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デジタル庁発足から1ヵ月あまり デジタル社会構築への課題

ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年10月14日 17時20分

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「報道部畑中デスクの独り言」(第267回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、デジタル庁について—

マイナンバーカードを健康保険証として活用 デモンストレーションに参加する牧島大臣(10月10日 デジタル庁提供)

「思い切ってデジタル化を進めなければ、日本を変えることはできない。わが国全体をつくり替えるぐらいの気持ちで知恵を絞っていただきたい」

9月1日、デジタル庁がスタートし、菅総理大臣(当時)が決意を述べました。菅内閣肝いりの新しい省庁ですが、発足もつかの間、菅総理が自民党総裁選の出馬を見送ったことで、政界の空気が一変。デジタル庁の存在はややわきに追いやられた印象があります。

菅内閣の評価はそれぞれですが、このデジタル庁を内閣発足1年でスタートにこぎつけたことは、菅さんならではのスピードであったと思います。

「政治家の人生は、その成し得た結果を歴史という法廷において裁かれることでのみ、評価される」……かの中曽根康弘元総理大臣の言葉です。菅内閣は将来、どのように裁かれ、評価されるのか。そのカギの1つがデジタル庁だと思います。

デジタル庁の職員はおよそ600人、その3割あまりがIT企業の社員をはじめとする民間からの起用です。専門の人材を期待しての陣容となります。10月1日からは民間人材の通年採用=1年を通しての採用も始まりました。そのなかには補助金申請サービスのプロジェクトを担う人材の募集も含まれています。事務方トップのデジタル監には外資系コンサルタント、一橋大学名誉教授を務めた石倉洋子氏が就任しました。

9月1日のデジタル庁発足式 多くのメディアが集まった

一方、岸田内閣発足によって、トップのデジタル担当大臣も変わりました。平井卓也前大臣は退任時の記者会見で、「いろいろなものが全部合わさってできた、いわば奇跡的にできた役所」と振り返りました。その上で、「何のためにデジタル庁が存在するのか。これから戦わなければいけない組織。いままでのやり方を否定するところからスタートする役所だ」と、後任の牧島かれん大臣に重責を託しました。

また10月10日には、「デジタルの日」のイベントが開かれました。

「デジタルの実情を定期的に振り返り、体験し、見直すきっかけとしたい」(牧島大臣)

「実感してもらうのが大事。新しいことを何か始めていただきたい」(石倉デジタル監)

デジタルとは2進法……1と0を使って情報処理されるということで、1、0、1、0……10月10日と11日が今年(2021年)、「デジタルの日」となりました。

イベントはデジタルらしく、オンラインによって実施。行政の分野から音楽、℮スポーツの紹介など多岐にわたりました。テレワークのシステム開発やデジタル学習教材を推進した学校への表彰が行われるなど、自治体や民間の地道なデジタル化への取り組みも紹介されていました。

私が興味深かったのは、デジタル庁の職員自らの体験です。警察署へ車の車庫証明の手続きに行ったところ、90分以上かかったという話が明かされました。行政手続き効率化の必要性を職員も肌で感じたことと思います。

平井前デジタル大臣 退任前の記者会見(10月4日撮影)

デジタル庁ではまず、行政のオンライン化に主眼が置かれます。当面の予定では、2021年の年末までに新型コロナウイルスのワクチン接種履歴を証明する「ワクチンパスポート」を電子化します。この電子化に関する意見募集も進められています。

自治体に関連するところでは、子育てや介護といった暮らしに密接する31の手続きをオンライン化すること。自治体によってバラバラになっている情報システムは、2025年度までに統一されるということです。

先週(10月7日夜)、首都圏を最大震度5強の地震が襲いましたが、防災分野では現在、紙でやり取りされている防災情報をデータ化し、例えば道路の通行止めや、避難場所の状況などの情報を増やすことも目指しているということです。

さまざまなことが効率化される、人々の生活が便利になる……こうしたことを進めるために欠かせないものがあります。それは「ハンコ社会からの脱却」です。

「デジタル化する際にも、本人を確認することが必要な場合がある。(そのときは)印鑑の代わりに電子署名という手段を使う。“ハンコを押すのが当然”という人々の考えが変わることが重要だ」

『良いデジタル化 悪いデジタル化』(日本経済新聞出版)の著書を持つ一橋大学名誉教授で経済学者の野口悠紀雄さんは、このように語ります。

デジタル庁ではこの電子署名を可能にすべく、マイナンバーカードの普及を最優先にしているようです。10月20日からはマイナンバーカードを健康保険証として利用できる運用が始まります。

「デジタルの日」イベントであいさつする牧島デジタル大臣(YouTube画面から)

カードの用途は徐々に拡大して行き、計画では2022年度中には預金口座をマイナンバーとともに事前登録してもらう制度も始めます。これによって公的給付金を迅速に給付できるようにするということです。さらに、2024年度末までにはマイナンバーカードと運転免許証を一体化します。

ただ、こうしたいわゆる「紐づけ」については、自分の資産状況を国に把握されるのは嫌だという考えも根強くあります。個人情報が守られるのかという懸念も出て来ます。

デジタル社会、とりわけマイナンバーカードの普及には、システムの仕組み以前に大事な課題がある……それは政府=国と国民との信頼関係です。

「国民が国に対して信頼を持つことが、マイナンバーカードが拡がる絶対に必要な条件だ。国に対する信頼は簡単に形成できるものではない。国民が“国は悪いことをしない”という信頼を持てるかどうか……いちばん基本的な問題だ」(野口悠紀雄さん)

最近ではデジタル庁をめぐる企業の高額接待問題が明らかになり、デジタル審議官が懲戒処分を受けました。デジタル庁ではコンプライアンス委員会を設けて、入札制度などに関するルールづくりを進めていますが、考えてみますと、官僚と民間の“混成部隊”であるデジタル庁は、両者の“化学変化”が期待される一方、官民の癒着の温床になる可能性も秘めているわけです。

「デジタルの日」イベント テーマは多岐にわたった(YouTube画面から)

接待なのか、意見交換なのか……官僚の意識と民間の意識も違います。また、官僚のなかも各省庁の“混成部隊”……国益ではなく、省益=省庁の利益という狭い考え方が横行する可能性もあります。仮に省庁間の醜い綱引きが露呈すれば、国民の信頼とは程遠いものになって行きます。

どんなに優れたシステムが構築されようとも、結局は人を介するもの。国と国民との「信頼関係」がないと、デジタル化は「絵に描いた餅」に帰することになるでしょう。先のオンラインイベントについては、デジタル庁の職員も紹介されていました。若く高い志を持っている人が多いと感じましたが、ぜひ初心を忘れずにお願いしたいものです。

海外では電子政府で知られている国として、エストニアがあります。人口130万人ほどの小国ですが、99%の行政申請がオンライン化され、住民登録、年金の申請、自動車登録や国民健康保険の各種手続き、運転免許の申請・更新、出生届けの提出、保育園・学校への入学申請、病院の診療履歴などができるそうです。

エストニアという国は「バルト3国」と呼ばれる国の1つ。もともと国が非常事態に陥ったときにも行政が機能するように、このような電子政府が構築されたということですね。この非常事態、もともとはロシアの侵攻を想定したものですが、今回、コロナ禍でも行政は機能したということです。

石倉洋子デジタル監(YouTube画面から)

日本は「平和ボケ」と言われて久しいですが、周辺国との緊張が高まりつつあります。そうした意味でもデジタル化は急務と言えましょう。エストニアに学ぶところは多々あると思います。

10月4日、岸田総理大臣は就任の記者会見で、デジタル庁について「これからしっかり大きく花開かせなくてはいけない」と決意を示し、その上で「いつまでにどうこうというものではなく、未来に向けてしっかり継続して行く努力をしなくてはいけない」と、深遠な取り組みを強調しました。

司令塔的な機能を持つことになったと言われるデジタル庁。これをどう育てて行くのか……それは日本が国としてひと皮むけるかどうかの試金石になって来ると思います。(了)

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