羽生結弦「引退ではない」 ではプロに転向して何を目指すのか
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2022年7月22日 12時0分

話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、7月19日に記者会見を開き、競技者としての引退とプロ転向を表明したフィギュアスケート・羽生結弦選手にまつわるエピソードを紹介する。

【フィギュアスケート 〈Fantasy on Ice(ファンタジーオンアイス) 2022〉】グランドフィナーレでピースする羽生結弦=2022年5月27日 幕張イベントホール 写真提供:産経新聞社
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『これからさらに自分が努力したい方向だったりとか自分が理想としているフィギュアスケートっていう形だったりとか、そういったものを追い求めるのは競技会じゃなくてもできるなって。むしろ競技会じゃないところのほうがみなさんに見て頂けるんじゃないかなっていうふうに思ってこういう決断をしました。これから4回転半もふくめて、アスリートらしく頑張っていきたいなと思います』
~『AERA dot.』2022年7月19日配信記事 より(羽生のコメント)
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7月19日に都内で行われた、羽生結弦の「プロ転向会見」。今後は競技会に出場することを止め、プロのスケーターとして活動していきたい、という内容は事前に予想されていました。
しかし、通常のスポーツ選手の引退会見と大きく異なったのは、羽生のコメントが「挑戦はやめない」「4回転半ジャンプ(=4回転アクセル)には引き続き挑んでいく」など、前向きな発言に終始したことです。第一線から退くというよりも「スケートをさらに深く究めたい、だからプロになるんだ」という羽生の思いが伝わってくる会見でした。
フィギュアスケートの有名選手は、競技を引退するとアイスショー出演を主とするプロのスケーターに転向するケースが多く、その後の活動は必然的にショー的な要素を追求するものになっていきます。メダルを目指す「緊張感」からは解放されるわけですが、羽生はそれをよしとしません。会見で羽生はきっぱりと、こう宣言しました。
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『競技会の緊張感が恋しくなることは絶対ないと言い切れます』
『やっぱりみなさんが好きな、みなさんが応援したくなるような羽生結弦ってやっぱり挑戦し続ける姿であったりとか、あの独特な緊張感があったりとか、そういったなかでの演技だと僕は思っているので』
~『AERA dot.』2022年7月19日配信記事 より
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昔と違い、現在はアマチュア選手でもアイスショーに出演し報酬を受け取ることが可能で、羽生も数々のアイスショーに出演、観客を魅了してきました。そのなかで「競技者であり続けるよりも、むしろプロになった方が理想のスケートに近付けるのではないか」という思いが強くなり、今回の決断となったのです。
この点について羽生は、フィギュアスケートの世界では、現役=アマチュア、プロ転向=引退という考え方が当たり前になっているのが不思議だ、と前置きした上で、こう語りました。
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『甲子園の選手が、野球をそこまで頑張っていて、甲子園優勝しました、プロになりました、それが引退かと言われたらそんなことないじゃないですか。僕はそれと同じだと思っていて、むしろここからがスタートで、これからどうやって自分を見せていけるか、頑張っていけるかが大事だと思っていて、そういう意味では、新たなスタートを切ったなと思っています』
~『AERA dot.』2022年7月19日配信記事 より
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フィギュアスケートの場合、アマとプロの大きな違いは「練習の形態」にあります。アマは競技会で高得点を挙げるため、さまざまな技の練習に総合的に取り組まなければなりませんが、プロの場合は、自分が究めたい演技だけに絞って、時間をかけて練習に取り組むことができます。前人未踏の4回転半ジャンプに挑戦し続けてきた羽生は「プロになった方が、より夢の実現に近付ける」と考えたわけです。
この考え方は、「プロ転向=現役引退」という従来の見方にとらわれていると、ちょっと理解しにくいかも知れません。確かに、プロになれば採点競技ならではの緊張感からは解放されます。ですが、自分に厳しい羽生の場合は「これからは気楽に滑ることができる」ではなく、逆なのです。
なぜなら、観る人をつねに満足させ、感動を与えてきたのが羽生結弦というスケーターだから。これからはアイスショーを観に来た観客を、アマ時代よりも高い次元で満足させる演技を披露しなければなりません。羽生にとってプロ転向は、重荷を下ろしたのではなく、むしろ現役時代より高いハードルを設定した、ということに他なりません。
最終的にプロ転向を決めた時期について、羽生は「北京冬季五輪が終わったあと、足首の治療期間中に決断した」と語りました。
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『痛くて滑れなかったので、その期間の中でいろいろと考えたときに、もう別にここのステージにいつまでもいる必要はないかなと思って、よりうまくなりたいって、より強くなりたいって思って、決断をしました』
~『AERA dot.』2022年7月19日配信記事 より
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フィギュアスケートを始めた少年時代に抱いた「よりうまくなりたい」「より強くなりたい」というピュアな思いを、頂点に立ってからも変わらず持ち続けていることが、羽生の滑りを特別なものにしています。「停滞は、表現者にとっての死である」という言葉を体現しているスケーターが羽生結弦なのです。
会見で、五輪2連覇を果たしても満足せず、「より強く、より高く」という理想を追求した原動力は何かと問われた羽生は、こう答えました。
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『それはアスリートだからなのかなと強く思います。現状に満足したことは基本的にないですし、とにかく、うまくなりたいなと思っていました』
『普通に生きている中で、もっと難しいことをやりたいとか、単純に小さい頃だったらもっと褒められたいとか、そういった気持ちだけで頑張ってこれた気がします』
~『AERA dot.』2022年7月19日配信記事 より
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五輪3連覇を目指すなら、本番で跳べるかどうかわからず、跳べたとしても劇的な高得点が入るわけではない4回転半ジャンプに挑戦するのは、正直割に合わない行為です。しかし羽生は安全策を捨て、「夢」に賭けた。「もっと難しいことをやりたい」と思うピュアな自分に、嘘をつきたくなかったからです。リスクを冒さない生き方が主流の時代に尊いと思いますし、だからこそ彼の演技は観る人の胸を打つのです。
羽生がプロ転向にあたって、4回転半ジャンプ以外に“挑戦”を宣言したことがもう1つあります。それは「年齢の壁を破ること」。かつてフィギュアスケート界では、成長できる時期は23歳か24歳ぐらいまでで、その年齢を過ぎるとあとは実力の維持が大変になってくる、と言われていました。
羽生は23歳のときに平昌五輪で連覇を果たし、本人も「そこで引退しようと思っていた」と語ったとおり、それを花道に競技生活を終えるのも1つの選択肢ではありました。しかし北京で4回転半を跳ぶ、と決意し、血の滲むような努力を続けた羽生。北京五輪で夢の実現はできませんでしたが、挑戦を続けたことで見えたものもあります。
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『僕自身は23歳で平昌オリンピックを終えて、それから今の今までジャンプの技術もふくめてかなり成長できたなって思ってるんですね。それは、そのなかでどういう努力をしたらいいかとかどういう工夫をしていけばいいのかとか、そういうことがわかったからこそ今があるんだって思っています。そういう意味で今が一番うまいんじゃないかなって思っています』
~『AERA dot.』2022年7月19日配信記事 より
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挑戦する意欲を捨てない限り、何歳になろうが、人は成長できる……そんなことを改めて教えてくれた羽生に感謝です。
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