第3回 将棋電王戦 第1局 観戦記(筆者・先崎学)

ニコニコニュース / 2014年3月20日 11時0分

第1図 35手目▲6八角 の局面

 三月に入り各クラスの順位戦が次々と終って、いよいよ第三回電王戦の開幕である。将棋界に歳時記というものがもしあれば、電王戦は名人戦と並んで春の季語としてすっかり定着した感がある。

 朝、眠い頭と体で会場の有明コロシアムに入ると、いきなり菅井が明るい顔で出迎えてくれた。一番先に対局者に会うというのは妙な気分である。肩を叩いて「頑張れよ」という。普段の対局では相手も同業者なのでいくら親しくてもこういうことはいわないのが業界でのマナーなので、これは電王戦ならではのことだ。菅井は「はい、全力を尽します」と答えた。「練習は随分したの」と訊くと「はい、95勝97敗です」と即答されのけぞった。200局ちかく指したというのはすごい局数である。

 有明コロシアムはボクシングの観戦で何度か来ているが、本日のように中央にポツンと舞台があり、まったく観客がいないというのはちょっと異様で、シュールな感じであった。菅井は絶対にそれをいわない性格だからあえて私が書くが、やはりやりにくかったのではないかと思う。

 去年の負け越しから一年、はっきりプロ側の認識は変わった。もう、コンピュータを甘く見る棋士はいない。相当に頑張り、しかも運が良くないと勝てないと誰もが思っている。実際、練習対局などでは、持時間が短いとはいえ、かなりコンピュータが勝ち越しているのである。

 さて対局開始。習甦のかわりに指す電王手君がかわいい。赤外線のセンサーで動かすらしいが、センサーの邪魔にならないように着ぐるみでもきせれば、今流行りのゆるキャラ風になっていいのではないかと思った。

 序盤は双方早指しで、淡々と菅井の得意の中飛車にすすむ。習甦の組み方はプロがあまりしない形で、30手過ぎではやくも菅井悪くなし、という評判だった。

 局面が動いたのは第1図である。この▲6八角では▲8八角がならば無難であった。▲6八角とすると、次に▲4七金から▲3六歩の手の価値が高いので、後手は本譜のように△5四歩から仕掛けてゆくよりない。菅井はそんなことは当然百も承知で、つまり菅井はあえて闘いをここで誘ったのである。

 第2図の▲6七金まではほぼこうなるところで、すなわち菅井の読み筋通りである。先手が指しやすいという評判で、もちろん菅井もそう思っていたのだろうが、次の手がいい手であった。

 △5三銀と習甦は上った。これは控室での他のソフトも一番人気の手だった。これが気がつきにくいがいい手なのである。なぜ気がつきにくいかというと、後手の金銀の形はコンパクトで固いので、それを自らくずすというのは人間の直感には反するのだ。さすがコン君、頭が軟らかい。

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