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「10億ドルの鉄壁」が破られた、アメリカがハマスの奇襲成功から学ぶべきハイテクの欠陥

ニューズウィーク日本版 / 2023年12月11日 12時5分

最新鋭戦車の盲点を突く

3つ目の機能不全は通信傍受体制だ。

イスラエルはガザ内部の通話を残らず傍受し、あらゆる電子通信を監視している。

潜在的攻撃の初期兆候は盗聴で察知できると信じていたからだ。その前提には、戦闘員が噂話をするはずだとの想定があった。

ハマスはイスラエルの通信傍受能力を逆手に取ったらしい。

攻撃計画に関するやりとりを対面に限定するだけでなく、電話での会話では意図的に、イスラエルとの対立は望まないと示唆していた。

こうした状況のなか、イスラエル軍はハマス戦闘員の侵入に2時間近くも気付かなかった。

重大危機発生の警報を発令したのは6時間後だ。

攻撃開始後の早い段階で、戦闘員はイスラエル軍のメルカバ戦車1両と対峙している。世界最新鋭の戦車の1つで、強力な機関銃を複数搭載し、高度な照準装置や最先端の装甲防御力を備えており、戦闘員を簡単に抑え込めるはずだった。

だが、メルカバは即座に爆破された。

ハマス戦闘員は、ロシア軍戦車を破壊するウクライナ軍と同様、市販されている小型ドローンから手榴弾を投下した。次に現れたメルカバも同じ目に遭った(その後、イスラエル軍はロシア軍に倣い、手榴弾防止のため砲塔の上に即席の屋根を装着した)。

世に名高いイスラエルのハイテク防御はうまく機能せず、システム全体の崩壊につながったのだ。

だがイスラエルの防御力を疑問視する声が出た理由は、何より時間単位での対応の遅れだった。

まとまった規模のイスラエル軍部隊が現地に到着するまでに約8時間かかり、最後に残ったハマスの戦闘員と対峙するまでに20時間もかかった。

「今後は『キルチェーン』(敵の発見から撃破に至る一連のプロセス)を最速で完了することが、戦場における交戦で勝利するカギになるだろう」と、ボーマンは語る。

「つまり、いかに素早く敵の行動を察知し、対応方法を決断し、実行に移せるかが重要となる。秒、分単位の違いが生死を分かつことになる」

その視点から見ると、今回イスラエルのハイテク防衛はきちんと機能しなかったと、彼は言う。事実、完全制圧までにかかった時間は約1200分だ。

米軍においても過去20年間、ハイテク機器の使用は拡大の一途だった。

標的を自動捕捉する自律型ミサイルや、自律走行する装甲車、敵の兵器を無力化するエネルギービーム、兵士に着用させて戦闘力を高める金属製の外骨格型パワードスーツなどのテストも進んでいる。

その一方でアフガニスタンでの20年にわたる戦闘では、一般市民に紛れ込み、山岳地帯の洞窟に暮らし、電子機器による通信を使わず、死をいとわず襲ってくるローテクな敵の前では、最新鋭の兵器や情報収集機器も大して役に立たないということが白日の下にさらされた。

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