心に残る船外活動……野口聡一宇宙飛行士の帰国後記者会見
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年7月20日 17時20分
「報道部畑中デスクの独り言」(第256回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、宇宙飛行士・野口聡一さんの帰国後記者会見について—
国際宇宙ステーションに約半年間滞在し、日本に一時帰国した宇宙飛行士の野口聡一さんが7月9日午後、記者会見に臨みました。
野口さんが帰国したのは先月(6月)でしたが、新型コロナウイルス感染対策として2週間の隔離生活を送りました。「宇宙ステーションは制約や危険が多い、ストレスに満ちた生活かと思っていたが、むしろ地上の方が大変だ」……野口さんは率直な感想を語りました。
宇宙の長期滞在は「究極の隔離生活」ですが、宇宙ではそうした地球の状況を「どことなくリアリティがない感じで見ていた」と言います。
記者会見の場所は東京・日本橋のイベントスペース。開放的な会場で、髪をさっぱりと整えた野口さんは「何でも聞いてくれ」という悠然とした表情。会見は主に宇宙の“民営化”への期待、船外活動に関心が集まりました。そのなかで印象に残ったのは船外活動の話です。
「私にとって4回目の船外活動だったが、いちばん過酷だった。困難な状況に自分たちの工夫と、地上との連携で厳しい状況を乗り切った」
野口さんはこのように振り返りました。
今回の船外活動の目的は、宇宙ステーションの新たな電源となる新型太陽電池パネルの土台の取り付けでした。いままで何もなかった部分に土台をつくるわけですから、まさに未踏の作業です。
「フレームの部分は当初設計していた通りの作業では完成しなかった」
船外活動中に、地上と解決策を模索しながらの作業だったことがうかがえます。その上で「地上で訓練していた以上の力、トルクを出して何とか組み付けられた」と満足そうに語りました。
「宇宙ステーションの端の端まで行って、本当にこれまで見たことのないような景色を見ることができた。非常に心に残る体験だった」
まさに、実際に経験した人ならではの発言だと思います。見たことのない……その具体的な景色については、私も息をのみました。
「サッカー場ぐらいある大きな宇宙ステーションのいちばん端まで行って、手すりのないところまで行った。目の前に人工的なものが何もない景色というのは……夜になるとヘッドライトをつけていても何も返って来ない。自分と下界というのか、自分の外の世界との唯一の接点が指先だけで、目の前は真っ暗、音もない。外とのつながりが指先だけという体験は、これまでにない精神世界の外縁まで押し出されたような体験だった」
宇宙ステーションの外はまさに真空……野口さんは以前、ニッポン放送の番組で船外を「死の世界」と表現したことがありました。「手に伝わる感覚で“死の世界”がわかる。そのものが臨死体験」とも話していましたが、今回はそれをも超える体験だったのではないでしょうか。
船外活動では宇宙ステーションの手すりや外壁に多くの穴……いわゆる「宇宙ゴミ」の衝突によってできた跡があったことも明かされました。相棒の飛行士の手袋に傷がつき、作業が一部変更されましたが、その傷は衝突痕に触ってしまったことでできた可能性があるということです。
いずれにせよ、私がもしそこにいたら、おそらく腰がすくんでしまうでしょう。そうした景色を冷静に見られる宇宙飛行士の胆力には、改めて敬意を表します。
一方、宇宙の“民営化”について野口さんは、今回のクルードラゴン運用初号機の成功で「まさに新しい時代に入った」と語ります。2021年秋には、クルードラゴンによる民間人のみの宇宙飛行が発表されている他、ブルーオリジン、ヴァージン・ギャラクティックといった新たな民間企業が宇宙旅行の参入計画を立てています。
そうした時代になると、宇宙飛行士の役割も変わって来るのでしょう。月や火星の探査に向けて宇宙実験や宇宙利用のオペレーターを担う業務と、民間人をサポートして行く業務……野口さんはこれをゴルフの「ツアープロ」と「レッスンプロ」に喩え、そのような二極化が進んで行くという見通しを示しました。
その上で野口さんは、「いままでやっていない、できれば違う宇宙船で、再び地球の重力を振り切って外に出て行けるといい」と、今後の飛行への意欲を見せました。
野口さんはこれでスペースシャトル、ソユーズ、クルードラゴンという3つの手段で宇宙から地球に帰還したことになります。これは世界初ということで、会見の最後にはギネスの登録証明も披露されました。
「有人宇宙船を持っていない日本の宇宙飛行士が達成したのは、本当に調整能力、外交能力というか、JAXAの皆さんのいろいろな調整のたまものだと思う」と話しました。
ニッポン放送では野口さんへの単独インタビューも行いました。記者会見の話を“深掘り”し、別の角度からのお話をうかがいましたが、そのもようについては、次回の小欄でお伝えすることにいたします。(了)
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