第3回 将棋電王戦 第3局(筆者・船江恒平 将棋棋士五段)

ニコニコニュース / 2014年4月3日 14時0分

21手目▲8七歩と指した局面

 朝の対局室は少々騒がしい。人がうごめき、シャッター音が鳴り続ける。
 上座の豊島将之七段は小気味よく駒を並べ終え、コンピュータソフト「YSS」側の駒を配置していくロボットアーム「電王手」の動きを不思議そうに見つめていた。
 その姿からは気負いや緊張は感じられず、むしろ余裕すら感じるほどだった。
 戦いの場は地上259メートルにあるホテルの一室。窓からは地上をはるかに見下ろす絶景が広がっている。唯一人、主役の豊島だけは窓を背にしており、その景色を望むことができない。
 
 対局が始まると、豊島は水を一口飲んでから、さっと▲7六歩。YSSも間をおかず△8四歩を表示し、電王手がスムーズな動きで着手する。
 それを見て早くも豊島は上着を脱ぐ。その仕草はまるで△8四歩できましたか、そう呟いているように見えた。
 YSSの貸し出しを受けてから、豊島は1000局近くという気の遠くなる数の練習対局を指しており、その経験では2手目△3四歩の方が多かったそうだ。△3四歩に対して用意していた作戦も面白く、個人的にはそちらも見てみたかった。
 彼には事前に色々と作戦の話を聞かせてもらったが、YSSと指した将棋を説明する時の彼はいつも笑顔でとても楽しそうだった。私も最初はにこやかに相槌を入れながら聞くのだが、彼の話は笑顔とは裏腹にあまりに深く難解で、しまいに私は何度も聞き返してしまうのだ。

 角換わり模様から横歩取りへと、少し珍しい出だしとなったが、豊島にとっては作戦、YSSにとっては定跡の範疇で、指し手は早く15手目まではすらすらと進んだ。ここで豊島が席を外したのを見て、YSS開発者の山下さんは本局は厳しい戦いになるかもしれないと思ったそうだ。
 YSSは15手目までは定跡をランダムに選択し、16手目からは自力で考える設定になっていた。豊島は事前の研究で相手がここから考え始めることはもちろん知っており、ここで初めて席を外した。
 YSSは定跡から外れると基本的に8分31秒考慮する設定になっていたそうで、ここからは短考を繰り返していく。
 傍目からは非常に落ち着いて見えた豊島だったが、この辺りはどのような戦型になるのか、ドキドキしながら相手の指し手を待っていたそうだ。
 例えば、本局では16手目に△3三角と上がり横歩取りで最もポピュラーな形になったが、練習では1局だけ△3三桂も指されたことがあるそうで、そうなればすぐに経験のない展開になっていたかもしれない。
 YSSは幸か不幸か最も自然な手を選び続け、第1図を迎えた。

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