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中国を刺激せず台湾をどのように巻き込むか 米主導「IPEF」

ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2022年5月19日 18時45分

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アジア・パシフィック・イニシアティブ主任研究員の相良祥之が5月19日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。アメリカ主導の新たな経済圏構想である「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」について解説した。

2019年1月5日、総統府で、海外メディアとの会見に応じる蔡英文総統=写真提供:産経新聞社

アメリカが新たな経済枠組み「IPEF」発足へ 日本も参加

アメリカのレモンド商務長官は5月17日の記者会見で、バイデン大統領が22日からの日本訪問に合わせ、アメリカ主導の新たな経済圏構想である「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の発足を表明すると明らかにした。日本も枠組みに参加し、近く具体化作業に入ると見られる。

TPPから関税枠組みを抜いたものがIPEF

飯田)メールやツイッターでもご意見をいただいています。座間市の“たかし”さんから、「TPPとIPEFの違いがわかりません。違いを教えてください」というご質問がありました。いろいろな名前が出てきているところですが、どうみればいいのでしょうか?

相良)環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)については、トランプ政権のときにアメリカが離脱を表明してしまいましたので、いまはアメリカを抜いた11ヵ国で、TPP11としてやっています。TPPには2つ要素があり、1つは関税枠組みです。関税を減らして貿易を増やしましょう、アメリカの市場を開きましょうというものです。もう1つは、国々でルールをつくりましょうという要素がありました。TPPから関税枠組みを抜いたものが、今回のIPEFになるのだと思います。ですので、ルールのところだけを話し合うということになりますね。

日本としてはアメリカにTPPに戻ってきて欲しい

飯田)関税の部分はアメリカ国内でも揉めてしまうからということでしょうか?

相良)そうですね。議会を通していくときに、関税を減らすことへの抵抗が大きいところはあります。バイデン政権も選挙を控えているので、中間選挙へ向けて、なかなか踏み込みにくい。ただ、バイデンさんが副大統領のときに、オバマ政権でもともと行っていたのがTPPなので、日本としてはやはりTPPに帰ってきて欲しい。そのために関税交渉など、ものすごくタフな交渉もしたので、日本としてはTPPに戻ってきて欲しいということは引き続き言い続けると思います。

IPEFの発表を米商務省が行った理由

飯田)TPP交渉のときにカウンターとしてやっていたのは、米通商代表部(USTR)だったと思うのですが、今回は商務省が発表していますよね。それは関税が入る、入らないということが大きいのでしょうか?

相良)それもあると思います。USTRも日本に来たとき、名前が出る前にこのような枠組みを考えているという話はしていたのですが、いまはサプライチェーン、貿易、インフラ開発、税についてのルールをつくっていくということになっているので、商務省がリードしていく形になるのではないでしょうか。

米中競争の1つの最前線である東南アジアやインドを取り組むためにひねり出したIPEF

飯田)いろいろな国々を巻き込むという話で、東南アジアなども視野に入れるという報道もありますが、実際に進んでいるのでしょうか?

相良)バイデン政権は、実は東南アジアもかなり重視していて、政権幹部が実際に東南アジアを訪れて話をしており、米中競争の1つの最前線が東南アジアやインドになってきています。ここを取り込みつつ、どのような枠組みがつくれるのかということで捻り出してきたのが、IPEFなのだと思います。

あいさつする中国の習近平国家副主席(当時、右)と、バイデン米副大統領(当時)=2011年8月19日、北京市内(共同) 写真提供:共同通信社

サプライチェーンを強靭にするための枠組みとしての意義 ~東南アジア諸国にとってはルールだけを押し付けられることに

飯田)東南アジアの国々からすれば、ものを輸出したい。そこで関税の話が抜かれてしまうとなると、魅力はなくなってしまいますか?

相良)そうですよね。もともとTPP自体も、シンガポールや東南アジアが主導して枠組みをつくろうということで、日本やアメリカが入ってきたのです。東南アジア諸国の人たちにとってみれば、アメリカの市場開放がなく、ルールだけを押し付けられて、税や汚職の話はどうなのだと思うのではないでしょうか。

飯田)汚職に関してはどうだろうとも思うのですが、税金に関して、特に関税に関してとなると、東南アジアの産業が弱い国からすれば、自国の産業を保護したい思いもありますよね?

相良)その意味で言うと、IPEFに意義があるならば、サプライチェーンについての枠組みをつくっていくということです。有事には在庫や生産能力で情報を共有していこうという話があります。たとえば今回のコロナ禍で足りなくなったマスクや、次のパンデミックが起きたときに有効なワクチンや医薬品をつくる際、一緒に治験や臨床試験をやっていくということにもつながるかも知れません。サプライチェーンを強靭にするための枠組みという意味では、意義があるのではないかと思います。

台湾をどのように巻き込めるかが重要になる ~半導体が重要な要素に

飯田)サプライチェーンという話では、半導体が連想されますが、その辺りも東南アジアの国々を巻き込みながら、強靭なものをつくっていくことになりますか?

相良)サプライチェーンの強靭化については、岸田政権の看板政策である経済安全保障推進法が国会でも通ったので、これを強くしていかなければいけない。半導体が大事だということになるのですが、そうなると本当に重要なのは、やはり台湾になります。「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」も、台湾をどのように入れ込むのかという話が今後の論点になってきています。IPEFでも台湾をどのように巻き込めるかというところが、緩い連携を目指しているようなので、ぜひ議論していただきたいなと思います。

日本での表明に台湾を呼ぶことは難しい

飯田)今回は東京でこの話も含めて表明する。そこに日米豪印クアッド首脳会合もあるということですが、なかなかオフィシャルの場に台湾を呼ぶということは難しいですか?

相良)そうですね。やはりオフィシャルでは難しいのですが、もともとIPEFが緩くなったというところを活かしていくことは重要かなと思います。

緩く台湾も入れるような形をつくれば、サプライチェーンの強靭化にもつながる ~中国を見つつ、どのようにして台湾を入れるか

飯田)ある意味、TPPに比べると緩い枠組みなので、台湾を巻き込みやすいのではないかという話があります。しかし、公式な話になればなるほど、台湾を巻き込みにくくなるというところはありますか?

相良)そうですね。中国がどうしても横槍を入れてきますので、かなり慎重にやっているのだと思います。CPTPPの方にも台湾は加盟申請していますが、中国がチリや東南アジアの国々などに1つずつ声をかけて、賛成しないように働きかけているのではないかという話もあります。

飯田)そうですね。

相良)緩い枠組みなのですが、そのなかでどのように台湾を巻き込むのかが重要になってきます。東南アジアのなかでも中国との付き合い方には差があるので、あまり中国を刺激せず、枠組みとしては緩く台湾も入れるような形でつくっていければ、サプライチェーンの強靭化にもつながると思いますし、上手い形でまとまると思います。

飯田)貿易に関する国際的な枠組みで考えると、世界貿易機関(WTO)への中国、台湾の加盟があります。確か同時加盟の形で妥結させたように記憶しています。そのようなところでも単独で入れるとハレーションが、ということになってくるのでしょうか?

相良)まずはCPTPPをどのように進めるのかということです。イギリスがCPTPPに入りたいと言ってくれているので、イギリスが入ってくれれば中国、台湾の加盟交渉をどのように進めるのか、ゲームがやりやすくはなります。ただ、IPEFは緩い形ではあるので、中国も入りたいと言ってきたときにどうするのかなど、いろいろと論点はあると思います。

習近平氏、清華大学を視察(北京=新華社記者/鞠鵬)= 2021(令和3)年4月20日 新華社/共同通信イメージズ 写真提供:共同通信社

中国を気にする韓国の立場

飯田)韓国の安保室第1次長などは、「中国を狙い撃ちにしているわけではない」というようなことを、IPEFに関しては言っています。ただ、アメリカの意向としては当然、中国を念頭に置きながらのことです。

相良)TPPの構想は、インド太平洋において「ルールをどのように自由で開かれた形でつくるのか」ということが、もともとの発想です。韓国の立場もわかりますが、政権も変わりましたし、いい形で協力できればなと思います。

アメリカのリソースを東アジアに向けさせることが重要

飯田)いまウクライナ情勢があり、世界の対応もかかりきりになっているなかで、アメリカもどこまで東アジアにリソースを割くのか。軍事的なところも含め、ウクライナ情勢が始まってから、その辺りの力関係も変わってきていますか?

相良)そのようにさせないということを、日本がきちんと打ち込んでいくことが重要だと思っています。アメリカも軍事的には、主要な競争相手は中国だというところはブレていません。戦略的にそうなのであれば、ここが重要なのだというところを日本から打ち込んでいく。それを続けていくことが非常に重要です。

アジアをまとめるのが日本の役割

飯田)ゴールデンウィークに岸田総理大臣は東南アジア各国を訪問して、そのあとにイタリアやイギリスへ行きました。この辺りを回ったのは、その打ち込みの一環でもあるのでしょうか?

相良)まずはやはりウクライナの話があって、それに対してどう連携できるのかというところがあったと思います。G7のなかでもアジアを代表しているのが日本だという側面があるので、アジアの意見を西側にどう打ち込んでいくのかというところで、実は日本の役割はものすごく大きいのです。東南アジアにもいろいろな意見があるので、上手い形でまとめていく役割も日本には期待されているところですね。

日本とアメリカがどのようなオペレーションをつくれるか

飯田)来週はバイデン大統領も日本に来て、クアッド首脳会合も行われます。共同発表の文章に対してもいろいろとリークが出ていますが、中国に対して共同で抑止していくという文言が入るのではないか、という報道もありました。より強い表現が使われる可能性もありますか?

相良)台湾海峡の危機について、ウクライナ情勢に注意が向いてしまい、薄くなってしまっているきらいはあるけれど、危機としては続いています。このリスクに対し、日本として何ができるのか。当然、島嶼防衛というところにも関わってくるので、日本とアメリカがいかにオペレーションをつくっていけるかという踏み込んだ議論は、もっと行うべきだと思います。

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