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反政府軍の中核、HTS指導者が言う「全シリア人」には誰が含まれている? アサド政権崩壊を単純に祝福できない理由

ニューズウィーク日本版 / 2024年12月10日 21時40分

そのHTS率いる反政府軍がダマスカスやアレッポを制圧した際、HTS指導者アブー・モハメド・アル・ジュラニは兵士に「慈悲深さ、親切さ、丁寧さを示せ」と指示した。一般市民にHTSが危険でないと思わせるためだったと推察される。

ただし、「HTSは変わった」と判断するには時期尚早だろう。

シリア人とは誰か

シリアの今後をうかがわせるのが、アル・ジュラニが首都ダマスカスで行った勝利宣言だ。

このなかでアル・ジュラニは「これまでシリアが外国に支援される一握りの権力者に支配されていた」、「全シリア人のためのシリアを取り戻す」と強調した。

これだけ聞けば、革命の指導者らしい発言ともいえる。

ただし、注意すべきは「全シリア人」とは何を意味するかだ。

そもそも多くの途上国・新興国では植民地時代のいびつな国境により、国内に数多くの民族、宗教が混在しやすく、「国民」としての一体感さえ持ちにくい国が多い。その状況で国民としての一体性を強調すればするほど、少数派を排除したり、同化したりする圧力になりやすい。

シリアの場合、人口の74%をイスラームのスンニ派が占める。アサド政権は少数派シーア派が要職を占め、シーア派で共通するイランやヒズボラから支援を受けていた。

そのため、HTSはこれまでイランやヒズボラとも対決し、占領地ではシーア派住民にスンニ派への改宗を強制するなどしてきた。

つまり、アル・ジュラニが強調する「全シリア人のためのシリア」にシーア派住民の居場所があるかには疑問が残る。

民主的な選挙が行われたとしても

実際、体制が打倒された時ほど、それまでの既得権者である旧体制派と、それを簒奪した新体制派の対立は先鋭化しやすい。その一例としてシリアの隣国イラクを取り上げてみよう。

イラクでは2003年のアメリカの侵攻によってサダム・フセイン政権が崩壊した。その後、アメリカの支援で民主的な選挙が行われた結果、イラク人口の約60%を占めるシーア派中心の政府が発足した。

ところが、フセイン体制がスンニ派で占められていたため、それに対する怨嗟もあり、結局その後のイラク政府ではシーア派が優遇された。

このスンニ派の不満は、アルカイダや「イスラーム国(IS)」がイラクで勢力を拡大させる土壌になった(アルカイダやISはスンニ派)。

とすると、宗派対立やテロの発生に民主的な選挙の有無はあまり関係ない。

HTSはアルカイダ分派としてイスラーム国家建設を唱導し、欧米的民主主義を嫌悪してきた。いまさら選挙に向かうかは疑問だし、アル・ジュラニの勝利宣言でも選挙実施については触れられなかった。しかし、仮に選挙が行われても、宗派対立がかえって鮮明になりかねない。

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