第2回将棋電王戦 第2局 電王戦記(筆者:先崎学)

ニコニコニュース / 2013年4月3日 16時0分

第1図

 まずは一冊の本を紹介するところからこの稿をはじめることにしよう。本の名は「完全なるチェス・天才ボビーフィッシャーの生涯」(文芸春秋刊、フランクブレイディ著、佐藤耕士訳)。本書は、アメリカのチェスの大天才故ボビーフィッシャーの生涯を略しく書いた本である。この人、天才と何とやらは紙一重のことば通り、完全な人格破綻者であった(この本を読めば必ず意味が分ります)。

 なぜ一見電王戦と関係のないと思える本の紹介から入ったかというと、フィッシャーという人が、チェスにおいてコンピュータが人間に勝った歴史におおきくかかわっているからである。

 今から五十年前、1960年代にチェスは完全にソ連の独壇場であった。アメリカはじめ他の国はソ連に対し太刀打ちできず歯がゆい思いをさせられていた。そこにアメリカで、ほぼ独学で(ソ連のエリート選手に比べればというはなしだが)世界レベルまで強くなったフィッシャーが突然出てきた。冷戦真っ盛りの時代である。フィッシャーとソ連選手との世界選手権は空前の盛り上りを見せ、フィッシャーは見事にソ連選手に勝ち、アメリカのヒーローになった。

 だが、その英雄が滅茶苦茶な人物だったのである。世界タイトルもつまらぬことで放棄し、タイトルはソ連に戻った。アメリカはフィッシャーなくしてはソ連に勝つすべもない状態に戻されてしまった。

 長々と前置きがつづいたが、ここからが本題である。フィッシャーなきアメリカは、ソ連を負かすべく、IBMと結託して、じゃぶじゃぶ金をつぎ込んで、チェスの強いコンピュータソフト開発をすすめたのである。そして「ディープ・ブルー」というソフトが見事にソ連のチャンピオンを打ち負かし、アメリカに溜飲を下げた。

 この一件を見て私は思った。そう、コンピュータが人間に勝つかどうかといういうのは、要は予算と情熱の問題なのである。国家が(べつに国家でなくてもよいが)じゃぶじゃぶ金と人を注ぎ込めば、人間を超えるのはそんなに難しいことではないのだ。だから、コンピュータが将棋がいくら強いというはなしを聞いても私は妙に冷めていた。コン君は決して退化しないから、いつかは人間が負ける、驚くようなことではない、そう冷めた目で見ていた。いわば、いずれ人間が負けるのは歴史的必然なのだ。

 コンピュータ将棋とはほとんど対戦したことがない。最後に指した時は十年前ぐらいで、なんと手合いは四枚落であった。すなわち、十年で四枚落分の棋力を伸ばしたのである。凄いとしかいいようがないし、アメリカ政府のようなバックもないのに情熱を注がれたプログラマーの方には敬意を表するよりない。

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