アメリカ国内に向かうバイデン氏~日本は精神的にアメリカから独立するべき
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年11月18日 17時40分
ウィルミントンで、報道陣の質問に答えるバイデン前副大統領(アメリカ・デラウェア州)
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(11月18日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。トランプ大統領がアフガンとイラクの駐留米軍の一部を削減するというニュースについて解説した。
トランプ大統領がアフガンとイラクの駐留米軍を削減か
アメリカの各メディアは11月16日、トランプ大統領がアフガニスタンとイラクに駐留するアメリカ軍の一部を削減する見通しであると伝えた。アメリカ政府高官や関係筋の話として報じられている。
飯田)アフガン、イラクから駐留米軍を削減するという話は、オバマ政権のころからありました。
バイデン政権に変わったからと言って平和が戻るわけではない~世界の警察から撤退したアメリカ
佐々木)バイデン政権に移行となって、メディアを見ていると、「トランプさんがいなくなってバイデンさんに代わると平和が戻る」というような幻想が語られたりしていますが、そんなことはありません。長い流れで言うと2000年代に入り、ブッシュ時代にイラク戦争やアフガン戦争などをやりまくって批判が多かったので、オバマ政権では中東に干渉せず、「世界の警察から撤退します」と明言してバランスを変えました。中東にあまりコミットせず、中国の台頭もあったので東アジアにもう少し目を向けましょうということになった。中東から撤退することができるようになったのは、アメリカ国内でシェールガスが取れるようになったからです。それまで中東は原油の大産地なので、中東の安定が世界平和に寄与するし、アメリカにとっても重要でした。でもアメリカでシェール革命が起こり、エネルギーが自立したので、中東から原油を持って来なくてもよくなった。アメリカは独善的な考えで「もう世界の平和には関係ない」と言い出しました。その流れがトランプさんの時代にも流れています。トランプさんがやったことは、世界の警察から撤退して、「我々は北アメリカに閉じこもって暮らすので、あとは皆さん好きにしてください」ということでした。だから実際に戦争をしませんでした。
飯田)大統領の任期中に戦争を仕掛けませんでした。
佐々木)ある意味で平和な大統領だという言い方もできなくはない。これがバイデンさんになったからといって、変えられるかどうかはわかりません。ニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナルも報じていますが、トランプさんが「イランの核施設に空爆したい」と言っていると。これはレガシーと言われる遺産ですよね。大統領が退任するときに、印を残すために、最後に何かやりたがります。オバマさんが広島に訪問したというようなことです。イランを空爆してレガシーにしようとしているのではないかという話があります。しかし、もはや、そういう方向には向かないのではないでしょうか。トランプさんがイランを嫌いなのは間違いないですが、戦争するオプションはありません。
アメリカ国内の安定と平和に向かうバイデン氏~世界の平和には関与しない
佐々木)今後、トランプさんだろうがバイデンさんだろうが、アメリカが自国に閉じこもって行くのは間違いありません。コロナで大変な経済状況になり、人もたくさん死に、今回の大統領選で国が分断され、いろいろな場所で暴動が起きて大変な状況になっているときに、海外にお金を出して「中東の平和、安定に寄与します」とバイデンさんが言っても、アメリカ国内では誰も支持しません。バイデンさんの方向としては、アメリカ国内の安定と、もう一度分断をなくして平和を取り戻すという方向に行くのは間違いありません。世界の平和には関与しない方向になると思います。そこで日本がどうするか、ドイツ、フランス、イギリスがどうするかということに議論を向けて行くべきです。トランプさんとバイデンさんの話に引きずられ過ぎなのではないでしょうか。
飯田)オバマ政権のときの、中東から退くということでのリバランス、言葉のイメージとしては、「これでアジアを重視してくれる」と日本人やアジアの人は思いました。でもあれは中東から退くためのある意味の方便のようなもので、結局、中国が南シナ海まで出て来たことに対して、オバマ政権は何もしませんでした。
オバマ政権の腰の引けた姿勢が現状のさまざまな問題を招いた
佐々木)トランプ政権になってからは、反中姿勢を鮮明にしたので、本当のリバランスを考えてやってくれたということはあります。オバマ時代に撤退したことによって起きたハレーションは大きくて、ロシア、中国の台頭は明らかにこの余波です。ロシアがウクライナとトラブルを起こしてクリミア半島を奪ってしまったことに対して、アメリカが何もしなかったのは大きな問題でした。香港の問題ではじめて反中国に転じましたが、それまで中国の台頭に対して、経済的なつながりのあるEUは何も反論しませんでした。いろいろな問題が放棄されて来た結果、いまの東アジアの不安定や、中東でIS(イスラム国)が出て来たり、クリミア半島の問題など、すべてオバマ時代に種があることは間違いありません。オバマさんを否定しているわけではなく、素晴らしい大統領だと思いますが、国際秩序で言うと、オバマ大統領の腰の引けた姿勢が現状を招いています。トランプ大統領に代わってから新しいことはやっていません。イランの核合意破棄などはありますが、全体の国際秩序の流れとしては棹を差すことはしませんでした。
飯田)それをバイデンさんが引き継ぐかどうかですが。
佐々木)バイデンさんはオバマさん時代の副大統領でしたし、オバマ的な路線を引き継がざるを得ないのではないでしょうか。警察をなくせば犯罪者が増えます。世界の警察がいなくなれば世界の犯罪が増えます。ロシア、中国、イスラム国の台頭のようなものも当然、招きます。警察がいなくなったら、どうすればいいのか。オルタナティブな警察をみんなで考えるしかありません。その中心になるのはドイツやフランス、そこに日本も入らざるを得ないと思います。
日本社会が「国際社会の秩序を担う」というプライドを持ち、安全保障ではアメリカとうまくやる~両輪で進める
飯田)そうすると、そこで周りの国々について来させるためには、自分たちが大きな目標のようなものを掲げなければいけませんよね。
佐々木)ビジョンが大事だと思います。日本は安全保障的にアメリカに依拠せざるを得ないですが、「国際秩序のビジョンとは何か」を打ち出すことは、精神的なアメリカからの独立を促すことだと思います。アメリカからの独立は、何も「在日米軍は出て行け」ということではなく、在日米軍はお互いにメリットがあるのでいてもらわなければいけません。一方で国際秩序に対する見方のようなものを、日本独自につくって行くことは、精神的な独立になります。私はこれで十分だと思います。「国際社会の秩序を担うのだ」というプライドを日本社会が持ち、同時に安全保障に関しては、アメリカとうまくやって行くという両輪で進むのがいいのではないかと思います。この先、日本がどういう形で国際社会に寄与するのかというビジョンを持たなければいけません。
飯田)戦後75年、それがなかったということですよね。
佐々木)安倍政権がやっていた「自由で開かれたインド太平洋」戦略や、とにかく外遊して仲よくするなど、安倍政権的な外交はいいと思います。そのビジョンを菅政権に引き継いで欲しいと思います。
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