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1日16時間以上”マイクラ建築”をし続けた結果、『マイクラ』の幻聴が聞こえるようになった男──やりこみゲーマーが見る景色とは【ゲーム実況者・ハヤシさんインタビュー】

ニコニコニュース / 2021年6月14日 11時0分

 起床、マイクラ、ご飯、マイクラ、お風呂、マイクラ、就寝。

 これはとあるゲーマーの1日である。

 聞くにその日は『Minecraft (マインクラフト)』(『マイクラ』)にて、ブロックを掘ったり盛ったりしてフィールドを平にする”整地”に勤しんでいたという。その時間なんと16時間以上

 1日中ゲームをすることじたいゲーマーにとっては珍しくもない。むしろ毎日ゲーム漬けの生活に憧れるゲーマーも少なくないだろう。

 しかし、実際にそんな生活を毎日送った結果どうなったのか。

「朝起きて『マイクラ』を起動していないのに土を設置するジャッジャッジャッという音が幻聴で聞こえた」

 ゲーム実況者のハヤシさん(@hayashi_lanturn)はそう語る。

 このときの状況をまとめるとこうだ。

「膨大なフィールドを4ヵ月かけて整地し続けていた」
「ときには1日16時間以上に渡って整地をすることも」
「腱鞘炎がひどくて湿布を貼りながらプレイしていた」
「整地し続けた結果、『マイクラ』の幻聴が聞こえるようになった」

 これだけ見ると苦行にしか見えないのだが、どうやらハヤシさんは「ずっと楽しくプレイしていた」という。

 どういうことだ……? わけがわからない。

 また、整地に限らず、ハヤシさんの『マイクラ』動画はひとつの建築物にかけるプレイ時間が多い。顕著な例だと、960時間かかった制作過程が90分の動画に収められている

 なぜそこまで時間と労力を注ぎ込めるのか。なぜその様子をほとんど動画にのせないのか。そこにはハヤシさん自身のゲームに対する愛と熱量と狂気が詰まっていた。

文・取材/竹中プレジデント

4ヵ月かかった整地作業も「楽しく」プレイ

──今回の取材では、膨大な時間と労力をマイクラ建築に注ぎ込んでいるハヤシさんが、どのようなことを考えてプレイしているのか、辛いと感じる瞬間はないのか、大変な作業であったとしてもやりこみ続けるその魅力についてお聞きできればと思っています。よろしくお願いします!

ハヤシ:
 よろしくお願いします! このような企画に呼んでいただいて大変恐縮ではあるんですが、僕自身はそこまでゲームをやりこめている認識はなくて……ここが大変だった、苦労した、という感覚もまったくないんです。

──えっ、そうなんですか? でも「【Minecraft】今更ドハマりした男の『MINECRAFT』実況プレイ part60-1」では、巨大な熊本城を作っていたじゃないですか。動画を見た感じ、かなりの期間と手間をかけて作っているように見えたのですが。

ハヤシ:
 製作期間で言えば、熊本城は資料集めから建築まで全部あわせるとだいたい8ヵ月くらいでしょうか。

──8ヵ月ですか!?  何にどれくらい時間がかかっている感じなんですか?

ハヤシ:
 作業の内訳としては、資料集めに1ヵ月、素材集めに1ヵ月半、整地に4ヵ月、城の建築に2ヵ月くらいです。

ちょっと理解が追い付かない部分があって、ひとつずつ確認させていただきたいのですが、まず資料集めに1ヵ月というのは?

ハヤシ:
 「御城内御絵図」(1769年ごろ・熊本市 蔵)や「御天守方御間内之図」(1798年ごろ・熊本県立図書館 蔵)、「御城図」(1755年以前・永青文庫 蔵)、「熊本城超絶再現記」(2019年・島充 著 新紀元社 発行)など、まず熊本城に関する文献を探して、それをもとにどう城を作るのか構想をまとめていきました。

 なかには江戸時代の文献もあり、それについては解読しないとどうしようもなくて。記号や昔の文字とにらめっこしながら少しずつ読み進めて、こんな感じで作ろうと城の構想がまとまるまでに1ヵ月くらいはかかりました。

江戸時代の文献も紐解いて”マイクラ建築”の参考に。
(画像は「【Minecraft】今更ドハマりした男の『MINECRAFT』実況プレイ part60-2」より)

──資料を解読……それは時間がかかりそうです。

ハヤシ:
 そこから1ヵ月半くらいかけて素材集めに取り掛かりました。”クォーツ”や”羊毛”など、建築に使うものを集めていく作業です。

 『マイクラ』には無限に素材を使えるクリエイティブモードがあるのですが、自分が遊んでいるサバイバルモードでは素材を集めて建築に必要なブロックを確保する必要があります。

──はぁ……。

ハヤシ:
 つぎに待っているのは、城を建てる敷地を整えるために、木を切ったり土を盛ったり掘ったりしてフィールドを平にする整地という作業です。期間は4ヵ月くらいかかりました

──ここまで半年以上、まだ建築の「け」の字も出てこないんですが(笑)。

ハヤシ:
 この熊本城に限った話ではなく、『マイクラ』のサバイバルモードでの建築になると、実際に建てる時間より素材集めや整地など準備に時間がかかるケースが多いんです。

素材集めは時間がかかる。
(画像は「【Minecraft】今更ドハマりした男の『MINECRAFT』実況プレイ part60-1」より)

──なるほど。フィールドを平にするだけの作業を4ヵ月も続けるって、かなり過酷な作業に思えるのですが、辛かったり大変だったりしないんですか?

ハヤシ:
 もともと、『ドラクエ』のレベル上げや『ポケモン』の卵孵化など、単純作業を楽しくできるタイプなんです。むしろ好きなくらいで。

 ですので苦労したって感覚は僕自身まったくなくて、ずっと楽しくやっていました。

──楽しくですか……整地をしているときってどんなことを考えているんでしょう。

ハヤシ:
 可能な限り楽して整地できるように掘削や設置の順番やルートを考えていますね

 ただ土を掘り、石を並べると言っても「どうすれば効率よく進められるか」「どうすればミスを減らせるか」と考えながらやるとおもしろいし、結果的に脳のリソースの節約にもなります。

──整地の効率化ですか。

ハヤシ:
 例えば印刷機のように右に進みながら石を設置し、端まで来たら一歩下がって今度は左に進みながら石を設置する。起伏や入り組んだ地形になってると引っ掛かったり埋めきれない部分ができるので、そこだけ集中して先に埋めておく。

 こうすると視点移動の必要がないため、設置や掘削のミスが減り、ちゃんと画面を見ていなくても進められるんです。最終的には左手だけで整地できるようになり、右手で仕事したり『ポケモン』をやったりしていました

──効率化を極めてますね(笑)。疑問が一点あって、無限に素材を使えるクリエイティブモードにすれば、時間や労力を大幅にカットできると思うのですが、なぜあえてサバイバルモードでプレイ続けているんですか?

ハヤシ:
 なんででしょうね……とくに大きな理由はなく、サバイバルモードで始めたので今さら変えてもな……というのが一番大きいと思います。

 あとは、便利すぎてもすぐに飽きてしまうので、サバイバルモードであるがゆえのちょっとした不便さが自分にとってちょうどよくて。

 クリエイティブモードなら素材集めをする必要もなく、手作業だと4ヵ月かかった整地も一瞬でできるのですが、僕はそういう作業も含めて楽しんでいるので、サバイバルモードのほうがあっているのかなと。

1日16時間以上整地した結果、『マイクラ』の幻聴が聞こえるように

──にわかには信じられないところではありますが……つまり、苦行に見える作業でもハヤシさん自身は楽しんでプレイされていると。

ハヤシ:
 そうですね。僕は辛いことは大嫌いなので、もし本当に辛いと思っていたらプレイもしてないですし、動画にもなってないと思います。

──ただ、動画の中でハヤシさんがあえて苦行に向かっているとしか思えないところもあって。例えば、熊本城の整地のときも、見栄えは変わらないのに「土の上に石を置くのはいけすかない」と、普通なら”土の上に石を盛る”作業だけで済むところを、“土を掘ったうえで掘った分も含めて石を盛る”というセルフ賽の河原みたいなことをしていたじゃないですか。

熊本城建築時の整地。普通ならここから石を盛って平にすればいいと思うのだが……。
(画像は「【Minecraft】今更ドハマりした男の『MINECRAFT』実況プレイ part60-1」より)
なぜか一度すべての土を掘る。
(画像は「【Minecraft】今更ドハマりした男の『MINECRAFT』実況プレイ part60-1」より)
それから石を盛る。見栄えだけなら土を掘る作業は必要ない。作業的には掘った穴を埋める行為と同じようなことをしている。
(画像は「【Minecraft】今更ドハマりした男の『MINECRAFT』実況プレイ part60-1」より)

ハヤシ:
 なんというか……見えないところにもこだわりたくなる質(たち)なんです。

 『マイクラ』はジャンルとしてはサンドボックス型のゲームで、砂場で砂を使って山やお城を自由に作れるように、ブロックを使って自由にものを作れるよと。

 例えば、砂場で城を作るにしても当然それは砂の城であって本物の城ではないわけで、そこに”お城に見立てる”行為が入ってきます。『マイクラ』で使うのはブロックですから、ブロックを組み合わせることで何かに見せる作業が含まれてくるわけです。

 そうなると、どこまで見立てるか、リアルさを追求するかとなってくるのですが、僕はわりとこわだってしまうほうなんだと思います。ですから土の上に石を置かないことも僕的には”見立て”の範囲なんです。

──ただでさえ膨大な作業をさらに増やして……と、視聴者も困惑のコメントを寄せていたのが印象に残っています。

困惑する視聴者たち。
(画像は「【Minecraft】今更ドハマりした男の『MINECRAFT』実況プレイ part60-1」より)

ハヤシ:
 やはり遊びというのは真剣になればなるほど楽しいですから。これくらいでいいやって思うと途端に飽きてしまうこともあるので、遊びでやるからこそ可能な限り突き詰めて、行けるところまで行きたいという思いはあります。

──遊びだからこそトコトン遊ぶと。

ハヤシ:
 はい。ゲームに夢中になってついつい長時間プレイしちゃう……みたいなことあるじゃないですか。それくらい本当に楽しくて。

 ある時期、1週間ほど毎日16時間~20時間くらい、とにかく起きているときはひたすら整地をし続けていたときもありました。

──おお……それはかなり人生捧げていますね。

ハヤシ:
 ただ、さすがにやりすぎたのかそのときは体調を崩して寝込んでしまって(笑)。

 腱鞘炎がすごくて湿布を貼りながらプレイしていましたし、朝起きて『マイクラ』を起動していないのに土を設置するジャッジャッジャッという音が幻聴で聞こえたり。さすがに少し休憩したほうがいいかなと思いました。

──そんなときでも「辛い」「苦しい」などの気持ちにはならないんですか?

ハヤシ:
 まったくなかったです。むしろ「早く治して整地しなきゃ」と思っていたくらいでしたね。

 もちろん、今日は『マイクラ』の気分じゃないな……という日はありますよ。ずっと整地をし続けている男と思われるのはあれですので。そういうときは別のゲームを遊んだり、趣味のお散歩をしたり、息抜きはちゃんとしています。

──散歩が趣味なんですね。

ハヤシ:
 歩きながらどんな動画を作ろうか考えたり、それこそ動画や『マイクラ』とはまったく関係ないことを考えたりしながら2時間くらいお散歩を。いい息抜きになります。

現実の建物が『マイクラ』のブロックに見えてくる

──2014年より『マイクラ』実況を始める以前は、『 マリオストーリー』や『ポケモン』実況などのイメージが強かったハヤシさんですが、『マイクラ』を遊びだすことになったきっかけみたいなものってあるんでしょうか。

ハヤシ: 
 2012~2013年くらいから、ニコニコで『マイクラ』の投稿がすごく盛んになった時期があって、そのブームが少し落ち着いたタイミングくらいでたまたま『マイクラ』の動画を見たんです。

 もともと『マイクラ』がどういうゲームなのかまったく知らなかったのですが、Bellさんの「方向音痴のマインクラフト」という動画を見て、すごくおもしろそうなゲームだと思って購入を決めました。

──動画きっかけで『マイクラ』をプレイしたと。実際に遊んでみてどうでしたか?

ハヤシ: 
 動画でゲームの概要じたいは把握していたのですが、実際にやってみるとその自由度の高さにびっくりしました!

 Bellさんの動画を見ていた影響もあって、とくに建築というものに興味を抱いて、ずっと建築ばかりしていましたね。

──ハヤシさんってご自身で「飽き性」だと公言されているじゃないですか。それなのに7年以上遊び続けるくらい飽きない。

ハヤシ: 
 やはり終わりが見えないというか、明確なゴールがないゲームということもあって、ずっと続けています。

 始めた当初、半年くらいで飽きて終わると思っていたんです。それがまさか7年続くことになろうとは……思ってもいませんでした。

──『マイクラ』のなにがハヤシさんをそこまで惹きつけているのでしょう。

ハヤシ: 
 さきほど話した“見立てる”行為と重なる部分ではあるのですが、『マイクラ』というゲームは、いろいろな遊びができるんですが、なんでもできるわけじゃないんです。

 例えば車を作りたいと思っても車のブロックはないので、あるブロックで車っぽく見せる工夫が生まれてくる。自由度は高い、でも何でもあるわけじゃないという制限。そこに生まれる工夫というのが『マイクラ』の楽しいところだと僕は思っています。

 逆に、なんでもかんでもブロックがあったら飽きてしまったかもしれません。不自由さ、不便さを楽しむと言いますか。何でもあるわけじゃないから頭をひねって工夫して表現していく、というところが楽しくてずっと続けられているのかもしれません。

ブロックを組み合わせて作った”大きな古時計”。
(画像は「木の内装をつくる|今クラ+ #2【Minecraft】」より)

──そういう『マイクラ』のゲーム内における”見立て”をはじめとするテクニックや、建築の知識についてはどのように学ばれていったんですか?

ハヤシ: 
 『マイクラ』の技術に関しては、ほかの方の動画で紹介されているテクニックを参考にしつつ、それを自分なり吸収してアレンジしていきました。

建築の知識に関しては、『マイクラ』を始めるまでまったく知識がなかったので、『マイクラ』きっかけで本を読んで勉強したり、実際の建物の構造を参考にしたりして勉強していきました。

──7年も『マイクラ』を続けていると、建物を見る目が変わってくることもあったり?

ハヤシ: 
 『マイクラ』を長年プレイしている方にとっては、あるある現象だと思いますが、現実の建物が『マイクラ』のブロックに見えてくるというのはあります。

 これは”なめらかな砂岩”で作れるかなとか、これは”クォーツ”が必要だろうから作るのには時間がかかるな、みたいに。『マイクラ』を遊んでいる友人同士で街へ出かけると、そういう会話で盛り上がったりもします。

──職業病みたいな感じですね(笑)。動画内で建物を建てるときと、動画外で建物を建てるときってなにか違うところってないんですか?

ハヤシ: 
 動画内も動画外も同じですね。目印をつけて、柱を建てて、壁を作って、屋根を作ってと、基本的に動画で紹介している順番で普段も建てています。

 ただ、『マイクラ』は3Dゲームのため、酔いやすい方はどうしても酔ってしまうんです。ですからゲーム画面を録画する際は視点をぐわんぐわん動かさず、可能な限り酔いにくいカメラワークというのは意識しています。

──素材集め、整地含めてすべての作業を楽しんでいるハヤシさんですが、とくに脳汁が溢れちゃう快感や達成感を抱くタイミングなんでしょう。

ハヤシ: 
 新しい表現方法を思いついたときですね。例えば石のボタン・額縁・旗を組み合わせてトイレットペーパーが表現できたときなどはテンションが上がりました。

 先に言った通りマイクラは自由度は高いですがなんでもあるわけではないゲームです。ゲームが用意していないものを、自分の工夫でなんとか表現する。このゲームならではの爽快感です。

 そういった工夫した点を動画投稿後に視聴者の皆さんから評価してもらえたり、参考にしてもらえるのもとてもうれしいです。


幼少期からゲームっ子。ゲームを遊びすぎて親に隠されることも

──ここからはハヤシさんとゲームのルーツについて迫っていければと。まず、初めてゲームに触れたのっていつころになるのでしょう。

ハヤシ: 
 幼稚園くらいのころでしょうか。自分の両親はゲームに疎くて、今でもNintendo Switchをファミコンと言ってしまうくらいなのですが、おじさんがゲーム好きで、そのおじさんが持っていたディスクシステムの『バレーボール』というゲームを遊んだのが初めてのゲームだったと思います。

(画像はAmazon「バレーボール ディスクシステム 」より)

──初めてプレイしたゲーム、どんな感じだったか覚えていますか?

ハヤシ: 
 本当に小さかったので、「これがゲームなんだあ」「遊んだ記憶はあるなあ」くらいの感覚です。

──なるほど。では初めてゲームにハマったのっていつくらいなんでしょう。

ハヤシ: 
 小学校1、2年生くらいの頃だったと思います。どっちが先か記憶が曖昧なのですが、『星のカービィ2』と『ポケットモンスター 緑』の2作品はめちゃくちゃ遊んだゲームですね。

(画像はAmazon「星のカービィ2 」より)
(画像はAmazon「ポケットモンスター 緑 」より)

──ハヤシさん世代(30歳前後)だと、誕生日やクリスマスにゲームを買ってもらって、みたいな流れが多かったんじゃないでしょうか。

ハヤシ: 
 そうですね。僕も誕生日かクリスマスかに買ってもらったと思います。

 同世代の方ならわかると思うのですが、僕たちが子供のころってぽんぽんゲームを買ってもらえなかったじゃないですか。

 ですから、『星のカービィ2』は何周もしましたし、『ポケットモンスター 緑』もポケモン図鑑完成まで遊んだり、同じゲームをずっとやり続けていましたね。

──あるある話ですね。ゲームじたいはわりと自由に遊べていたんですか?

ハヤシ: 
 具体的に何時間と決められていたわけではないんですが、ゲームを遊びすぎて隠されるということはよくありました

──隠されちゃう。

ハヤシ: 
 もうこれは当時から不満でしたね。勉強をまったくしないでゲームをやって隠されるならまだわかるんですが、僕自身、勉強も好きでしっかりやっていてテストでもいい点数はちゃんととっていたんです。やることはやっているのに隠されるとはこれいかにと納得できませんでした。

 幸いなことに両親が共働きでしたので、隠されているゲームを探し当てて、親が帰ってくるまでゲームを遊び、帰ってきたら勉強をするというのをやっていました。

──完全にゲームっ子ですね。その後、小・中・高どんなゲームを通ってきたんですか?

ハヤシ: 
 小学校にあがったらさきほど言った『星のカービィ2』と『ポケットモンスター 緑』、小学校高学年から中学生にかけては『大乱闘スマッシュブラザーズ』、『風来のシレン』、『ポケモンスナップ』などNINTENDO64のゲームを遊んでいました。

 中学生になると『ドラゴンクエスト』にハマって。ちょうど『ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち』がプレステで発売されていて、もうずーっとプレイしていました。

──……キーファに種【※】は取られましたか?

ハヤシ: 
 見事に取られましたね(笑)。

※キーファと種……『ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち』序盤において高い攻撃力とHP,優秀な特技を持つ頼れる前衛だったキーファ。多くのプレイヤーは”種”というステータスを補うアイテムを使用し、活躍を期待した。しかし、前触れもなくキーファはパーティから離脱する。そして二度と戻ってこない。(ニコニコ大百科「種返せ」より)

──(笑)。ハヤシさんと言えば、東大出身ということで、学生時代はゲームより勉強だったのかなと思っていたのですが、根っからのゲーマーな学生時代をお過ごしだったんですね。

ハヤシ:
 むしろ学校をサボってゲームをしていました。先生に呼び出されたこともあります。

──それはものすごく意外です。東大に入学されたってことで優等生な学生をイメージしていました。

ハヤシ:
 僕にとって、勉強とゲームのどちらも知識を得られるのがおもしろくてやっているもので同じカテゴリなんです。テストもゲーム感覚でやっていました。

 ただ、やらされるのがダメなんですよ。勉強も楽しいから自分でやるものであって、人にやらされるものというのが理解できなくて、小学校から高校まで夏休みの宿題って1回も出したことないんです

──本当に素晴らしい考えだと思うんですが、先生にとっては困った生徒だったでしょうね(笑)。

ハヤシ:
 クソガキだったと思います。「昔からゲームばかりしないで勉強しなさい」と、親や先生から言われ続けましたけど、僕的には境目がないので、なぜ勉強がよくてゲームがダメなのかわからなかったんですよね。どっちも同じじゃん ! って思っていたので。

──そんな小・中・高校生活を送りつつ、東大に入学されるわけですが、東大を受験した理由ってなにかあるんですか?

ハヤシ: 
 九州の大分県出身なんですが、もともとは化学(ばけがく)をやろうと九州大学に行こうと思ったんです。

 そんな中、参考書を買いに本屋さんに行ったら『Newton(ニュートン)』という科学雑誌をたまたま見つけて、ちらっと読んでみたところ宇宙特集が組まれていて、それがめちゃくちゃおもしろかったんです。

 「化学(ばけがく)もいいけど天文学もいいなあ」とふと思い、その特集を書いていたのが東大の教授でしたので、東大を受験することになりました。

実況者になっても動画化を見据えてのゲームプレイはしない

──大学入学後、2011年7月4日に「【神ゲー?】東大生がマリオストーリー実況プレイッ!!【紙ゲーです】」で動画投稿デビューされたハヤシさんですが、実況動画を始めたのにはなにかきっかけが?

ハヤシ:
 大学2年か3年のとき、単位取得の関係であまり授業をとらなくていい、比較的に時間が余った年ができて、その際に何か新しいことを始めたいと思ったのがきっかけでした。もともとニコニコ動画で実況動画をよく見ていたのもあって、ゲーム実況を自分でもやってみようと。

──当時はどんな実況動画をご覧になっていたんでしょう。

ハヤシ:
 「秋山森乃進がクロックタワー実況すると 思うよぉ」のまおは、おもしろい人だなあと思いながら見ていました。今ではいっしょに配信をしたりしているので不思議な感じですね。

 あとはイボーンさん(ケイさん)やルーツさんなど、実況動画黎明期から活動されている方をよくみていました。実況活動を始めたのはやはりこの方々に影響されたところは大きいです。

──ハヤシさんが動画投稿を開始されたのが2011年、当時のゲーム実況界隈ってどんな雰囲気だったんですか?

ハヤシ:
 僕が実況を始めるくらいにはニコニコ内ではひとつのジャンルとして確立していましたね。

 ただ、当時は今とは違って、ゲームが発売してから1ヵ月くらいは投稿を自重しないといけない風潮があったんです。

 『ポケモン』実況のときも、『ポケモンBW2』発売してから1ヵ月くらいは間隔をあけてから動画を投稿していましたし、発売されたゲームをすぐに動画投稿するのよくないっていう暗黙の了解があって。今は発売日に実況配信するのは当たり前じゃないですか。昔からは信じられない時代だなと。

──『ポケモンBW2 』の発売日が2012年6月23日、ハヤシさんの「【ポケモンBW2】東大生がポケモンBW2 対戦実況! part1 【フリー・レート】」の動画投稿が2012年7月21日、確かに1ヵ月くらい間隔が空いてますね。

ハヤシ:
 そもそもゲームの内容をアップロードすることがグレーゾーンな時代なこともあり、アンダーグラウンドな界隈ではありました。なんというか、逆鱗に触れないようにこそこそとやっている雰囲気はあったと思います。

 それがいまや発売元が実況していいと、収益化もオーケーと声明を出す時代になっていて。すごい時代になったなと思うと同時に、ゲーム実況の門戸が広がっていることは非常にうれしいですね。

──本当にこの10年ちょっとは激動の時代で……。ハヤシさん自身、動画投稿を始める前後でゲームとの向き合いが変わった部分ってあるのでしょうか。

ハヤシ:
 実況を始めて変わる方もいると聞きますが、自分はとくに変わった感じはしません。

 僕の場合、とりあえず遊んでみておもしろいなってなったら配信しようっていうのが基本ですので、動画化を見据えてゲームをプレイすることはないです。配信、動画投稿は普段のゲームプレイの延長線上にある感覚です。

 ただ、他の人の動画を見る時間は減ってしまいましたね。

──それはやはり時間的な問題で?

ハヤシ:
 はい。自分はマジでマルチタスクができなくて、動画を作るとなったら、動画を作るか飯を食うかお風呂に入るか寝るかになってしまう。何かに集中するとそれ以外ができないんです。

 動画投稿を始める前は、それこそ時間があればずっと動画を見ていたんですが、どうしても自分はひとつの動画を作るのに時間がかかってしまうので、その影響で見る機会は減ってしまいました。

なぜかわからないがクリスマスには『マイクラ』をやっていることが多い

──2014年からスタートしていた『マイクラ』実況ですが、今年の3月から新シリーズ(「Minecraftってどんなゲーム?|今クラ+ #1【Minecraft】」)としてナンバリング新たに再始動しました。これには何か理由があるのでしょうか。

ハヤシ:
 純粋に動画の新しい入口を作りたかったんですよね。

 7年間『マイクラ』実況を続けてきて、パートも60とそれなりのボリュームになってきました。新しく見てくださった方が、過去の動画にも興味を持っていただいたときに「全部でパート60あるよ!」というのはなかなか酷じゃないですか。

 ですので、内容としてはこれまでとやっていることはとくに変わらないのですが、一旦仕切り直してイチから始めようと。

──「【Minecraft】今更ドハマりした男の『MINECRAFT』実況プレイ part1 【実況】」から比べると、実況というより解説要素が強くなっている気がするのですが、なにか理由があるんでしょうか?

ハヤシ:
 そうですね。具体的にこの回からという明確な区切りはないのですが、回を重ねるごとにひとつの動画にかける時間というのがどんどん長くなっているんです。要するに動画にする際にカットしている部分が増えていって

 例えば、10時間くらい作業した整地作業が動画内だと1分もかからないくらいに収める……となると、プレイ中ずっとしゃべりっぱなしで実況するわけにもいかない。

──1パートごとのプレイ時間や編集にかかる時間が膨大になっていっているのは、投稿ペースを見ているとなんとなく伝わってはいました(笑)。

ハヤシ:
 熊本城の建築するときなど、半年以上投稿期間が空いてしまいまして……視聴者のみなさんにはご不便をおかけしまっております。それでも見てくださっていて本当にありがたいですね。

──新シリーズに入って、投稿間隔が短くなったら、逆に困惑の反応があったり。

ハヤシ:
 そうそう! 「2週間で投稿された。お前本当にハヤシか!?」って(笑)。

──訓練されている感はありますよね(笑)。『マイクラ』実況を始めてから7年間……いろいろあったと思うのですが、振り返ってみて印象に残っていることがもしあれば教えてください。

ハヤシ:
 そうですね……パッと出てくるものだと、パート31で、デパートを作ったときです。

 当時は、”ネザークォーツ”というブロックがかなり貴重で、それを掘るために世間がクリスマスのなかずっと”ネザークォーツ”を掘っていたことは今でも覚えています

──クリスマスにゲームをして過ごす。まさにゲーマーの鑑。

ハヤシ:
 なぜかわからないのですが、思い返すとクリスマスに『マイクラ』をやっていることが多いんですよ。

 パート16くらいだと思うのですが、村人の村に通じる鉄道を伸ばすために、ひたすら石を並べてレールを作っていたのもクリスマスでしたし、パート45で”ネザー”という危険な場所に駅を作るために、常時敵がわいてくる場所で敵から攻撃されながら整地をし続けるけっこう大きな作業もクリスマスでした。

──ここまで縁があるのって不思議な感じですね。

ハヤシ:
 本当にとくに理由もなく。普段から時間ができたら『マイクラ』を遊んでいるというのもあるんですが、あいにくとクリスマスに予定ができたことがなくて(笑)。

──(笑)。

ひとりでも多くの方にゲームの魅力を伝えたくて実況動画を投稿している

──さきほど動画でカットする部分が増えていったとおっしゃっていましたが、熊本城建築のときには実際にどのくらいプレイ時間だったのでしょう?

ハヤシ:
 ゲーム内でのプレイ時間だと960時間くらいでしょうか。

──960時間プレイして動画になっているのは90分(30分×3本)……。

ハヤシ:
 はい。ですので製作過程のほとんどは動画にはのっていないことになります。

1ヵ月半かかった素材集め、4ヵ月かかった整地も動画だと約20分に。
(画像は「【Minecraft】今更ドハマりした男の『MINECRAFT』実況プレイ part60-1」より)

──これだけプレイ時間が膨大だと、動画にする箇所を探す、選定することじたいも大変な作業になってくると思うのですが、実際どうなんでしょう?

ハヤシ:
 そこはでも自分で作っている動画ですから。ここは動画に使う・使わないというところがわかってくるので、使わない場面は録画しないで普通にプレイしているので、そこまで労力としてはかかりません。

──ゲームプレイは「楽しく」とおっしゃっていましたが、動画編集に関しては「辛い」「大変」なときってないんですか?

ハヤシ:
 ゲームプレイも動画編集も楽しくやれているので、時間が足りないのが辛いです。もどかしい。ずっと作っていたい。

──動画編集も楽しい?

ハヤシ:
 はい。動画投稿者の中には編集が大変と思う方もいると思うんですが、僕個人としては編集作業も楽しんです。

 『マイクラ』実況動画のパート1からゆっくりではありますけど編集技術というのも勉強して成長しているつもりですし、新しいことを取り入れながら、工夫しながらやっていくのが楽しいので、苦にはならないですね。

──なるほど、ハヤシさん自身が楽しくやっているのはわかりました。とは言え、ここまで手間と時間をかけて1本の動画を作りこむより、制作過程をそのまま配信なり動画として投稿したほうが、数字や収益の面ではコスパはいいと思うんです。

ハヤシ:
 それはそうだと思います。

──なぜここまで時間と労力がかかる動画スタイルにしているのか……それが不思議で。

ハヤシ:
 僕が実況動画を投稿し始めたころから持っている信念……なんていうと大仰(おおぎょう)なんですが、自分の好きなゲーム、おもしろいと思ったゲームを「これはおもしろいゲームなんだぞ ! このゲームはここが楽しんだぞ」と、ひとりでも多くの方にゲームの魅力を伝えたくて実況動画を投稿しているんです。

──ゲームの魅力を伝える。

ハヤシ: 
 はい。僕は『マイクラ』がすごくおもしろいゲームだと思っていて、『マイクラ』というゲームをひとりでも多くの方に実際にプレイしてほしいんです。

 だから、動画を作る際も「僕がすごい」ではなく「『マイクラ』がすごい、おもしろい」、そう思っていただけるような編集を心がけています

「今クラ+ #1」でもハヤシさんは、「建築や冒険をして、ワールドを発展させていく過程で、『マイクラ』っておもしろいんだぞって伝えていければと思っています」と語っていた。
(画像は「Minecraftってどんなゲーム?|今クラ+ #1【Minecraft】」より)

──「『マイクラ』すごい、おもしろい」を伝えるための編集って具体的にどんな編集方針になるんですか?

ハヤシ: 
 がんばっている風に見せないというのは常々気を付けているところではあります。

 自分が楽しく作業していても、対外的に見たら大変だと思われるようなところがあるというはわかってはいます。ですから、そういう苦労していると見える場面は極力見せないで、楽しい部分を抜き出して動画にしている感じです。

──苦労しているように見える部分は極力見せない。これってやりこんでいる部分をカットしていると同じなのでは?

ハヤシ: 
 動画の中で「『マイクラ』ってこんなにおもしろいんだぞ!」を伝えたいのに、「すごく苦労してこれだけ頑張ってこんなものを作りました」となると、すごいの対象が作った自分に向いてしまうんです。でも僕は『マイクラ』に「すごい」が向いてほしくて

 ですので、僕の動画はあくまでゲームがメインであって、僕は引き立て役で。ゲームが刺身なら僕は醤油のようなポジションでありたい。ゲームの魅力を最大限引き出すにはどうすればいいか……となると、配信よりも動画という形式で、プレイ中からエッセンスを抜き出して解説するのが一番いいのかなと。

 収益という点に関して効率が悪いのは確かにそうなんですが、ゲームの魅力を伝えるという点では動画で解説するのがもっとも効率的かなと思っているんです。

──ゲームへの愛や狂気を感じます……。 では最後に、マイクラ建築に興味を持っている方に『マイクラ』をこう楽しんでほしいや、膨大な作業に抵抗を覚えている方に作業を楽しむコツなんかがあれば教えてください。

ハヤシ:
 「こういうものを作ってみたい」と思いついたときの勢いを大事にしましょう。途中で我に返ってはいけません。

 「この作業がなんの役に立つのか」などと考えるならそもそもゲームなんてやらないほうがいいと思います。「やってみたいと思った」ことが唯一かつ最大の理由です。その気持ちを最後まで忘れなければ、きっといい建築ができるはずです。できるまでやりつづければ必ず完成するので。


 ゲームは遊びだ。そして遊びだからこそ本気でトコトン楽しむ。例えそれが傍から見たら”苦行”であったり”無駄なこと”に見えたっていいじゃないか。「やってみたいと思った」──それこそがゲームを遊ぶうえでの最大の動機だと。ハヤシさんはそう語っている。

 だからこそ対外的には過酷溢れるように見える4ヵ月もの整地作業もハヤシさんは楽しみ続けられるのだろう。そう、苦手意識を持つ人が多い勉強に対しても”新しい知識を覚えるのがおもしろい”と楽しさを見出したように。

 最後に、今回の取材では、膨大な時間と労力をかけて製作した”熊本城建築”動画のエピソードを中心にお話をお聞きしたわけだが、ハヤシさんの『マイクラ』動画シリーズでは基本的に視聴者が参考にしやすい規模の建築方法が紹介、解説されている。

 それはやはり「自分がおもしろいと思っている『マイクラ』というゲームの魅力をひとりでも多くの人に伝えたい。そしてプレイしてほしい」、そんな想いからなのだろう。

 

▼ハヤシさんの実況動画シリーズ一覧▼
「ハヤシさん投稿動画一覧」

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