経団連が雇用保険を使った「氷河期世代」救済に反対する理由 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 / 2019年9月19日 18時20分

<ロスジェネの雇用対策に冷淡で、期待もしていないと言わんばかりの政策提言は二重の意味で残念>

経団連の政策提言というのは意味不明なものが多く、9月17日に発表された最新の「Society 5.0時代の東京(デジタル革新を通じた国際競争力の強化)」というのもちっとも理解できませんでした。

東京が都市として、OSS(オープンソースソフトウェア)とかオープンプラットフォームを作れというのですが、別に東京にある会社がクラウドとかクラウド内のOSSを物理的に東京に持つ意味はないし、そもそも東京にある会社がシステム環境を統一することのメリットもないからです。

ですが、この提言と同時に発表された「雇用保険制度見直しに関する提言」というのは珍しく意味がよく分かる内容でした。要点は2つ、

(1)政府が掲げる「就職氷河期世代」対策に、使用者が負担する「雇用保険2事業」の保険料の財源を使うのは慎重であるべき。(正確な表現は「政策目標の明確化や効果の検証が必要」)

(2)失業手当などに使う雇用保険の保険料(労使折半で負担)と国庫負担をめぐり、政府が検討している時限的引き下げの延長には慎重であるべき。

というものです。まず(2)ですが、失業手当などに使う雇用保険というのは、積立金が余っているために、料率(保険料のパーセンテージ)を下げることになっています。今回の経団連の提言は「下げるのはいいけれど、2年の限定という約束なのでそれ以上延長するな」というものです。

つまり雇用保険の積立金はしっかり「蓄えておくように」と言うのです。こちらは構造改革が進む中で解雇規制が解除された場合に、財界全体として相当の人員整理が起きていく可能性があり、これに備えるには失業保険の財源をしっかりしておく必要があるからだと思います。

問題は(1)です。この「雇用保険2事業」というのは、「雇用の安定」と「能力開発事業」を目指したもので、政府が企業から徴収した保険料を財源とするものです。ですから、この資金を「氷河期世代」の職業訓練に使うというのは、極めて理にかなっているわけです。

ですが、経団連は「政策目標の明確化や効果の検証が必要」という言い方をしています。まるで「効果が疑問」と言わんばかりで、要するにほとんど反対しているようなものです。



経団連としては「40歳前後まで非正規労働を続けてきた人材には期待していない」あるいは「自分たちは雇うつもりがない」と言っているように聞こえます。そのぐらい冷たい表現です。

さらに言えば、経団連というのは日本のGDPを必死に改善して、日本国内の経済水準の衰退を止めるとか、日本国内の雇用を確保することよりも、日本の大企業に「本社採用された終身雇用の正社員による共同体」の利害代表であってそれ以外ではない、そう宣言しているという見方もできるでしょう。

そう考えれば(2)も全くだと言えます。雇用保険の最大の問題は、雇用の不安定な非正規労働者に対するセーフティネットとしては機能していないことです。現在の雇用保険の積立金が余っているという事実が、まさに制度の歪みを証明しています。

その点には全く言及せずに、正社員が失業する時代に備えて積立金を蓄えておこうというのは、やはり「大企業の正社員による共同体」の利害しか考えていないということを示しているからです。

それにしても、日本の生産性がここまで落ち込んでいるなかでは、大企業としては抜本的な改革を必要としているはずです。その意味で、非正規労働者として長年シビアな現場を経験してきた「氷河期世代」の中には、新卒以来正社員としてヌクヌクと勤務してきた人材には気付かないような業務改革のヒントを持っている人材も必ずいるはずです。

正社員経験のない人材は斜に構えているとか、権利意識ばかりで経営感覚がないなどとボロクソをいうのは、むしろ凡庸な経営者であり、「ロスジェネ」の視点に期待するという企業がそろそろ出てきてもいいのではないでしょうか。その意味で、経団連の提言は二重に残念とも言えます。


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