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EVだけじゃない! カーボンニュートラルに向けた秘策

ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年9月16日 17時20分

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「報道部畑中デスクの独り言」(第264回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、カーボンニュートラルに向けた秘策について—

日産がタッグを組むエンビジョンAESC社の電池工場(日産自動車提供)

前回の小欄ではクルマの電動化、特にEV=電気自動車がもたらすさまざまな可能性についてお伝えしました。一方で、日本国内ではこんな声も聞かれます。

「カーボンニュートラルにおいて、私たちの敵は炭素であり、内燃機関ではない。一部の政治家からは、すべてを電気自動車にすればよいという声を聞くこともあるが、それは違うと思う」

トヨタ自動車社長であり、日本自動車工業会の会長でもある豊田章男氏は今月(9月)9日、オンライン記者会見でこのように語りました。ここで言う「一部の政治家」が誰を指すのかは明らかにしていませんが、来たる自民党総裁選挙に向けた発言である……そんな見方も出ています。

これまでも小欄では「クルマの電動化」についてお伝えしていますが、そもそも「クルマの電動化」というのは解釈があいまいです。EV=電気自動車でなければ電動車にあらず、そんな考えもあれば、電気の仕掛けがあるなら電動車だという解釈もあります。

EU=ヨーロッパ連合は2035年までに、ガソリン・ディーゼル車の新車販売を禁止すると打ち出しました。これはまさに前者の動きで、ヨーロッパを中心にいまはカーボンニュートラル、温室効果ガスゼロに向けて、EV化への動きが加速している状況です。

例えば、ドイツではメルセデス・ベンツが「2030年にもすべての新型車をEVに」、BMWは「2030年に新型車の半分をEVに」、フォルクスワーゲンは「2030年までにヨーロッパ市場の新型車の60%をEVに」という目標を掲げています。

こうした流れはエンジンとバッテリーを併用し、コンセントによる充電機能を持たないハイブリッド車を排除しているようにも見えます。日本はハイブリッド車に強みを持つため、「日本つぶし」、欧米によるルール・チェンジという指摘も出ています。

そうしたこともあってハイブリッド車、俗にHVとも呼ばれますが、最近は電動車両の1つであることをアピールするため、「HEV」と、電気を示す「E」を加えるメーカーも出て来ました。

オンラインで開かれた日本自動車工業会の記者会見(9月9日)

ちなみに日本の自動車メーカーは、トヨタ自動車が「2030年にハイブリッド車を含む電動車の販売を800万台にする。そのうち200万台をEVとFCV=燃料電池自動車とする」。ホンダは「2040年に世界市場のすべての新型車をEV、もしくはFCVにする」という目標です。ドイツのメーカーと比べますと、やや温度差が感じられます。EV化の流れのなかで、別のアプローチも出て来るわけです。

「日産はEVとゼロ・エミッションの社会の構築に向けた取り組みを行って来たパイオニアだ」(日産自動車・内田誠社長)

日産は、国内ではバッテリーのみで走る電気自動車のトップランナーを自負します。海外でもイギリスで新たな電気自動車・バッテリー専用の工場建設計画を明らかにしました。工場で使われる電気は、再生可能エネルギーでつくられたものになります。日産では建設に日本円でおよそ1500億円を投入すると明らかにしています。

一方で日産は、「2030年代の初めまでに主要市場すべての新型車を電動車」とする目標を掲げています。この電動車にはハイブリッド車も含まれています。

日産のハイブリッド車は「e-POWER」と呼ばれます。日産はこれを「新しい形の電気自動車」と言っていましたが、その実はエンジンで発電した電気でモーターを動かし、車輪を回すというハイブリッド車の一種で、シリーズハイブリッドと呼ばれます。

エンジンはあくまでも発電用ですから、発電した電気をバッテリーにためることができれば、エンジンの回転は路面や車輪の負荷の状況には左右されません。つまり、理屈の上では、制御によってエンジンを最も効率のいい回転数に維持することができ、それは二酸化炭素の減少につながります。

効率と言いますと、エンジンそのものの改良も進んでいます。これは日産だけではありません。エンジンの熱効率はこれまで20~30%ぐらいでしたが、最近は40%も珍しくなく、50%を目指す動きも出ています。まだまだ伸びしろがあるというわけです。

電気自動車とハイブリッド車の二酸化炭素排出量の比較(トヨタ自動車資料から)

さらには、エンジンに使う燃料の分野でも二酸化炭素を出さない水素、相対的に二酸化炭素の排出量をプラスマイナスゼロにする、「イーフューエル」と呼ばれる合成燃料の研究が進んでいます。

一方で、バッテリーだけで動く電気自動車=EVは、それ自体は排出ガスを出しませんので、確かに二酸化炭素はゼロです。しかし、バッテリーをつくる際、充電をする際に発生する電気はどうやってつくられるのか……原子力の場合もあれば、再生可能エネルギーの場合もあります。火力で発電した電気の場合は、相当な量の二酸化炭素が発生することになります。

その火力発電も石油、石炭、天然ガスで二酸化炭素の排出量も違って来ます。製造や廃棄の過程全体で見た場合、発電の仕方次第ではハイブリッド車の方が、電気自動車よりも二酸化炭素を出さないという可能性もあるわけです。

「100年間ずっと、ガソリンを入れて車を動かすということで移動を経験して来た。ではきょうからガソリンを入れずに電気自動車で、というわけにもいかないので、そこへのステップということを考えている」

日産の星野朝子副社長は7月の新車発表会で、ハイブリッド車の位置づけについて、このように話していました。

続いて、バッテリーです。以前はリン酸鉄を使ったリチウムイオン電池の話をしましたが、バッテリーの構造についても技術の研鑽が続いています。

トヨタ自動車が7月に開いた新型「アクア」発表会では、新型電池の搭載が明らかになりました。この新型電池、「バイポーラ型」と呼ばれるものです。

「バイポーラ」……「バイ」は2、“2つ”という意味です。「ポーラ」は北極星のことを「ポーラー・スター」と言うように、「極」のことを指します。つまり「バイポーラ」とは2つの極、「双極性」という意味を持ちます。

バイポーラ型電池の構造 従来型に比べてシンプルであることがわかる(トヨタ自動車資料から)

バッテリー、電池というものはご存知の通り、正極と負極、プラスとマイナスがあります。バッテリーをつくる際、このプラス、マイナスの各極は集電体の基板=板に塗られます。これまで集電体には1枚につき、1つの極しか塗られていませんでした。

これに対し、新しいバッテリーは1枚の集電体の表裏両側に、プラス・マイナスそれぞれを塗ることができたのです。1枚にプラス・マイナス両方の極、「双極性」と言われる所以です。

さらに、これまで電極を通して多くの経路を通っていた電流もシンプルになり、外槽缶など部品点数の削減につながりました。その分、コンパクトなバッテリーになる……同じ性能ならより小さく、同じ大きさならより高性能なバッテリーがつくれるようになりました。日本という国を「縮みの文化」と称する人もいますが、こうした小型化は、いかにも日本らしい技術だと思います。

ちなみに、新型車のバッテリーに使っている材料はリチウムイオンではなく、性能では一歩譲るとされたニッケル水素ですが、今回の技術によって、性能が大幅に向上しました。

トヨタでは今回、ハイブリッド車用のバッテリーとしていますが、技術的には電気自動車などへの応用も可能だということです。カーボンニュートラルにも大きく貢献する技術になるでしょう。

さらに、クルマをつくる工場にも改善のメスは入り続けています。日産の工場については先にお伝えしましたが、工場の中身に細かい工夫を施しているところもあります。

塗装工程を省く工夫(トヨタ自動車資料から)

「カーボンニュートラルはモノづくりを根本から見直す機会を与えてくれている」

6月に行われた、トヨタ自動車の技術説明会での1コマです。最近、トヨタはこの種の説明会を頻繁に開いています。この説明会では、クルマのボディの色を塗る「塗装」について、静電気と回転という現象を活用して塗料を少なくしたり、プレス成型と塗装を金型のなかで行うことによって、塗装の工程そのものをなくす技術の開発を進めていることが明らかにされました。

クルマをつくる1つ1つの工程も見直し、効率化することによって、電力を減らす……これまたカーボンニュートラルにつながって行くわけです。

クルマの電動化と言いますと、いつまでにEV化するか、バッテリー開発にどれだけお金をかけるか、バッテリーをどう安くできるか、いかに大量に調達するか、あるいは充電インフラをどのように整備するかといった、「ダイナミズム」で語られることが多いです。トヨタも今月(9月)、電動化車両に搭載する新たな電池の開発に向けて、2030年までに1兆5000億円を投資する方針を明らかにしました。

こうした動きはもちろん重要です。しかし、技術を磨いて行くこと、あるいは細かい改良も、これまた、カーボンニュートラルという「ゴール」に向けた積み重ねであると感じます。それは日本の最も得意とするところではないでしょうか。

クルマの電動化、EV化は本当にさまざまな視点があります。どれも非常に大事な要素ですし、これらをわかりやすく伝えて行くことも、私どもメディアの役目であると感じています。(了)

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