キッチンカーで「炊き出し」4万食も 「うちは貧乏なのに」息子の疑問に返した言葉
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2023年10月12日 17時20分
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
国道18号・通称「アップルライン」が南北に通る、長野市の長沼地区。一面に広がるりんご畑には赤い実がいくつもなり、所々にある黄色くなった田んぼでは、稲穂が首(こうべ)を垂れて実りの秋を迎えています。
そんなアップルライン沿いに、「炭火焼肉ジンギスカン もんも」というお店があります。
店を切り盛りしているのは、店長の宮腰貴洋さん、副店長の星野良和さんと、その奥様・百代さんの3人。台風の前まで、宮腰さんは近所の日帰り温泉「りんごの湯」で料理長を務めていました。
星野さんご夫妻は、同じ長野市の南部にある信州新町を拠点に、ご当地名物のジンギスカン料理を提供するキッチンカーの店を営んでいたそうです。
なかでも星野良和さんは、阪神・淡路大震災以来、さまざまなボランティアを経験。東日本大震災では、発災直後から日本海側の秋田を経由して宮城県塩釜市に入りました。
いまから4年前の10月13日も、千曲川の堤防が決壊したことを知ると、星野さんはすぐに炊き出しの食材を積み、市内の川沿いの地域へキッチンカーを走らせました。
星野さんが避難所に到着すると、避難していた皆さんは、行政が備蓄していたわずかな食糧を分け合って食べている状態でした。さっそく星野さんがキッチンカーでサッと焼きそばを焼き上げて提供すると、その料理の温もりに歓声が上がり、避難されていた皆さんは口々にこう言ったそうです。
「明日も来てくれませんか?」
しかし、避難が長期化するにつれ、被災した皆さんの健康状態が心配されるようになります。栄養士の資格を持つ星野百代さんは、栄養バランスを考慮した日替わりの「一汁三菜弁当」を考案。温かい味噌汁と一緒に提供していきました。
さらに、ボランティアチームが組織されて知り合った宮腰さんから、避難所に来られず「在宅避難」を続けている人も多いことを知ります。そのため宅配弁当を始めたところ、大いに喜ばれたそうです。
星野さん夫妻と宮腰さんたちの炊き出しボランティアは年をまたいで続けられ、1日最大800食、のべ約4万食に上りました。しかし2020年4月、突如炊き出しが終わる日がやってきました。新型コロナウイルス感染症の「緊急事態宣言」が出されたのです。
長沼地区周辺では復旧が進み、実は年が明けたころから、全国から訪れていたボランティアの方々が徐々に少なくなっていたそうです。
さらに、もともと地域に住んでいた人々のなかにも、同じ場所での家の再建をあきらめ、他の地域へと移り住んでいく方が増えていました。町から人が消えていく様子を見て、星野良和さんは思います。
「このままでは、この町が潰れてしまう。私はこの町の皆さんに、4万食の弁当をつくれるという大きな自信をいただいた。そのお礼のために、炊き出しを食べてくれた皆さんが集まれる場所をつくれないだろうか」
そんな折、炊き出し場所として駐車場を提供してくれた大家さんが、閉店した店を「自分たちでリフォームするなら使ってもいいよ」と言ってくれました。一方、宮腰さんも星野さんの信念に感銘を受け、仕事を辞めて星野さんと一緒に新たな店づくりに向けて走り出します。
そして2021年2月、「炭火焼肉ジンギスカン もんも」は開店の日を迎えました。「一刻でも早く町おこしをしないと地域が持たない」という危機感から、採算度外視でスタート。「少しでもりんご農家の皆さんの力になりたい」と、ジンギスカンに漬け込む「たれ」は地元産のりんごを使って開発しました。
しかしコロナ禍の真っ只中だったため、お客さんは、来ても1日1~2組という日が続きます。それでも状況が少し落ち着いてくると、次第にかつてボランティアに参加した皆さんが店に集うようになってきました。
「あのとき一生懸命炊き出ししてくれた人の店を潰してしまったら、この町の恥だ」
地元の方もそう言って、店を支えてくれました。星野さん夫妻も「そんな地元の皆さんに寄り添いたい」と、約40キロ離れた信州新町から、店の近くに移り住みました。
台風被害から4年。復興の度合いは、それぞれのお宅によってさまざまです。新たなまちづくりを考えたい方もいれば、台風のことは忘れてしまいたい方もいます。そんななか、2023年で7回目の開催となるイベント「ながとよマルシェ」は、初めて「復興」の2文字が取れ、新たな地域活性化のステージへ入ることになりました。
星野良和さんは、災害ボランティアも次の世代へつなぎたいと考えています。4年前、星野さんが息子さんを炊き出しに連れていった際、こんな質問をされたそうです。
「パパ、いつも『うちは貧乏だ、貧乏だ』って言ってるのに、どうして炊き出しをするの?」
良和さんはこう諭しました。
「避難している皆さんはいま、食べるものがないんだ。でも、幸い家には食べるものがある。だったら、その食べ物を分け合ってもいいんじゃないか? そんな心を持ちなさい」
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