突然姿を消した荒川ホームレスの男性 何が起こったのか、残された「兄弟」は...
ニューズウィーク日本版 / 2024年12月4日 19時20分
続けて桂さんは言った。
「しかし、斉藤さんは施設に行ったのに、なぜ事前に声をかけてくれなかったのかが分からない。私はその施設の人に、斉藤さんへの伝言を頼んだんです。自転車で帰ってきて、自分が残したものを整理してもらいたい。捨てるべきものは捨てて、捨てないものは施設に持っていってほしいと。でも、今日でもう2カ月以上経ちますが、斉藤さんの姿は全然見えません」
なぜ斉藤さんは急に姿を消したのか
斉藤さんの突然の行動に、桂さんは不満を持っていた。しかし一日中、斉藤さんが残した品物を整理し、分かりやすい所に置いて、斉藤さんが帰って来るのを待っていた。
それどころか、桂さんは、斉藤さんを自分のところに引っ越すように誘ったのは間違いだったのではないかと反省し始めた。
「最初に私が斉藤さんに戸田橋からこちらに引っ越してくるよう勧めたとき、彼は少しためらっていました。ここが狭いのではないかと心配していて、来ても住む場所がないのでは、と考えていたようです。それで私が『大丈夫、私の家の裏にはまだ開発できるスペースがある』と言ったら、ようやく『それなら行くよ』と言ってくれたんです」
しかし、斉藤さんには問題もあったという。
「実はその時、彼はすでに足の病気を抱えていて、歩くと少しびっこを引いていた。それに、1~2年以内には福祉施設に入るつもりだとも言っていました。もしかしたら彼はその時、私の誘いを断るのが悪いと思ったのかもしれないし、こっちに来た後は、ここを離れて福祉施設に行くなんて話を切り出すのをためらったのかもしれない。それが原因で、福祉施設に入って足の治療を受けるタイミングを逃してしまったのかも」
ところで、私は別の推測をしている。
斉藤さんの桂さんに対する気持ちは、不満よりも感謝のほうが大きいに違いない。福祉施設に入りたい気持ちはあったかもしれないが、桂さんに対して「私は施設に入るから、これから、あなたは1人になる」と言う勇気はなかっただろう。
斉藤さんは中の様子を一目見ようと施設に行った際に、そこの快適な生活環境に一気に心を奪われたのかもしれない。お風呂、トイレ、エアコン、テレビがあり、自分の今の野外生活とは天と地ほど違う。さらに施設スタッフから「今日から入居できます。私たちはあなたに新しい布団を用意します」と説得されたのかもしれない。
これは私の推測に過ぎないが、もしあなたが斉藤さんの立場だったら、このチャンスを逃がすことができるだろうか。
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