 7時39分
-
4ロシア防衛産業支援と中国批判=「主要な貢献者」と懸念―米長官
時事通信 / 2024年4月19日 23時10分
-
5中国軍に「情報支援部隊」新設 習氏主導の戦略支援部隊は廃止
産経ニュース / 2024年4月19日 22時51分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください