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なぜ人間は集団精神に染まってしまうのか

NHKテキストビュー / 2021年10月1日 17時0分

自由意志で動いていた個人も、一定の条件と刺激があれば揃って一つの方向に動き出し、「群衆」へと変貌する──ル・ボンは、人々が群衆になり変わった時点で、彼らに一種の「集団精神」が与えられ、考え方も感じ方も行動の仕方も、群衆になり変わる以前とは「全く異なってくる」と断言しています。なぜ人間は集団精神に染まってしまうのでしょうか。ライターの武田砂鉄(たけだ・さてつ)さんが、『群衆心理』を引きながら解説します。

* * *

なぜ人間は集団精神に染まってしまうのか。その理由の一つとして、ル・ボンは人間の「無意識」の働きを指摘しています。
精神の意識的生活は、その無意識的生活にくらべれば、極めて微弱な役目をつとめているにすぎない。(中略)われわれの日常行為の大部分は、われわれも気づかない、隠れた動機の結果なのである。
『群衆心理』 櫻井成夫訳 講談社刊 (以下同)

さらに、人間は「単に大勢のなかにいるという事実だけで、一種不可抗的な力を感ずる」ものであり、そのため、理性的に考えて行動するより、無意識下の「本能のままに任せることがある」といいます。この指摘にたじろぐ人も多いのではないでしょうか。自分ひとりで考えたり、行動したりしている時は「こんなことをしてはマズイ」という理性が働くのに、群衆のなかにいると話が違ってくる。日本では「赤信号みんなで渡れば怖くない」というフレーズが有名ですね。
こうした「みんなで渡れば怖くない」的精神は、とても感染しやすいのが特徴です。なぜでしょうか。ル・ボンは、群衆の無意識は暗示を受けやすいからだといいます。
活動している群衆のさなかにしばらく没入している個人は(中略)あたかも催眠術師の掌中にある被術者の幻惑状態に非常に似た状態に陥る。
催眠術にかかった人は、「脳の作用が麻痺させられてしまうので、無意識的活動の奴隷」となり、意思や弁別力を失ってしまう。群衆の一員となった人も、これと同じだというのです。しかも、群衆は全員が同じ暗示にかかるため、その相乗効果で、より強く暗示が浸透していくというわけです。
■『NHK100分de名著 ル・ボン 群衆心理』より

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