「盤石」の安倍外交、8年目の課題は「韓国」だ

ニューズウィーク日本版 / 2019年9月25日 16時5分

<ちまたの「安倍外交論」はいずれも説得力がない。トランプを操縦し習近平とも握手してきたが、果たして成功なのか。首相個人ではなく、「時代的産物」として多元的に総括すると――。本誌「2020 サバイバル日本戦略」特集より>

第2次安倍晋三政権が発足して早くも7年近くがたった。ちまたには多くの「安倍外交論」があるが、いずれの論考も「外交」を一元的に捉えており、あまり説得力がない。本稿では安倍外交を、首相個人ではなく、21世紀初頭の「時代的産物」として多元的に総括してみたい。

そもそも外交には3つの側面がある。第1は、国民感情や国内の権力闘争とは一線を画し、純粋に国際政治・経済・軍事上の利益を最大化する知的活動。第2はこれとは逆に、国内政治上の一手段として権力者が権力基盤を維持するために行う対外活動だ。どちらを重視するかで評価は大きく変わる。

第3は、過去10年間で始まった国際的な政治潮流の変質だ。グローバリズムと国際協調に代わって自国第一主義と排外差別主義が復活し、1930年代のような「勢いと偶然と判断ミス」による政治判断がまかり通っている。これら3つの側面に配慮しない外交政策はいずれも成功しない。

この国際政治・軍事環境の大転換期に発足したのが第2次安倍政権だ。目指した外交政策は2006~07年の第1期と大きく変わっていない。具体的には、日米韓の同盟・準同盟を基軸に、台頭する中国を牽制し、ロシアとの関係改善を計りつつ、東南アジア、欧州、中東との関係を維持することだ。

第2期に安倍外交が花開いたのは、首相の個人的能力もさることながら、安倍外交の基本政策がより多くの国民に支持され始めたことが大きい。転機は12年の尖閣諸島をめぐる日中衝突だった。当時の中国のかたくなな姿勢に直面し、国民はより強いリーダー、より毅然とした対外政策を求めたのだろう。各主要国に対する個別の安倍外交はどうか。

まずは日米関係だが、日米同盟関係が今ほど円滑であった時期は記憶にない。東アジアで中国の台頭に直面しながら、付き合い方の難しいバラク・オバマ、ドナルド・トランプ両政権と良好な関係を巧みに保ちつつ、日米連携の維持・拡大をリードした功績は素直に評価すべきだろう。

続いて中国だ。安倍政権の対中政策は戦略的でブレていない。政権発足直後こそ日中関係はギクシャクしたが、14年以降徐々に中国が日本に歩み寄るようになった。しかし、日中関係はしょせん米中関係の従属変数。米中関係が悪化した今、安倍外交は巧みに対中関係の戦術的改善を進めている。

朝鮮半島は鬼門だ。元徴用工の訴訟や秘密情報保護協定(GSOMIA)問題での韓国の強硬姿勢は想定外だったろう。残念ながら、北朝鮮との拉致問題も解決の糸口を見いだせないでいる。南北朝鮮については、冒頭に述べた外交の国際的側面と国内政治的側面のバランスの維持が非常に難しい。



日米韓の連携が失われる?

さらに困難なのが、東アジアでのいわゆる歴史問題の扱いだ。安倍外交の基本姿勢は確かなものだが、国際的利益と国内的政治配慮のどちらを優先するかは微妙である。13年の靖国参拝では後者を優先し、15年の戦後70年談話では前者を優先している。

最後にロシアに触れよう。北方領土をめぐる日ロ首脳交渉は、日本国内への配慮というより、米中ロ間のバランス変化を踏まえた戦略的な一手である。残念ながら今回ロシアは米ロ関係の悪化を受け、中国の戦略的脅威よりもアメリカに対する中ロ連携を重視した。日ロ関係の再活性化は容易ではない。

過去7年弱の安倍外交は、不確実性が高まる東アジアで日本の国益と存在感を高めることにおおむね成功してきた。懸念材料は、日韓関係悪化に伴い従来の日米韓3国の連携が失われる可能性だ。今後日本がアメリカと共に韓国をどこまで引き留めるのか。これが安倍外交8年目の課題である。

<本誌2019年10月1日号掲載>


※10月1日号(9月25日発売)は、「2020 サバイバル日本戦略」特集。トランプ、プーチン、習近平、文在寅、金正恩......。世界は悪意と謀略だらけ。「カモネギ」日本が、仁義なき国際社会を生き抜くために知っておくべき7つのトリセツを提案する国際情勢特集です。河東哲夫(外交アナリスト)、シーラ・スミス(米外交問題評議会・日本研究員)、阿南友亮(東北大学法学研究科教授)、宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)らが寄稿。



宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹、元外交官)

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