ジャパンモビリティショーへ衣替え 自動車見本市のミライ
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年10月5日 17時20分
「報道部畑中デスクの独り言」(第341回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、「ジャパンモビリティショー」について—
今年(2023年)の10月はまだまだ残暑が厳しいと予想されていますが、秋風が心地よくなるころ、自動車業界では2年に一度の風物詩、東京モーターショーの季節がやってきます。
第47回、今回は大きな転機を迎えました。名称が「ジャパンモビリティショー」に変更になったのです。実に59年ぶりの名称変更。昨年(2022年)11月、新名称が正式決定された日本自動車工業会の記者会見で、豊田章男会長(現・トヨタ自動車会長)は意気込みを示していました。
「スタートアップも含めたオールインダストリー(全産業)で、モビリティの未来とオールジャパンの力を示していきたい」
ショーのルーツは1954年に開催された「全日本自動車ショウ」にさかのぼります。ニッポン放送の近く、東京の日比谷公園が会場でした。日本自動車工業会の資料によると、展示車両は267台、ほとんどがトラックなどの商用車やバイクで、乗用車はわずか17台。54万7000人が来場したということです。
1964年には「東京モーターショー」と改名。ショーの会場は後楽園競輪場、晴海の東京国際見本市会場、千葉市の幕張メッセを経て、現在は東京・江東区の東京ビッグサイトとその周辺で行われています。
私が初めて東京モーターショーを見たのは晴海の会場の最後、1987年の第27回。学生のころでした。地方に住んでいた私にとっては、まさに憧れのショーでした。
電子制御のコンセプトカー、クルマがどんどん「走るコンピュータ」になっていく……そんな勢いのある時代でした。帰りは交通の便が悪く、銀座まで歩いたことを思い出します。
高度経済成長、高速化時代、交通事故への安全対策、オイルショック、公害対策……時代によってクルマにはさまざまな課題が突き付けられました。そんななか、東京モーターショーは毎年開催から2年に1度の開催、あるいは乗用車と商用車を分けて実施された時期もありました。
来場者数はバブル景気崩壊直後の1991年、第29回に200万人を超えました。歴史に残る名車が次々と輩出され、俗に「ヴィンテージ・イヤー」と呼ばれたのが1989年ですが、その勢いが残り、200万人の大台を超えたわけです。
しかし、来場者数はこれをピークに減少傾向をたどります。特に大きな転機となったのは2009年の第41回、前年のリーマン・ショックなどの影響で、海外メーカーが軒並み出展を見合わせ、来場者は前回の半分以下となる61万人あまりに激減しました。自動車メーカーの隣にトミカやチョロQ、プレステソフトのブースが場を埋めていたことを思い出します。
もちろん、これらも大切な「自動車関連」ブースですが、各ブースはスカスカで、広い幕張メッセのなかですきま風が吹くような寂しいものでした。
2年後の2011年、第42回から会場は東京ビッグサイトに移動します。未曽有の被害となった東日本大震災があった年でもあり、震災からの復興がキーワードの1つでした。
「東京モーターショー自体が地盤沈下してしまうのではないかという危機感が大変強い。今回、東京に帰ってもう一度盛り上げたい」(日本自動車工業会・志賀俊之会長(日産自動車COO))(当時)
「東日本大震災やタイの大洪水に際し、トヨタにできることは何か。モノづくりとともに地域の人たちと、未来を創造するということ」(トヨタ・豊田章男社長)(当時)
当時は震災だけでなく、円高、高い法人税、自由貿易協定、製造業への派遣禁止、二酸化炭素の削減問題を加えた「六重苦」と言われる課題が自動車業界全体を覆っていました。そんななかで開催されたショーはエコカーが百花繚乱、スマートフォンなど通信分野の連携を模索する展示もありました。
千葉市の幕張から、文字通りの東京開催。幕張に比べてこじんまりとしていましたが、来場者は84万人あまりと持ち直します。
東京ビッグサイトになってからは、「最新技術のショーケース」的な位置づけになったとされる東京モーターショー。2013年の第43回では、究極のエコカーとされる燃料電池自動車が市販前提でお目見え。2015年の第44回には、運転者がステアリングを握らず車両が動くという自動運転技術が目に見える形で現れました。
トレンドが自動運転、電動化、EV=電気自動車へのシフトがより明確になるなか、2017年の第45回にはAI=人工知能の要素が加わります。「語りかけてくるクルマ」が出現し、「クルマを運転すること」から「クルマに乗って何をするのか」……模索が始まりました。
そして、前回・2019年の第46回は出展者のすそ野が広がり、空飛ぶクルマや、月面探査の試作車両も展示されました。さらにCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)という動きのなか、クルマを取り巻くサービスのあり方も重要になってきました。
第46回の会場は東京ビッグサイトに加えて、周辺の「青海エリア」と「有明エリア」で開催。来場者は約130万人。12年ぶりに100万人を超えました。
本来は2019年のモーターショーをはずみにし、自動車業界は東京オリンピック・パラリンピックで日本の最新技術を披露する……そんなシナリオを描いていました。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で、シナリオはいわば“消化不良”に終わります。2021年に予定されていたショーも中止に。今回は4年ぶりの開催となります。
前回持ち直したとはいえ、ここ十数年のモーターショーは来場者の伸び悩みが続いていたのは事実。日本自動車工業会・モビリティショー委員会の長田准委員長(トヨタ自動車執行役員)は、日本としての事情が優先され、魅力がなくなってしまったのではないかと分析します。
海外メーカーから見れば、日本市場で展開する意義が乏しくなったのかも知れません。事実、この十数年で日本市場から撤退した海外メーカーもありました。
今回のジャパンモビリティショーは『乗りたい未来を、探しにいこう!』がテーマ。各社のブースに加えて、未来を紹介する「東京フューチャーツアー」、次世代モビリティの試乗体験、スタートアップ企業の育成企画などが予定されています。燃料電池車の発電のみで会場の電気をまかなうライブステージも用意されるということです。
参加する企業は10月4日時点で過去最高となる475社に上ります。このうち、スタートアップ企業は延べ100社を数え、防災用の高速ドローンや、自動配送ロボットの開発を担う企業も含まれます。中国のEVメーカー、BYDも出展するということです。来場者は100万人を目指します。
世界に目を向けると、アメリカのデトロイト、スイスのジュネーヴ、フランスのパリ、ドイツのフランクフルト、そして東京…世界の5大モーターショーと言われますが、これに中国・上海モーターショーなど新興勢力も加わります。そんななか、ジャパンモビリティショーのあり方について、モビリティショー委員会の長田委員長はこのように語ります。
「ここのところのグローバルなモーターショーは、バッテリーEVを各社がどれだけ持っているかというプレゼンテーション合戦と言ってもよかったのではないか。これは本当にお客様にとって見に行きたいものか……真摯に反省すべきというのがスタートポイントだった。日本がよくなるのだということを、いろいろな世代の方に感じていただくものになればというのが、私たちの意気込みだ」
EVに趨勢が傾きつつある世界の自動車市場へのアンチテーゼにも感じますが、いずれにしてもクルマそのものが夢、あこがれだった時代から、クルマが社会の一部としてどんな位置づけとなっていくのかが問われる時代になったのは疑いないところです。
いわば、クルマの世界を俯瞰するとどのような景色が見えるのか、クルマを使って何ができるのか……ジャパンモビリティショーの一般公開は10月28日~11月5日までとなっています。(了)
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