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クルマの電動化の課題、もう1つの視点

ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年4月22日 17時20分

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「報道部畑中デスクの独り言」(第243回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、クルマの電動化の課題について—

燃料電池車は「究極のエコカー」と呼ばれるが……(トヨタ・旧型ミライ)

カーボンニュートラルに向けたクルマの電動化の課題、先の小欄では主に国内自動車メーカーのスタンス、カギとなる電池開発などにスポットを当てましたが、今回は別の視点から論じます。そのキーワードは「雇用」です。

経済産業省などによりますと、自動車はおよそ3万点もの部品で構成されていると言われています。ただ、これが電気自動車になりますと、2万点ほどに減るとみられます。動力源がエンジンからモーターに変わるわけですから、これまでつくっていた部品が不要になり、逆に新たな部品が必要というケースが出て来ます。当然、労働環境も変わり、雇用に影響が出て来るのではないかというわけです。

ある自動車部品メーカーの関係者、OBはこう話します。「単純な部品製造業は淘汰される」「ベンチャー企業が参入し、電機産業と自動車産業のボーダーレス化が進んで行く」……。

電気自動車のシステム(日産リーフ)

先の小欄では電池開発の研究者が引っ張りだこというお話をしましたが、電動化に関する部署と商品開発の資源の流動はすでに始まっているそうです。「危機感はあり、新たなビジネスモデルを模索する方向に行っている」と関係者は語ります。

ただ、電動化が進めば機械的な部分がなくなるのか……そうではないようです。エンジンでもモーターでも、タイヤまで動力を伝えるにはシャフト、ギアなどは必要である。となると、こうした機械部品には、例えば騒音を出さないために部品の精度を高めたり、部品を振動から守る仕組みなど、高度なシステム設計が重要になって来る、と関係者は話していました。こうした技術の研鑽が雇用の問題を解決するカギと言えるかも知れません。

「雇用の問題を一気にラジカルに解決すると、非常に危険なことが起きて来る。例えば内燃機関の効率化を追求するとか、国民の行動変容を促すとか、いろいろなことをやらなければいけない。2050年がいきなり来るみたいな議論は危険だ」(経済同友会・桜田謙悟代表幹事)

「カーボンニュートラルをする際に、いろいろな産業構造が変わる。要らない部品も出て来る、新しい部品も必要になって来る。これは仕方がないと思う、必然的に生まれる変化である」(日本商工会議所・三村明夫会頭)

経済界からは雇用の影響について、こんな声がありました。

日産リーフの床面に敷き詰められたバッテリー

電動化の動きは欧米だけでなく、中国も大変な脅威です。しかし、産業構造の変化は必然としながらも、変化のスピードは無理のないものであるべきでしょう。

ちなみに私自身は正直、エンジンを動かすクルマにはまだまだ魅力があり、環境面もやり方次第で改善の余地はあると感じている1人です。エンジンの高効率化への努力は続いています。

一方、雇用に関してはこんな観点から懸念する声もあります。

「カーボンニュートラルを実現するためには、エネルギー政策と産業政策をセットで考えることが必要。乗り越えるべき壁はたくさんある。多くの産業が変化を迫られる」

日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)の、先月(3月)の記者会見での発言です。

先の小欄では「Well to Wheel(井戸から車輪へ)」という言葉を紹介しました。クルマの製造段階からクルマを動かすまでを意味しますが、自動車業界で一歩進めてライフ・サイクル・アセスメント(LCA)という言葉が出て来ました。クルマの材料開発、車両開発・製造から車両の廃棄に至るまでを示すものです。豊田会長は、この長い間に排出される二酸化炭素を問題視しているわけです。

エンジンも高効率化の工夫は続く(トヨタ)

「すべての過程の二酸化炭素をカウントするやり方で考えると、同じクルマでもつくる国のエネルギーのあり方で二酸化炭素の値が変わって来る。日本は化石燃料を使った火力発電比率が現在75%と非常に高く、コストも非常に高い」

「これから先は二酸化炭素排出の少ないエネルギーでつくれる国にシフトして行こうという動きが出て来る可能性がある。エネルギーのグリーン化が進まなければ、日本から輸出しているクルマは使えないということになる」(以上、豊田会長)

EU=ヨーロッパ連合では、二酸化炭素排出量が多い国からの輸入品に関税をかけることが検討されているそうです。つまり二酸化炭素の排出が少ない電気でないと、日本でクルマの製造は圧倒的に不利になる……日本自動車工業会ではこうした理屈で、輸出獲得で稼いでいる外貨15兆円は限りなくゼロに近づき、自動車業界で働くおよそ550万人のうち、70万人~100万人の雇用に影響が出るという試算を明らかにしました。

結局、雇用とエネルギー政策は切っても切れない関係にあるというのが、日本自動車工業会の言い分です。例えば、トヨタではこれまで「石にかじりついてでも」という表現で、国内生産300万台の体制を死守して来ているわけですが、豊田会長のこうした発言からは、国に対して堪忍袋の緒が切れかかっている……そんな思いがにじみます。

大排気量エンジン車の行く末は?(日産・GT-R)

こうしてみると、実はクルマの電動化は技術面だけでなく、壮大な“外交ゲーム”という姿が浮かびあがって来ます。地球温暖化に対する環境規制、その1つの方策がクルマの電動化です。世界では電動化=電気自動車という流れが確かにあります。例えばイギリスでは2030年までに、フランスでは2040年までにディーゼル車とガソリン車の新車販売を禁止する計画を打ち出しています。

しかし、その背景にあるのはディーゼル車排出規制の不正問題を起こし、エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド技術では日本に勝てないヨーロッパ勢の逆襲、いわばゲームチェンジではないか……。

ヨーロッパは量産自動車発祥の地でもあります。そのプライドのなせる業かも知れません。そこにはハイブリッド車を排除する動きも少なくありません。豊田会長の発言はこうした動きへの抵抗にも見えて来るわけです。

日本自動車工業会・豊田章男会長(トヨタ自動車社長)の記者会見(オンライン画面から)

クルマの発達に際し、歴史上、大きな影響を及ぼした法律がいくつかあります。例えば「赤旗法」。これは自動車が発明されて間もない19世紀後半にイギリスで施行された法律で、郊外で時速6km、市街地で時速3kmの速度制限を設けた上、自動車は運転手と機関員、車両の55m前方に歩く人員がいないと動かせないというものでした。

車両の前を歩く人員は赤い旗を持つことから、「赤旗法」と呼ばれました。人員は歩く速度を守り、騎手や馬に自動車の接近を予告しました。歩行者や馬車の安全に配慮するというものでしたが、自動車産業の発達がドイツやフランスに比べて大幅に遅れる結果となり、1896年に廃止されています。

また、マスキー法という法律もありました。正式には「大気浄化法改正法」です。大気汚染が世界的に社会問題化するなか、1970年にアメリカが制定したものです。当時、上院議員だったエドムンド・マスキー氏の提案によることから、このような通称がつけられました。

自動車の排出ガス中の一酸化炭素、炭化水素の量を現行の10分の1以下にするという厳しいものでした。法律そのものはアメリカの当時のビッグ3(GM・フォード・クライスラー)の反発もあり、紆余曲折をたどりましたが、その規制を世界でいち早くクリアしたのが日本のホンダでした。

軽自動車のエンジン 軽にも今後EV化の波が押し寄せるのか?(スズキ・ハスラー)

クルマの電動化の動き、環境規制は今後、どんな道をたどるのでしょうか。歴史は繰り返すのか、乗り越えて行くのか……あるいは高いハードルで「掛け声倒れ」に終わってしまうのか。

そして、技術面、法律面、政治面、外交面……複雑に絡み合った糸をどう解きほぐし、未来へと導いて行くのか。「2050年カーボンニュートラル」までのおよそ30年間は、まさにそれが問われる期間であると言えるでしょう。(了)

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