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ニコニコ生放送「メディアの公平性ってなんだ!?メディア帝王とジャーナリズム」(2015年9月19日放送)全文書き起こし(2)

ニコニコニュース / 2015年10月18日 12時20分

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 9月の「ニコニコドキュメンタリー」は、アメリカ在住の映画評論家・町山智浩氏が選んだ、超大国アメリカの裏側がわかる過激なドキュメンタリー作品を特集。その第2段「アウトフォックス〜イラク戦争を導いたプロパガンダTV〜」が2015年9月19日(土)20時から、ニコニコ生放送で配信されました。

 本ニュースでは、生放送後におこなわれた作品をテーマにしたトーク番組の内容を、以下の通り全文書き起こして紹介します。

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※出演者=話者表記
モーリー・ロバートソン (ミュージシャン/ジャーナリスト)=モーリー
神保哲生 (ビデオジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表)=神保
永田浩三 (ジャーナリスト/武蔵大学教授)=永田
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永田:もちろん映像は常にプロパガンダとセットのものですから、それは戦争においては特に顕著になるわけですよね。活字メディアもそうなんですけれども、戦争においてどういうふうに、つまり、戦果を上げて、英雄の物語がつくられるかみたいなことと、新聞が初期はそれで売れるわけだし、映像も同じような形で使われてきた歴史があるわけです。ただ、やっぱりベトナム戦争はどうだったのかっていうことで見たときに、アメリカの全部が全部健全だったと言うつもりはありませんけれども、健全なジャーナリズムはそこで機能したことは間違いないと思うんですよ。それはアメリカの若者たちが大義のない戦争でこれだけ泥沼に巻き込まれて、いっぱい命を落としていると。

モーリー:しかも、徴兵もされ。

永田:これはおかしいじゃないかっていうふうに、テレビがそういう声を上げる中で貢献したことは確かだと思うんですね。

モーリー:なるほど。では、神保さん、CNNが報じていて、既に「ショーアップしているぞ」っていうふうに言われていた1回目のイラク戦争。2回目になると、さっき皆さんにご覧いただいたドキュメンタリーをそのまま信じるのであれば、FOXが誘導したようなところがあると。いわゆる、テレビコンテンツとして、テレビ番組として戦争をブッシュ政権と一体化して、「コンテンツとして戦争をやろうよ」みたいな企画会議をやったんじゃないかと(笑)。そうすると、91年と2003年は、アメリカのメディアのバランスはどうだったんですか?

神保:まず、メディア状況が93年と2001年では随分変わってしまったんですね。もちろんアメリカは日本に比べると多チャンネル化が早くて、70年代の一番終わりぐらいからもうケーブルが普及し始めたので、ニュースチャンネル1つとってもいくつか、複数のチャンネルが、いわゆるネットワークといわれている、日本でいう地上波以外のところでも始まっていたんだけど、だけどこのFOXの話で、FOX現象っていう言い方があるくらいで、要するに、自分の政治的なスタンスに合うチャンネルしか見ない人たちが増えちゃったと。つまり、チャンネルの数が増えたら、ほんとは意見が多様化するはずだったわけですよね。いろんな意見に触れることができることになるはずだったわけですよね。

モーリー:つまり、こういうことでしょうか。例えば、10何個ぐらいにチャンネルが増えていれば、多様性やマイノリティボイスみたいなものもあって、「なるほど」とバランスよく見られるけど、100を超えてしまうと、どれがどれだかわからなくなって、Yahoo!のポータルから行くしかないみたいな。

神保:だから、今ネットの時代になって、まさに今度はそこまでいっちゃった。ケーブルテレビの時代はそこまで、100もニュースチャンネルはなかったので、ニュースチャンネルが例えば7とか10とかあれば、かなり自分のテイストに合ったものっていうのは1つくらい見つかると。そうすると、それしか見なくなっちゃうんですよね。特にFOXの場合は、その中でも路線っていうものを明確にしているので、要するに「イラク戦争を支持する人はみんなFOXを見ている、FOXを見ている人はみんなイラク戦争を支持している」って言われるくらい、イラク戦争の「FOXのためのFOXによるFOXの戦争」みたいなところが2000年代のイラク戦争はあったわけですよね。まだCNNのときっていうのは、その始まりだった。つまり、多チャンネル化があそこから本格化したわけですよ。CNNは市民権を持っていなかったってことは、そこまではニュースチャンネルはまだなんだかんだ言いながら3大ネットワークとか地上波が強かったわけ。あそこからいよいよCNNが大きくなり、その後MSNBCとか、CNBCとか、いろんなニュースチャンネルがどんどん出てきて視聴者を伸ばすんですよね。その結果、FOX時代に入って、そこでは今度は自分のテイストが合うものしか見なくなったので、非常に皮肉なことなんだけど、たくさんチャンネルができて言論が多様化すればするほど、自分と同じ意見のしか見なくなるっていう、日本ではたこつぼ現象って言い方をするんだけど、いわゆる、FOXシンドロームみたいなものが起きてしまったと。だから、そこは1つは視聴者側がまだそんなに多チャンネルに対応するだけの免疫というものがなかった面があったわけですね。テレビとか新聞というのは、見たものをある程度真に受けていい時代が長かったわけです。それが、後でちょっと議論に出るかもしれないけど、もう今アメリカはフェアネス・ドクトリンっていう中立公正原則っていう法の縛りがなくなっちゃったんで、思いっきり路線をとってもよくなったと。だったら、ほんとは視聴者は真に受けちゃいけないわけですよ。でも、「新聞、テレビが言っているんだから、さすがにほんとだろう」っていうふうにやっぱ思っているところがあって、そこで見たものを真に受けると、実はかなり路線がそれぞれ、これは偏りっていう言い方は批判的な意味に聞こえるかもしれないけど、アメリカはむしろ思いっきり路線を出してよくなっちゃったんですよね。

モーリー:なるほど。永田さん、日本にちょっと一瞬話を持ってきたいんですけれども、昨今いろいろ世論を二分する案件が増えてきたこともあり、個々のメディアに対する情緒的なまでの反発及び礼賛傾向というのが、それぞれの陣営のように出てきたと思うんですね。例えば、テレ朝『報道ステーション』及び朝日新聞、もしくはNHKに関して、角度がついているとか、そういう言い方って。

永田:NHKはどっちなのかって、なかなかちょっと言いにくいけど、NHKの政治ニュースはそうでしょうね。そうだと思います(笑)。

モーリー:日本ではどうなんですか?

永田:日本もそういう大きな渦の中に巻き込まれていることは確かだと思うんですよ。だから、今神保さんが言われたフェアネス・ドクトリン、つまり、放送っていうのはあまねくどういう人たちも見る機会があるので、そんな一方的な意見がそこで展開されるっていうことはよくない。つまり、多様な意見がどのチャンネルも確保されているっていうことが当たり前だったものが、そうでなくてもいいっていうのがレーガン時代に始まるわけですよね。それが極端な形であらわれたのがやっぱり2001年の全米愛国者法に基づいての愛国報道ですよね。それがイラク戦争報道の中では、特に露骨な形で生まれて、アメリカの戦争を支持しないやつは反米主義者、とんでもない非国民っていうふうにレッテルを貼って、テレビ自身がレッテルを貼って構わないっていうところまで行き着いたんじゃないですかね。

モーリー:なるほど。先ほど出てきました、公正中立のフェアネス・ドクトリンですが、フェアネス・ドクトリンの規定が外されたのは2001年だったんですか?

神保:アメリカでは、実際の規定がはずされたのは1987年。

モーリー:レーガン時代?

神保:もともと1949年かな、ラジオに対して課せられたものなんですよ。87年にアメリカではそれが効力を失って、実際に文言がアメリカのFCCコードとかから削られたのは2011年になってからなんだけども、87年からそれはやらなくていいと。つまり、中立公正、フェアネス・ドクトリンは何かっていうのがちょっと誤解されているんだけど、日本にはそれがあって日本は厳しいって言うけど、アメリカのフェアネス・ドクトリンっていうのは、もう単純に異なる意見を紹介するっていうことと、公共的に関心の高いものを一定の時間扱わなければいけないと言っているだけなんですよ。両側を、3つあったら3つ出さなきゃいけない、全政党を出さなきゃいけないとか、そんなものはどこにも書いていないんですね。あくまで異なる意見、つまり、例えば4つ意見があっても、その中で2つ出せば、コントラスティング・ビューっていう言い方をしているんですけど、異なる意見を出せばいいっていうことになっているので、1個だけ言っちゃいけないというのがまず1つ。それから、あとは公共的に関心の高いものをやってくださいっていうことなので、もともと大した縛りじゃないんです。でも、それさえもアメリカは多チャンネル化したので、「もういいよ」と、「みんな自由にやれや」と。日本は一応放送法でまだ不偏不党原則というものがあって、問題は後でそこを議論したいんだけど、要は日本ではもうケーブルテレビとかの多チャンネル化は事実上失敗しちゃったわけなんですよ。ケーブルテレビのニュースチャンネルは5個の新聞系列が全部持っているわけですよね。『ニュースバード』とか、日本テレビの『NNNニュース』とか、全部結局ほんとの意味では多チャンネル化しなかった。でも、ネットになって言論のチャンネルがたくさん増えているので、ほんとは今フェアネス・ドクトリンというのがどこまで必要かっていうことは議論しなきゃいけないんだけど、それを課すことによって、テレビ局っていうのはやっぱりネットとも競争しなきゃいけなくなると、いわゆる中立的なことを言っていると、さっきも番組前に話したけど、退屈でだれも見なくなっちゃうわけですよね。そうすると、ちょっと偏る可能性がある。そうなったときに、政治が入ってきやすくなっちゃっているわけですよ。「これは放送法違反だ」と、つい最近、随分そのセリフを聞いたでしょう。官房長官までが「日本には放送法ってものがありますし」とかって言っているっていう。だから、それは政治介入をするための非常に入りやすい入り口を日本ではまだ不偏不党原則っていうのが残っていることが提供している。ただ、同時にたぶん、永田さんもそう言われると思うけど、まだまだ主要チャンネルの影響力は、アメリカの3大ネットワークに比べて、日本では地上波の影響、NHKの影響がまだ強いんですよね。

モーリー:それは永田先生にぜひ伺いたかったんですけど、僕も仕事でNHKに隔週で行って、本当に柔らかい番組で、ほぼうなずくことが仕事の。

永田:えっ(笑)。

モーリー:「そうなのか」っていう、リアクション係。

永田:それは大変ですね(笑)。

モーリー:外国人枠っていう感じで自分では認識していて(笑)。ひと言、ふた言言って、そのうちひと言は必ず削られるんで、ほんとにいっぱいリサーチしているのにひと言しか言わせてもらえないけど、総合だからいいかとか、いろいろ自分の中で取引しているんですけど。あそこに行くと、なんでこのNHKという放送局はこんなに巨大で、こんなに建物がソビエトのように重々しく、職員も多く、権力があそこまで集中している。なんで日本でNHKってあんなにでかいんですか?

永田:私は32年いたんですよ(笑)。

モーリー:ぜひ聞きたい(笑)。

永田:これを言えば長くなるんですけども、やっぱりラジオの時代、戦前はNHKしかなかったんですよ。戦後、日本の放送っていうのは、やっぱり戦争の時代はとにかく大本営発表っていう言葉があったように、戦争の旗振り一色だったんですよ。政府の言うことをとにかくそのまま伝える、軍の言うことをそのまま伝えるっていうのが戦争中のラジオですよ。戦争に負けましたでしょう。それはやっぱり反省っていうのがまずあって、米軍、GHQの占領時代っていうのがあります。この時代にNHKは悔い改めてやり直すっていうことになったんです。1950年に放送法というのができるんです。この1950年の放送法が現在までも続いているんですけど。

モーリー:50年って、まだ日本が独立、戻していないんでしたっけ?

永田:52年がサンフランシスコ講和条約ですから、まだ占領期。

モーリー:ですよね。まだGHQの監視下で一応放送法はつくられているわけですね。もちろん不偏不党。

永田:朝鮮戦争がそのときあったから、既に占領初期の占領体制とは違っていて、レッドパージとかそういうことがある、そういう時代でもあるわけですね。

モーリー:とてもちっちゃくなってすいませんけども、レッドパージとか、アメリカが朝鮮戦争に踏み切るっていうことの報道は、その瞬間のNHKはどうやって扱っていたんですか?言われたとおり?

永田:こういうことですよ。つまり、敗戦直後は共産党も育てようっていう占領政策ですよ。そういう中で、共和国憲法っていうのを提案した高野岩三郎っていう人がNHKの会長になるんですね。つまり、天皇制廃止を言っていた人がNHK会長になるんです。

モーリー:そうなんだ。

永田:そうです。今の、それこそ百田さんとか、長谷川三千子さんとか、安倍さんのお友達みたいな人が経営委員になったりしているわけですね。百田さんは1期でやめましたけども。当時の経営委員、当時の放送委員っていうのは、荒畑寒村とか、岩波茂雄とか、宮本百合子とか、瀧川幸辰さんとか、今でいえば左翼の人ですよね。そういう人たちが共和国憲法の提案者である高野岩三郎さんを会長に選ぶっていう時代です。それをGHQは後押しするっていうことだったんです。

モーリー:とても若い人も見ているんですが、なぜGHQはあえて占領している日本で、その後敵対することになる共産党もよしとしたんでしょう?

永田:軍国主義からの決別ですね。

モーリー:軍国主義に対するワクチンになるっていうことですね、中和。

永田:そうですね。それから、やっぱり急進的な民主化をとにかく進めようとしたんです。だから、共産党の野坂参三っていう人が帰国するんですけれども、彼なんかを総理大臣にしてもいいんじゃないかっていうのは、GHQが言うんですよ。そうはならなかったけど。

モーリー:で、50年ぐらいをきっかけに今度は。

永田:その前ぐらいから今度は。

モーリー:ソ連陣営と緊張して。

永田:共産党追放。

モーリー:朝鮮戦争をやって。

永田:そうそう、になるわけです。

神保:アメリカも共和党政権にかわると。アイゼンハワーにかわると。

モーリー:そうすると、そのころテレビってまだ普及していないですよね。50年代っていうのはまだラジオが中心。

永田:53年からですよね。だから、まだラジオの時代なんですけれども、50年に放送法ができて、その50年の放送法の精神っていうのは日本国憲法の精神なんですよ。第1条っていうのは、「健全な民主主義に資すること」って書いてあるんです。つまり、「民主主義のために放送を使いなさい」って書いてあるんですね。つまり、民主主義を国民に普及させるために放送はその道具でありなさいっていうのが放送法なんですよ。

モーリー:そうすると、神保さん、そういう精神が50年代にあったと。そして、アメリカで85年ぐらいにレーガン政権のもとでマーケット優先とかいう、いろんな資本主義の大義名分も、あとそれをソ連ができないだろうっていうこともあったと思うんですけども、そこがディレギュレーションされていく、そしてマーケット本位になっていって、確かにそのおかげでアメリカにはケーブルネットも普及したわけだし、マーケット的に見ると、バランスシートで見ると、多様化が成功した。そうすると、その新たな環境が訪れたときに、最適化するブラックバスみたいなのがFOXを通してぐわーっと出てきちゃって(笑)。これは琵琶湖食い荒らしみたいな感じですかね?

神保:琵琶湖を食い荒らして、下手するともう完全に全部支配するんじゃないかと思ったら、その後にネット時代に入ってしまって、どうもFOX路線っていうのは、もちろんまだまだ見ている方は多いですよ。多いですけど、若干このドキュメンタリーも前のものなので、それさえもどうも古くなってしまったというような状況に今はあると僕は思います。ただ問題は、古くなって、「FOXみたいなものはやっぱり偏っているからやめよう」だったらいいんだけど、そうじゃなくて、むしろさらに先鋭化していっていると。つまり、もうこてこてのネトウヨといわれるような人たちはそういうサイトが好き。FOXでももう物足りないぐらいかもしれないと。

モーリー:アメリカの。

神保:アメリカでも。もちろんそうじゃない人もいるんだろうけど。つまり、テレビっていうものがかつて何百、場合によっては何千万人という者、オーディエンスを押さえられていた時代っていうのが、それは大前提としてほぼテレビはせいぜい多チャンネルにしても、例えばニュースだったらせいぜい5個とか10個しかないっていうのが前提だったわけですよ。それが、ネットがここまで普及してしまうと、ネットは事実上無限にサイトやコンテンツがあるわけですよね。そうすると、かなりお化けサイトとか言いながらも、実際はテレビのときの基準と比べれば全然大したことがないわけなんです。そんな何千万人が毎日見るようなっていうのは、ネットでそんなことになっちゃったら、人口がいくつあっても足りないぐらいになっちゃう。だから、そこはFOXが一旦メディアを席巻するかに見えたんだけど、まだ強いです。ちょうどきょうこの番組をやる直前にFOXが今度は『ナショナル・ジオグラフィック』を買収したってことで、結構アメリカの良識みたいに言われている雑誌だから、「それは」って結構世の中みんな騒いで。

モーリー:それで、実はそのアメリカの良識をどんどんと買収していった年表もこちらにあります。

神保:年表もある?

【年表】http://live.nicovideo.jp/watch/lv234565032?po=newsinfoseek&ref=news#41:26

モーリー:2007年、世界最大の経済誌『ウォールストリート・ジャーナル』を。

神保:これはショッキングでしたね。

モーリー:発行しているダウ・ジョーンズ社などの各メディアをどんどんと食べちゃったと。そして、このころにリーマンショックでしたっけ?

神保:2008年ですね。

永田:2008年です。

モーリー:この直後に2008年、FOX帝国、順風満帆かというさなかにリーマンショックが起きて、彼らのいわゆるプロビジネスっていうか、ビジネス万歳、アメリカの力万歳っていう感じの世界観がほころびていくわけですよね。それでショックもあって、オバマ政権が誕生してしまうと。この年表にないんですけども、僕がその後観測しているのは、オバマの政権が誕生してからは、FOXはもう本当に毒性の強い反オバマをずっとやり、グレン・ベックという、これまたすごいコメンテーターが陰謀論全開で猛攻撃をかけて。彼はマーティン・ルーサー・キングという黒人人権活動家の誕生日に、アメリカの祝日ですけど、その日にほんとは反黒人公民権の人なのに、その日にアメリカを取り戻すという巨大集会を呼びかけて、アメリカ議会の階段で開催したんですよ。相当に人が集まった。ところが、それに対して別のケーブルテレビのコメディ・セントラルで、そういうFOXをバカにすることでものすごい視聴率を得ている2人のパーソナリティ、ジョン・スチュワートとスティーブ・コルベール、この2人がアメリカの誇りの日みたいな、Day of Honorだったかな、そういう「アメリカを取り戻す」っていうのに対して、「正気を取り戻す」っていう別の集会をやったところ、そっちのほうがどかんと人が集まっちゃったんですよ。それを境にグレン・ベックの人気に陰りが出て、その後いろいろ失言したのかな。今はもうほんとにしょんぼりしている。2011年には、今度はマードックの本丸にもスキャンダルが起きます。イギリス『ニュース・オブ・ワールド』が広範囲にわたって電話盗聴をしているという事件があり、これは英政府、イギリス政府は相当に落とし前をつけたっていう印象があるんですけど(笑)。

神保:驚くような規模で盗聴をやっていたっていうことで、ただ結局、なんだかんだいって逃れたですよね。「これでほんとにもう、もしかするとマードック帝国は終わりになるんじゃないか」くらいに言われていたんだけど、結果的に逃れたので、やっぱものすごい政治力だなというふうに、逆に思いましたけどね。

モーリー:それで、一つ、先ほど神保さんがおっしゃった、ネットがどんどん普及すると、テレビ局同士が複雑化して、競争して、進化していくというゲームに横殴りの風がふくわけですよね。そうすると、こういうニコ生が今多くの人に見られていることでもわかるように、これはテレビじゃないわけだし、総務省認可でやっていないから、テレビ系列から外れたところでインディペンデントで流れて、しかも急成長しているはずなんですよ。ところが、永田さん、日本はNHKが圧倒的に強いですね。なぜ?なぜ今2015年なのに、私の印象かもしれないけど、どうしてNHKが圧倒的に日本のメディアでまだまだ強いんでしょう?

永田:いくつかの理由があると思うんですよ。きょうの未明、安保法案が強行採決されて、参議院でも可決されたっていうことを受けて、NHKはニュースをどういうふうに伝えたのかっていうことで言えば、端的に言えば、安倍政権寄りの、非常に批判色の薄い、そういうニュースをひたすら出したわけです。世の中全体を見てみると、いろんなメディアがいろんな批判をしているんですけれども、例えばTBSの『NEWS23』とか、『報道ステーション』とか、そういうものが「市民が怒りの声を上げている」みたいなことを丁寧に伝えるのとは対極にある形で、非常に市民の動きに対しては冷ややかでもあるし。もう既に自公が衆参多数派なわけだから、もう法案が通るのはわかっているっていうことを前提にこの4カ月伝え続けたわけですよ。そういうことについて、世の中の怒りってどれぐらいのものなのかっていうことで言えば、私はNHKがそういうふうに伝えていることについては極めて残念だっていうふうに思っている人間なんですけれども、世の中全体はそれほど怒っていないっていうふうに思うんです。もちろん怒っている人はたくさんいますよ。なぜなのかっていうふうに考えたときに、NHKの信頼とか支持っていうものはどこからきているかっていうことで言えば、すごく残念なことなんですけども、実は公共放送であって国営放送ではないにもかかわらず、世の中の人はかなりの部分を誤解していて、国がやっている放送なんだから、それほどの間違いはないだろうっていうことで支持していると。

モーリー:つまり、言い方はちょっと悪いけど、NHKを見ている全国のお年寄りに対して、うっすらと笑気ガスみたいなのがすーっと出てきて、見ているうちに顔がにこっと、「安倍さん、よくやっているよね」っていう、そういう感じ?

永田:そんなガスは出ていないと思いますけど(笑)。ただ、例えば受信料を払うのはなぜっていうことで言えば、「もうこれは国が決めたことで、税金と同じだから払います」みたいに思っている人が思いのほか多いっていうことです。「公共放送っていうのは、つまり、国営放送と同じでしょ」っていうふうに、これは誤解なんですけども、そういうふうに思って払っている人が非常に多いということです。

モーリー:つまり、絶大な信頼がディベートのない状態で、無言のうちに。

永田:「その信頼って何?」っていうことで言えば、いい放送を出している、正確な放送を出しているというよりも、お上の放送だから信頼するっていうことが非常に強いっていうことですね。これは残念なことだと思います。

モーリー:なるほど。神保さん、NHKに関してはどうですか?今NHKに少し軸を移しているんですけれども、僕は出入りしている業者の1人に過ぎないですけれども。スパイシーな、例えばBBCのように『ハード・トーク』っていう番組をやったり、CNNだとクリスチャン・アマンプールっていう人がイランの大統領とか、ダライ・ラマでもだれでもがーっと行くわけじゃないですか。そういう本物のぶつかっていくディベートみたいなものがNHKの環境の中だと、あらかじめちょっと丸っこくして、見ている人が傷つかないようにするっていう配慮が7割、「真実を伝えよう」が3割みたいに感じてしまうんですけど。どうしてBBCとNHKはあれだけ違うんでしょう?

神保:1つは今お二人の話にも出ていて、コメントも当たっているんですよ。「NHKを見ているお年寄り」っていう言い方をしたじゃないですか。

モーリー:はい。

神保:僕はコメントが低調で心配しているんですけどね。

モーリー:あはは(笑)。

(つづく)

・[ニコニコニュース]「メディアの公平性ってなんだ!?メディア帝王とジャーナリズム」全文書き起こし(1)~(5)
http://search.nicovideo.jp/news/tag/20150919_メディアの公平性ってなんだ!?メディア帝王とジャーナリズム?sort=created_asc

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]メディアの公平性ってなんだ!?メディア帝王とジャーナリズム - 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv234565032?po=newsinfoseek&ref=news
・ニコニコドキュメンタリー - 公式サイト
http://documentary.nicovideo.jp/

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