イスラエルとUAE・バーレーンとの国交正常化が「中東和平」につながらない理由
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年9月27日 11時35分
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(9月25日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。中東和平問題について解説した。
サウジアラビア・サルマン国王~トランプ政権の努力を支持
サウジアラビアのサルマン・ビン・アブドルアジーズ国王は9月23日、国連総会でビデオ演説し、敵対するイランについて、「大量破壊兵器の保有や弾道ミサイルの開発を阻止するために包括的な解決策が必要だ」と訴えた。また、中東和平問題について、イスラエルとパレスチナを交渉の席につかせるためのアメリカ、トランプ政権の努力を支持すると述べている。
飯田)サウジの国王も、トランプ政権の努力を支持するということです。
宮家)何を言っているのかよくわかりませんけれども。その前に、サルマン国王とおっしゃいましたが、なぜ「サルマン・ビン・アブドルアジーズ国王」と言うか知っていますか?
飯田)いいえ。
宮家)「サルマン」は国王の名前です。そして、「ビン」とは息子という意味です。そのあとの「アブドルアジーズ」というのは初代国王です。ということは、「名前はサルマンね。親は初代国王だ」とわかるのです。もう相当なお年ですよね。それでいて、まだ第2世代なわけですから、おそらくこれが最後なのですよ。そしてサルマン・ビン・アブドルアジーズ国王の皇太子が、ムハンマド・ビン・サルマンですよね。ムハンマドなのですが、ビンは息子でしょう。そして、サルマンはこの父親です。MBSとも言いますが、ムハンマド・ビン・サルマンで、「この人は国王の息子なのだ」ということがわかるのです。これはあまり本題とは関係ないのですが。
サウジアラビアが提案した和平内容~イスラエルの独立国家とパレスチナの独立国家をつくる
宮家)イランが怖いのはわかります。サウジアラビアの人口も2000万を超えて増えたけれども、所詮は石油で食っている人たちですから、イランのように強力ではないのです。なぜあそこがペルシャ湾と呼ばれるのか。アラビア湾ではなく、ペルシャが強いのです。だから、イランは伝統的に湾岸諸国にとっては脅威なのです。
飯田)そうですね。
宮家)中東和平について、「イスラエルとパレスチナを交渉の席につかせるための、トランプ政権の努力を支持する」ということですが、何を言っているのだと。私からしたら支離滅裂です。なぜなら、サウジアラビアとはもう何十年も前に、パレスチナとイスラエルできちんとした交渉をやって平和条約を結び、2国で、イスラエルの独立国家とパレスチナの独立国家をつくるのだと。これがサウジアラビアが提案した和平内容です。いま何が起きているかと言うと、イスラエルがアラブ首長国連邦やバーレーンと国交正常化をしているわけです。それはそれでいいのです。別に驚くことではない。すでに現実は先に行っていて、イスラエルとその種の国々との関係は大幅に改善しているのです。
パレスチナ問題は後回し~将来ツケが回って来る
宮家)しかし、ここで何が問題かと言うと、パレスチナの独立国家の話はどうなったのかということです。もし本当にパレスチナ、イスラエルを交渉の席につかせるために努力すると言うなら、これはサウジアラビアの提案ですから、アメリカにもっと汗をかいてもらわなくては困るのですよ。いちばん簡単なアラブ首長国連邦やバーレーンとの関係改善をやって、「やった」と言っていますが、和平とは全然関係ありません。「パレスチナ問題はどうなったのか」となると、みんな沈黙するのです。ということは、サルマン国王の裏にいる息子の皇太子が、それなりに考えてやっていることだろうと思いますが、いちばん難しい宿題を全部先延ばしにして、簡単にできるところからやっている、非常に安易な外交です。中東和平問題、もしくは中東全体の安定という観点から見れば、パレスチナ問題を解決せず、イランとの関係だけに集中するというのは、中長期的には、将来必ずつけが回って来ると思います。
飯田)イスラエルが占領したところに入植を続けていて、それを一時停止することが条件と。
宮家)しかし、停止なんてするわけがない。
飯田)それも現状追認の形になってしまう。
宮家)しかも相当なところ、本当は全部返すはずだったのですから。
飯田)国際法ではそうなっているはずが。
宮家)いかがなものですかね。楽ではないですよ。中東はもっと厳しいところだと思います。
飯田)このツケ、マグマが溜まって、それがどこで、というところですか?
宮家)そうなるだろうと思いますが、そうならないようにするのが外交官の仕事でしょうね。
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